ホーム inNavi Suite 東芝メディカルシステムズ Seminar Report腹部画像診断の新たな可能性 泌尿器画像診断の新たな展開〜320列 Area Detector CTを用いて〜 陣崎雅弘 慶應義塾大学医学部放射線科学教室准教授
第25回日本腹部放射線研究会ランチョンセミナー1
腹部画像診断の新たな可能性
第25回日本腹部放射線研究会が2011年6月10日(金),11日(土)の2日間,大阪市中央公会堂にて開催された。初日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医学教授の金澤右氏が座長を務め,慶應義塾大学医学部放射線科学教室准教授の陣崎雅弘氏と,医療法人住友別子病院放射線部長の加藤勤氏が講演した。
泌尿器画像診断の新たな展開〜320列 Area Detector CTを用いて〜
陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室准教授)
泌尿器画像診断における最近の最も大きな変化は,取扱い規約の改訂である。
2010年12月に前立腺癌(第4版),2011年4月に腎癌(第4版)と腎盂・尿管・膀胱癌(第1版)の取扱い規約が同時に改訂された。ほかにも,腎癌の分子標的療法やCT urography,被ばく低減技術,Dual energy CT,拡散強調画像などが,進歩として挙げられる。本講演では,これら取扱い規約の改訂のポイントを中心に,320列Area Detector CT「Aquilion ONE」の技術についても報告する。
■腎癌
1)腎癌取扱い規約の改訂
腎癌取扱い規約には,画像診断に関する「腫瘍の評価法」,「病期診断」,「画像診断所見の統合」の3項目があるが,4月の改訂で「質的診断」が追加された。この質的診断には,「組織型ごとの画像所見」「Bosniakの分類」「血管筋脂肪腫の画像所見」の3つの項目が記載された。また,組織型を2004年のWHO分類に準拠したことで,これまでなかった,Xp11.2転座型腎癌,神経芽細胞腫随伴腎癌,粘液管状紡錘細胞癌というまったく新しい組織系が追加されている。病期診断ではいくつかの変更があるが,腎静脈内腫瘍塞栓がT3bからT3aに変更になったことと,副腎浸潤がT4になったことが主である。
2)新たな組織型の画像所見
今回の改訂で追加された組織型はいずれもまれな疾患で,画像所見の報告がほとんどなく,Xp11.2転座型腎癌では1例報告で乳頭状腎癌との類似性が指摘されているのみである。そこで,Xp11.2転座型腎癌について多施設で症例を集め,画像所見を検討した。4施設9症例の転座型腎癌,および約50例の自検例の乳頭状腎癌を比較検討した。Xp11.2転座型腎癌は,単純CTで腎実質の濃度よりも高く,造影効果が比較的高い腫瘍であることから,乳頭状腎癌と鑑別できる可能性があることがわかった。Xp11.2転座型腎癌には分子標的療法が有効であると言われているが,造影効果が高く,vascularityに富む腫瘍であるためと考えられた。また,このようにまれな疾患は,日本腹部放射線研究会で症例を集約して画像所見を検討していくと有用ではないかと考えている。
3)perfusionによる効果判定と課題
分子標的療法には,VEGFのレセプターのチロシンキナーゼの阻害と,mTOR阻害剤の2種類がある。いずれも血管新生を抑制する効果が強く,血管腫の減少という効果を持つため,RECISTで評価をしてもPartial response rateが10%程度にしか見られないなど,効果判定が難しい場合がある。そこで,新たな判定法として,CT perfusionやMR perfusionが期待される。
Fournierらの報告1)によると,CT perfusionの血流量評価で,total blood flow(TBF)やtotal blood volume(TBV)は,プラセボ群に比べて明らかに投与群の血流量が低下し,また,responderとstableを比べても有意差があった。また,投与開始2か月後の評価で,TBFが50%以上減少している群は予後が明らかに良いことから,2か月後に予後判定ができる可能性があると報告している。ここで用いられたperfusion studyは,30秒間の息止めの後に息継ぎをするため,位置が若干ずれていている可能性もあり,より精度の高いperfusion sutudyで評価できれば,その有効性を検証できる可能性がある。
4)呼吸下位置合わせを可能にするBody Registration
