ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン Technical Note短時間心筋血流SPECTを実現する“IQ・SPECT”
2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
心電同期心筋血流SPECTは,低侵襲的に虚血状態をより精度高く診断できる検査であるが,一般に20分程度の撮影を安静時と運動負荷時の2回行う必要があり,その間腕上げの状態を維持する被検者の負担は非常に大きい。臨床現場からは,その負担を軽減することが切望されている。本稿では,この点に関するハードウェアおよびソフトウェア技術を紹介する。
■IQ・SPECT
“IQ・SPECT”は,心臓検査用に開発された多焦点ファンビームのSMARTZOOMコリメータ,被検者を動かすことなく心臓を中心に円軌道収集する技術,そして,複雑なホール形状を有するSMARTZOOMコリメータに対応したコリメータ開口補正付き3D-OSEM画像再構成アルゴリズムから構成される。これにより,従来16〜20分必要だった撮影時間を,わずか4〜5分で行うことが可能となる。
1.SMARTZOOMコリメータ
頭部検査では,高い分解能・感度を実現するファンビームコリメータが使用されるケースが多いが,このSMARTZOOMコリメータは,横方向だけでなく,奥行き方向にもファンビームでガンマ線を検出する(3次元ファンビーム収集)。視野中心部で心臓を拡大収集し,視野辺縁部に向かって徐々にパラレルビームになる多焦点型であるため(図1),ボディトランケーションの発生によるアーチファクトの発生を抑えることが可能である。
図1 パラレルコリメータとSMARTZOOMコリメータ
2.心臓を中心とした円軌道収集
いままでも心臓用ファンビームコリメータは開発されてきたが,ファンビームで効率良く収集できる検出器回転中心に心臓が配置されるよう,被検者を寝台上で動かす微調整が必要であり,しばしば日常の検査の中にあっては適用できない場合もあった。このため,被検者だけでなく検査を行う側の負担も増え,また,回転中心がずれた場合に,画質・定量性の低下が生じることが大きな問題であった。
IQ・SPECTでは,SPECT装置ガントリーに搭載される患者位置決めモニタにおいて,表示される2つの検出器の位置決め画像上で心臓位置をセットする(図2)。この容易な操作だけで,システムが,心臓位置を回転中心となるよう,自動的に,検出器支持機構が左右に動く。IQ・SPECTによる心筋SPECT画像収集は,この状態のまま,円軌道回転により行われ,すべての角度において心臓が視野中心に位置された状態での画像収集が可能となる。また,検査前の被検者の微妙な位置調整も自動化される。
図2 患者位置決めモニタによる回転中心設定
3.コリメータ開口補正付き3D-OSEM画像再構成
画像再構成は,IQ・SPECT専用の画像再構成ソフトウェアを用いる。ベースとなるのは,3次元コリメータ開口補正を伴うOSEM画像再構成である。
だが,SMARTZOOMコリメータは前述のとおり,場所によってコリメータホールの方向・長さが複雑に変化する形状を有している。この複雑な形状に対し,ホール径やホール長などの幾何学的構造,検査で使用するさまざまな核種のガンマ線エネルギー,検出器クリスタル厚等を考慮した3Dビームモデルによる開口モデルの補正が,OSEM画像再構成のプロセス内に組み込まれる(図3)。
図3 IQ・SPECT多焦点ファンビームデータの画像再構成
4.IQ・SPECTによる短時間撮影
上記3つの技術により,IQ・SPECTは低エネルギー高分解能コリメータ(LEHR)と比較すると,同等の分解能でありながら4倍の感度を実現する。ファントム実験(図4)においても,収集時間16分のLEHR画像と比べ,収集時間4分のIQ・SPECT画像の方が高画質であることがわかる。海外の臨床例であるが,検査時間4分で十分な検査が実現できており(図5),検査時間の大幅な短時間化には,被検者の負担を大きく軽減するだけでなく,より高分解能撮影,より多分割心電同期撮影を実現することも期待できる。
図4 IQ・SPECTファントム画像
図5 IQ・SPECT臨床画像
心筋血流SPECTは低侵襲に,虚血情報を正確に診断できる非常に重要な検査であり,本稿で紹介した新しい技術が,いくつかの弱点を克服し,より高い診断能を提供することに期待したい。