ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン Technical Note MR検査のワークフローを改善させるための仕組み
2011年9月号
Step up MRI 2011−MRI技術開発の最前線
MR検査はCT検査に比べて,一般に検査時間が長いとされている。1スキャンあたり数十秒〜数分を要するT1強調やT2強調など,複数の画像コントラストで同一部位を撮像することが要因の1つである。パラレルイメージング1)の登場により,1スキャンあたりの時間がおよそ1/2,またはそれ以下に短縮されたことによって撮像時間そのものは短縮された。
しかし,より良い画像を得るためには撮像条件の最適化と,適切なMRI信号受信コイル(アンテナ)の装着が必要である。MR装置が高性能化されている現在においても,人の手が必要となる“条件最適化”と“コイル装着”が,検査スループットを向上させるためのボトルネックとなっている。
本稿では,これらの作業時間を短縮することで検査全体のワークフローを改善するための仕組みとして“Tim”と“Dot”について紹介する。
●Tim(Total imaging matrix)
シーメンス製MRIである「MAGNETOM Avanto」において,2004年から採用されている受信コイルシステムである。使用頻度の高い中枢神経系で用いられる頭部コイル,頸部コイル,脊椎コイルを,常に寝台上に設置しておくことができるため(図1),コイルの交換の手間がなくなる。通常のコイルは数kg〜十数kgの重量があるので,コイルの交換がないだけで大幅な作業負担と時間の軽減になる。
Timのもう1つの大きな特長は,これら各部位専用のコイル同士を組み合わせて,任意の範囲をカバーする広範囲コイルとしても使えることである。例えば,頭部検査において頸動脈から胸部血管撮像を追加する,上腹部の精密な横断像に全体幹部の広範囲撮像を追加する,という要望にその場ですぐに対応することが可能である。
一方,受信コイルを多数取り付けたり,広範囲の信号を受信するコイルになると,必要な部分のSNRが低下したり,折り返しアーチファクトが増大したりという懸念が生じる。Timはこれらの問題を回避するために,Auto Coil Select機能を有している。これは,撮像計画において設定されたスライス位置をカバーするために,必要十分なコイル素子のみから信号を受信し,それ以外の素子からの信号は受信しないという機能である。各コイルの位置とスライス位置から,必要なコイル素子を自動的に選択するため,オペレータは,検査に必要なスライス位置設定だけに集中することができる。
Timを搭載したシーメンス製MRIは,すでにわが国において550台以上(2011年6月現在)の稼働実績となり,検査効率と高画質が求められるMR装置において広く認められている。
●Dot(Day optimizing throughput)エンジン
上記Timシステムを進化させた“Tim4G(Total imaging matrix 4th generation)”を搭載した最新型MR装置の「MAGNETOM Skyra 3T」(図2)と「MAGNETOM Aera 1.5T」は,臨床用MR装置として唯一(2011年6月現在)の48チャンネルという独立受信システムを実現し,制限のないパラレルイメージングの適用と高いSNRを特長として,2010年から販売開始された。
被検者の居住空間を大きくすることで快適なMR検査を実現する70cmオープンボアなど,他に類を見ないハードウェアの特長を持っているが,ユーザーインターフェイスにも画期的な仕組み"Dot"を取り入れている。
Dotは,MR検査の効率と再現性をいままで以上に高めるために可能なかぎり操作が自動化されているが,それだけでなく,オペレータや被検者の特性に合わせた撮像方法を選択するために,各施設のMRエキスパートのノウハウを装置に組み込むことができるように設計されている。
●Dot─3つのコンセプト
Dotは,3つの基本コンセプトに基づいて設計されている。
1.Personalized
被検者ごとの状態は異なり,また,同じ被検者でも検査中に状態が変わってしまうことがある。Dotエンジンにより,どのような場合でも安定した画像が得られる。例として,被検者の体格に合わせて,自動的に長方形FoVを設定するAutoFoV機能がある。
2.Guided
スライス位置決めやECG電極の最適な位置など,撮像マニュアルや試行錯誤に頼らず,装置が必要なガイダンスを示す。例として,煩雑な心臓検査のスライス位置決めや,ダイナミック撮像時のスキャンタイミングの設定を簡単に行うためのGuidance View機能がある。また,被検者名だけでなく,ECG信号を表示できるDot Displayには,最適なECG電極貼り付け位置も表示される(図3)。