このような位置ズレに対して東芝メディカルシステムズ(株)は,“Body Registration"という非線形位置合わせのソフトウエアを開発している。これにより,形状や時相の異なる臓器同士の位置合わせが可能となり,呼吸状態でも息止めをしているような,辺縁がスムースな画像が得られる(図1)。呼吸下撮影が可能なことによる患者負担の軽減と,位置補正による精度向上が図られている。
Fournierらの論文1)では,64列マルチスライスCTを用い,1回転1秒で4cmの範囲を撮影してDLP(dose-length product)が314mGy・cmと報告されているが,Aquilion ONEでは,従来の4倍である16cmの範囲をDLP612.5mGy・cmで撮影できる。これを実効線量に換算すると約9mSvとなり,通常の胸腹部CTを撮影する程度の線量でCT perfusionの撮影が可能であることを意味する。
治療前後のCT perfusionを見ると,治療前には比較的vascularityが高い転移巣が見られたが,治療後は明らかに血流の低下が認められる(図2)。解析は,流入血管と対象組織にROIをとり,現在はMaximum Slope法でTBF(組織血流量)を測定する(図3)。今後,Compartment Model法が使えるようになれば,blood volume(BV)やmean transit time(MTT)の計測も可能となると思われる。
図1 Body Registration |
図2 治療前後のperfusion MAP比較 |
図3 CT perfusionの解析画面 |
腎盂・尿管・膀胱癌
1)重視されるCTU
腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約改訂の最大のポイントは,別々だった腎盂・尿管癌と膀胱癌の取扱い規約を1つにまとめたことと,CT urography(CTU)を全面に出していることである。
これまで,EU(Excretory Urography:排泄性尿路造影)との比較における,CTUの上部尿路上皮癌の診断能の優位性を示す論文はほとんどなかった。そこで,われわれは,CTUとEUによる上部尿路上皮癌の診断能について検証し,血尿のあった連続した128例のうち46例(44%)の上部尿路上皮癌で,感度,特異度,正診率のいずれもEUに比べCTUが高く,明らかにCTUの診断能が高いという結果を報告した2)(図4)。EUでは検出できない腫瘍が,CTUの横断像では明瞭に描出されるが,EUに比べCTUは被ばく線量が多いことが課題であった。EUの被ばく線量は5mSv程度に対し,CTUは,単純,造影,排泄相の3相を撮影すると,15〜20mSvの被ばく線量となる。
2)AIDR 3Dの有用性
東芝メディカルシステムズ(株)には,信号とノイズを分離してノイズのみを選択的に抽出し,繰り返し平滑化処理をして逐次ノイズを低減する被ばく低減技術“AIDR”がある。AIDRに続き,新しく開発されたのが“AIDR 3D”である。これは純生データレベルで,統計学的モデル,スキャナモデルを考慮し,投影データ上でノイズやストリークアーチファクトを効果的に除去する再構成法である。これにより,CTUの課題である被ばく低減を非常に有効に行える可能性がある。通常の約半分に線量を下げたプロトコールでCTUを撮影し,AIDR 3Dで再構成すると,どの相においても,ほとんどアーチファクトのない画像を得られる(図5,6)。
図5 AIDR 3D使用有無の比較(単純CT) |
図6 AIDR 3D使用有無の比較(排泄相) |
AIDR 3Dにより,どの程度被ばく低減が可能かについて,“Noise Simulation”という,データに仮想的にノイズを加算する手法で,段階的に被ばく低減をした画像を用いて検証した。40%の被ばく低減あたりから,従来の再構成法では評価不可能となるのに比べ,AIDR 3Dを用いるとコントラストがついて評価できるようになる。この検証から,60〜80%の被ばく低減でも,評価に耐えうる画像を取得することができる可能性が示唆された(図7)。
●参考文献 | |
1) | Fournier, L.S., et al. :Metastatic Renal Carcinoma;Evaluation of Antiangiogenic Therapy with Dynamic Contrast-enhanced CT. Radiology, 256, 511〜518, 2010. |
2) | Jinzaki, M., et al. :Comparison of CT Urography and Excretory Urography in the Detection and Localization of Urothelial Carcinoma of the Upper Urinary Tract. AJR, 196・5, 1102〜1109, 2011. |