ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン Technical Note 体幹部の多角的な診断を可能にするMR最新技術 ─ 歪みを低減したDWI,局所励起,MR-PET同時収集
2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
シーメンスは臨床的価値の高い画像を提供するために,体幹部のMRIにおいては円筒形の均一磁場"TrueForm",3T装置の多チャンネルRF送信技術である“TimTX”,広範囲をカバーする高密度受信コイル“Tim(Total imaging matrix)”,そして,精度の高い横隔膜ナビゲータ“2D PACE”を備えている。これまでは,いかに体動補正を行いアーチファクトの少ない画像を得るかが課題であった体幹部領域であるが,近年は一歩進んで,より多角的な診断を可能にするアプリケーション・ハードウェアの両面での技術革新が行われた。本稿では,その最新技術を報告する。
■歪みを大幅に抑えた拡散強調画像
近年では,装置の性能向上により体幹部においても拡散強調画像(DWI)が撮像可能となり,がん組織などを検出する手法として有用性が注目されている。一方で,磁化率の影響による画像の歪みが大きいため,撮像方向が制限される問題があった。シーメンスはRSNA 2011において,歪みを大幅に低減した新しいDWIアプリケーション“syngo RESOLVE”1)を発表した。
syngo RESOLVEは,マルチショットEPI(msh-EPI)によるDWI撮像法であるが,従来法と異なりリードアウト方向にk-spaceを分割して信号収集を行う点に特徴がある(図1 a)。DWIの歪みの原因はプロトンの位相分散であるが,k-spaceを複数のショットに分割し,またパラレルイメージングを組み合わせることによって,従来のシングルショットEPI(ssh-EPI)に比べて1ショットあたりのデータ収集時間を短縮し,位相分散を抑えて歪みを低減している。また,1回の励起でイメージングエコーとナビゲータエコーを併せて収集していることも特徴である(図1 b)。このナビゲータエコーは,k-spaceの中心を通るショットを毎回収集し,得られたエコーの位相分散の大きさを判定するのに用いられる。位相分散の程度が閾値よりも大きなショットのデータは棄却され,自動でデータの再取得が行われるほか,採用されるデータについても位相補正を行いk-spaceの連続性を高めるのに用いられる。このナビゲータエコーによって被検者の体動によるアーチファクトを抑えており,動きに対してより強いことが従来のmsh-EPIよりも優れている点である。
図1 syngo RESOLVEのデータ収集とシーケンス1)
制限となる点は,従来のssh-EPIよりも撮像時間が延長されることであるが,身体の各部位で従来困難であったコロナル/サジタルベースの効率的なDWI撮像が可能となり(図2),さらに歪みが抑えられた空間分解能の高いDWIが得られるメリットがある。このsyngo RESOLVEにより,体幹部DWIの臨床利用の拡大が期待される。
図2 syngo RESOLVEによる体幹部のcor-DWI例
■局所励起による臓器の高精細な撮像
体幹部の病変に対しては,T1,T2, DWIなどの複数のコントラストを撮像し,必要に応じて重ね合わせ画像を作成して病変の広がりを診断するなど,多角的な情報が診断に有用となる。しかしながら,折り返しアーチファクトの影響を避けるためにFoVを大きく取る必要があり,DWIの歪みが重ね合わせの精度にも大きく影響する。もし,撮像のために関心領域のみを局所的に励起できれば,FoVを絞った撮像が可能となる。
シーメンスはRSNA 2011において,パラレル送信技術“TimTX TrueShape”と,局所励起のアプリケーション“syngo ZOOMit”を発表した。局所励起の基本的なアイデアは,通常は1軸方向のグラジエントとRFパルスを用いて行うスライス選択に対して,もう1軸方向のグラジエントとRFパルスを加えることで2軸でスライス選択を行い2),矩形の領域を励起するというものである(図3)。実際には,局所励起に加えてB0とB1の補正も行うため,2ch送信するRFの強度と位相には複雑な制御が求められる。その制御を可能にするのが,パラレル送信技術のTimTX TrueShapeである。
図3 TimTX TrueShapeによる局所励起
syngo ZOOMitによる局所励起は,身体のどの領域に対しても任意の部位を選択的に励起することができる。それにより関心領域外からのアーチファクトの影響を低減し,また,データ収集時間を短縮して画質を向上させることが可能である。体幹部においては,任意の臓器のみを含む矩形領域を選択的に励起した撮像を行うことが可能であり(図4),syngo SPACEによる高分解能の3D撮像に加えて,EPI-DWIでは歪みが低減された画質の高いDWI画像を得ることができる。これにより,重ね合わせの精度が向上して診断能の向上が期待できるほか,腎臓ではADCやFA(Fractional Anisotropy)による腎機能の評価などへの応用が期待されている(図4 b)。
図4 syngo ZOOMitによる腎臓と膵臓の選択励起DWI
■MRとPETの同時収集
前述のとおり,病変部位にはさまざまな情報を持つ画像を重ね合わせることで診断能の向上が期待されるが,その広く知られている例はPET-CTである。一方で,MRはCTと比べて軟部組織のコントラストに優れ,X線被ばくがないなどのメリットがある。組織の形態画像に優れるMRと,生体学的情報に優れるPETを組み合わせることで,病変に対して総合的な生体情報に基づく診断が可能になると期待される。シーメンスは,PETとMRのデータを同じガントリ内で同時収集する全身統合型MR-PETシステム「Biograph mMR」を初めて製品化した。欧州および米国では先駆けて臨床向けの販売が開始され,導入施設が増加している(2011年12月時点で15台)。日本でも,この2月に国内薬事承認を取得した。
本装置で達成される同時収集には一つの大きなメリットがある。それは,MRのデータ収集で得られる体動補正の情報をPETの画像再構成にも利用する点であり,これによりPETの画質を向上させ,より小さな病変についても重ね合わせの精度を高めることが可能である(図5)。この同時収集による重ね合わせ精度の高さに基づき,画像所見のミスマッチから得られる情報にも大きな注目が集まっている。すなわち,MRによる拡散・造影効果・permeability・代謝情報などとPETの集積が一致する/しないという情報からは,単一の画像だけでは得られない病変組織の生理的な情報が得られる可能性がある。これは,PETにも体動補正をかけながら,MRと同時収集を行う本装置ならではの特長である。
本装置は体幹部や全身の腫瘍診断をはじめ,神経疾患や小児,心臓などの全身の疾患診断において大きな活躍が期待されている。
図5 MRとPETの同時収集と重ね合わせ
シーメンスMRの最新技術と体幹部への応用について報告した。歪みを大きく抑えたDWIや局所励起による臓器の高精細な撮像,MR-PET同時収集による精度の高い重ね合わせ画像からは,これまでにない多角的な情報に基づく診断が得られる可能性がある。
●参考文献 | |
1) | Porter, et al. : High Resolution Diffusion-Weighted Imaging Using Readout-Segmented Echo-Planar Imaging, Parallel Imaging and a Two-Dimensional Navigator-Based Reacquisition. MRM, 62, 468〜475, 2009. |
2) | Alley, et al. : Angiographic Imaging with 2D RF pulses. MRM, 37, 260〜267, 1997. |