3.Automated
撮像時のテーブル位置,コイルエレメント選択や撮像後の処理を自動化することで,撮像前後の操作負担を大幅に削減する。例として,接続コイルや被検者の体格情報によって,ライトマーカーを使わずに検査位置を磁場中心へ移動するAutoPosition,多数のコイルエレメントから撮像に必要なエレメントだけを自動的に選択するAutoCoilSelect機能がある。
オペレータの経験に関係なく,これらのコンセプトを現実のものとするためには,装置にあらかじめ組み込まれた機能だけでは不十分な場合もある。そこでDotでは,各施設にいるエキスパートのノウハウを,撮像マニュアルとして装置に組み込むことができるようになっている。単に操作画面をシンプルにしたり,操作を自動化したりするだけでなく,施設ごとの撮像方法を装置に組み込むことで,ワークフローを改善するだけでなく,オペレータ間の撮像方法のバラツキを防ぐことができる。
●Dot ─施設におけるノウハウの蓄積
事前に装置に組み込まれている自動化だけでなく,施設独自の検査手順や撮像方法を組み込むことで,オペレータにとってより快適で確実な操作環境になる。経験豊富なオペレータや医師と協力することによって,熟練者の撮像ノウハウを装置に組み込んでいけば,オペレータのローテーションによる画質のバラツキや,新任オペレータの教育にかかる時間を少なくすることができる。組み込み方法も複雑ではなく,プレゼンテーションを作成するような感覚である。
1.Dot On Board Guidance(図4)
同じ検査部位であっても,症例ごとにスライス設定が異なる場合がある。これまでは操作マニュアルを作成して対応される施設が多く,検査のたびにマニュアルを開く必要があった。Dot On Board Guidanceでは,操作手順に沿ってスライス位置設定などの必要な操作を画面上に表示してガイドすることができる。
図4 Dot On Board Guidance
a:心臓検査において,ガイダンスに表示される部分をクリックするだけで短軸,長軸,四腔像の スライス位置決めが完了。この例では,5つの点をクリックして選択するだけで,全てのスライス位置が決まる。
b:肝臓の造影ダイナミック撮像において,注入開始から各時相のk-space中心までの時間設定を わかりやすくガイド。息止め時間を変更しても,各k-space中心のタイミングは一定に保たれる。
2.Dot Decisions
ルーチン検査では,一連の事前登録されたプロトコールを順に撮像していくが,得られた画像や被検者の状態によって途中で撮像条件を変更することがある。Dot Decisionsでは,その都度撮像条件を変更したり,他のプロトコールグループから選択し直したりするのではなく,あらかじめプロトコールを選択するタイミングと選択肢を登録しておくことができる。これにより,追加スキャンの条件を間違えたりすることがなくなる。
3.Dot Exam Strategies
通常よりも高分解能で撮像するのか,撮像時間を短縮するのか,息止め優先か呼吸同期優先か,あるいは不整脈が多いかなどによって,ルーチン用に登録された撮像条件を変更したり,あるいは想定されるプロトコールグループを複数用意されることがある。
Dot Exam Strategiesでは,検査中でも撮像条件の優先度を空間分解能,撮像時間,動きやすい被検者等に合わせることができる。これにより,数多くの撮像パラメータをその都度変更する必要がなくなる。
本稿では,検査内容が高度化しているMR撮像におけるワークフロー最適化の技術として,TimとDotを紹介した。Tim,Dotと合わせて70cmのオープンボアの3つの特長が,高機能でありながらスループットが良く,被検者の検査環境にも配慮したMR装置として,今後はスタンダードになっていくものと思われる。
●参考文献 | |
1) | Sodickson, D.K., et al : Recent advances in image reconstruction, coil sensitivity calibration, and coil array design for SMASH and generalized parallel MRI ; Magnetic Resonance Materials in Physics. Biology and Medicine, 13, 158〜163, 2002. |