シーメンス・ジャパン株式会社
Technical Note

2005年10月号別冊付録
革新のインターベンショナル3Dイメージング DynaCT & AXIOM FDi concept

Angio−DynaCTの技術的特長

林 昭人
シーメンス旭メディテック株式会社
メディカルソリューションマーケティング本部
AXビジネスマネジメントグループ


はじめに

RSNA2004における当社ブースでの発表以降,DynaCTは頭部・腹部インターベンション領域において,世界的に大きな反響を巻き起こしている。特に日本国内での評価は高く,製品リリースが2005年5月であったにもかかわらず,すでに 12施設(2005年8月現在)での稼働が始まっている。
本稿では,このDynaCTの技術的特長について紹介する。

システムの概要と開発経緯

DynaCTシステムは,30cm×38cmのフラットディテクタ(以下,FD)を搭載した当社アンギオ製品上(図1)にて機能し,Cアーム本体,画像処理ワークステーション,および検査室内の画像モニタと制御用コントローラから構成される。撮影時にはCアームを5〜20秒かけて約200度回転させ(図2),1024×1024マトリックス,14bitの投影データを約150〜600プロジェクション収集する。この収集データは,自動的に専用ワークステーションに転送され,散乱線除去,アーチファクト低減などの補正処理の後,コーンビーム再構成アルゴリズムにより再構成される。再構成されたスライスデータは,自動的に3D表示ソフト上に読み込まれ,検査室内モニタに立体断面画像として表示される(図3)。従来のCアーム三次元再構成装置では,CT値換算で約200HU以下の濃度差の分離は困難であったが,DynaCTでは10mm/10HU(16cmCATPHANファントム)の密度分解能を得ることができ,従来は困難であった低濃度領域の3D/2D表示を可能にした(図4)。
このDynaCTは,基本的にCアーム回転によるコーンビーム再構成技術を応用したもので,1997年に始まるI.I.方式によるCアーム三次元画像再構成機能の開発に端を発しており,アンギオ装置本体や再構成処理を行うワークステーションの高機能化を経過しながら,造影血管や骨組織などの高コントラスト領域の三次元表示を目的に,頭部・腹部インターベンション手技に有効な機能として普及してきた(図5)。そして,この変遷の中で,DynaCTの特長である低濃度領域や軟部組織の描出を実現させたのが,次に紹介するFDの搭載と画像補正アルゴリズムの開発である。


図1 シーメンスのFD搭載アンギオ製品
図1 シーメンスのFD搭載アンギオ製品
(左から,AXIOM Artis dFA→AXIOM Artis dTA→AXIOM Artis dBA)

図2 データ収集の仕組み
図2 データ収集の仕組み

図3 DynaCTのデータフロー
図3 DynaCTのデータフロー


図4 DynaCTの高い密度分解能
図4 DynaCTの高い密度分解能

  図5 DynaCT開発の流れ
図5 DynaCT開発の流れ

FD検出器の搭載

DynaCTで使用するのは,頭腹部用に開発された視野30cm×38cmのFDである。X線を捕捉し光に変換するシンチレータに,高い吸収変換効率値を持つCsIを採用し,大視野でありながら65%という高いDQEを実現させた。この蛍光体は柱状の結晶を形成しており,光を散乱させることなく,検出部へ伝達することができる。一方,誘導された光を検出し電荷量に変換するのが検出部である。1920×2480,154μmという緻密なマトリックス上に配置されたアモルファス・シリコンの素子群は,14bitという高いダイナミックレンジを有する。得られた信号は高速に読み取られ,大容量のデータ伝達系を経由し,データ処理部へ送られる。10bitもしくは12bitの階調しか得られないI.I.検出器に対して,14bitの階調を持つFDのデータは,ダイナ ミックレンジが広く,かつサンプリング間隔が小さいため,異なる組織間の描出能を決定する密度分解能を向上させることが可能になった。また,FD検出面は完全にフラットなため,I.I.検出器に特有な画像の幾何学的な歪みが生じにくく,3D回転撮影時における正確な空間データ収集が容易になるという利点もある(図6)。

  図6 FD(左)とI.I.(右)の比較
図6 FD(左)とI.I.(右)の比較

画像補正アルゴリズム

FDの搭載により密度分解能が向上し,実際に低コントラスト領域の表示を行おうとすると,画像上の各種アーチファクトの存在が無視できなくなる。これらはI.I.方式での3D画像上においても存在しているが,造影血管などの高コントラスト領域のみが対象になっているため,しきい値の関係で視覚上はほとんど問題にならない。しかし,FDによる低コントラスト領域の良好な描出のためには,従来は搭載していなかった各種の補正アルゴリズムを備える必要がある。以下に,代表的な補正アルゴリズムを示す(図7)。


図7 DynaCTの画像補正アルゴリズム
図7 DynaCTの画像補正アルゴリズム


1.Active Dose Control
データ回転収集時に照射条件が一定である場合,人体内部のX線吸収差の異なる組織配列により,サチュレーションによるアーチファクトを発生する場合がある。これを防ぐため,回転中の透過X線量をモニタし,X線電圧をリアルタイムで追従変動させるのがこの機能である。人体内部での均等なX線吸収が可能になり,アーチファクトを減少させることができる。なお,この時の電圧変動値は,後述の散乱線除去アルゴリズム,およびビームハードニング補正アルゴリズムにおける演算処理時にも考慮されている。

2.Scatter Correction
散乱線の画像への影響を抑制するための補正アルゴリズムである。本来,散乱線の除去のためには,グリッド等の付加デバイスや補正のための追加データ収集(回転撮影)が効果的ではあるが,DynaCTがインターベンション機器であることを考慮すると,機器の大型化や複雑化,また,被ばくの増大は防ぐべきである。このため,補正はソフトウエア上で行う。処理に当たっては,逐次近似法を用い,再構成→散乱線分布の予測→投影面からの影響の除去→再構成の処理を数回繰り返す。
この補正により,最終的な再構成データ上の散乱線の影響を抑制することができ,カッピング,ストリーク,ダークバンドといったアーチファクトの除去,また,ノイズの増加や低コントラスト分解能の悪化を防ぐことができる。

3.Beam Hardening Correction
物体を透過するたびにX線は,その線吸収量に応じて線質を硬化させてしまい,画像再構成の前提となる出力時のX線エネルギースペクトル情報が失われる。このため,撮像領域周辺部に分布した高吸収体の内側などに,特有の濃度上昇を引き起こす。このアーチファクトはビームハードニング現象として,CTでも一般的である。この現象を抑制するため,投影値と線吸収量との関係を水等価物質の透過を仮定にマップ化しておき,画像再構成時にはこのマップにより補正された投影値を用いる。

4.Truncation Correction
CTにおいて,対象物体に対し相対的に小さなFOVで撮影された画像では,FOV外の吸収量を考慮しないと,濃度エラーとしてFOV周辺部に対象形状の変化を伴う強度のアーチファクトを伴う。このため,通常はCTではFOV外の測定データも,補正値として演算処理に反映される。しかし,CTと比べて,最大FOVの小さなアンギオ装置の検出器では,直接測定できる範囲に制限がありFOV周辺部のアーチファクトが避けられない。これを抑制するため,得られた投影データプロファイルをX軸方向に外挿法を用いて拡張し,この拡張プロ ファイルデータを用いて画像再構成を行う。

5.Ring Artifact Reduction
CTでよく知られているリングアーチファクトに対する抑制機能である。事前に得られているキャリブレーションデータによりリング成分を抽出しておき,収集データによる再構成画像からこのリング成分を相殺させて除去する。この際,リング外の微細な低コントラスト領域への悪影響を防ぐため,フィルタリングは高コントラスト成分を中心に,画像中心(アイソセンター)から放射方向に行う。


画像性能

前項で述べたとおり,従来からのCアームによるコーンビーム再構成に,広く緻密なダイナミックレンジを持つFDと,各種の高度な補正アルゴリズムを加えることで,生成画像の密度分解能を大幅に向上させることができる。従来I.I.においては,CT値換算で対象形状の大きさにかかわらず,200HU以下の濃度差の分離は困難であったが,DynaCTでは10HU/10mm(16cm CATPHAN)を実現しており(図8),CT装置には及ばないものの,低コントラスト領域における描出能が向上し,軟部組織の3D/2D表示も可能になった(図9)。一方,ピクセルサイズは従来I.I.方式と同じ(最大FOV時:約0.42mm,最小FOV時:約0.13mm)であるため,限界性能としての空間分解能は変わらない。しかし,ピクセル間の濃度連続性が向上しているため,通常の臨床においては微細な連続組織の視認性は向上している(図10)。
DynaCTの持つこれらの優れた画像特性は,画像面において幅広い有用性を生み出している。1つ目が軟部組織の描出である。従来の三次元血管像に加え,病変部を含む軟部組織の任意の断面像,三次元像を画像化でき,インターベンション支援システムとして,CT装置に替わる機能性が期待できる。2つ目が微細な構造体の描出である。完全に立方体のキュービックなボクセルデータに,高い濃度連続性が加わることで微細な構造体の視認性が向上。末梢血管や緻密な骨構造など,従来の三次元画像についても描出能向上が期待できる。MSCTのような撮影ピッチによるz軸方向へのスライスプロファイル形状の変化もなく,走行方向に依存せず,常に均等な空間分解能が維持できることも大きな特長である。


図8 DynaCTで撮影した16cm CATPHAN
図8 DynaCTで撮影した16cm CATPHAN

図9 低コントラストでの高い分解能
図9 低コントラストでの高い分解能
図10 視認性の向上
図10 視認性の向上

まとめ「インターベンション・ツールとしてのDynaCT」

低濃度病変部の把握,組織中への出血有無の確認,治療方針の決定や術中ナビゲーション,さらに将来へ向けた新しい診断・治療への応用など,DynaCTは,透視,撮影に続く第3のアイテムとして,インターベンションにおける戦略性の向上に寄与することができる。また,被検者の移動負担軽減,ワークフローの効率化,安全性の向上,コストの軽減など,運用面においても高い能力を発揮することが期待される(図11,12)。
FDのメリットを最大限に生かすシーメンスのFD開発コンセプト“AXIOM FDi”に基づいて生み出されたDynaCT。機能性は言うまでもなく,インターベンション・ツールとしての統合性,発展性をも見据え,今後もユーザーが望んでいるバランスの良い製品づくりを継続していきたい。


図11 運用面でも高い能力を持つDynaCT
図11 運用面でも高い能力を持つDynaCT
図12 DynaCTの位置づけ
図12 DynaCTの位置づけ