ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン Technical Note「ACUSON SC2000」によるリアルタイムFull Volume Imagingの活用法
2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
世界初の3D心エコー装置が市販されて,10年以上の月日が過ぎた。その間に,3D心エコーはますます進化し,2009年にシーメンスは世界に先駆け,心電図同期を必要とせず,心臓全体(Full Volume)の3Dデータがリアルタイムに撮像可能な「ACUSON SC2000」を完成させた。これにより,過度な呼吸コントロールも必要なくなり,心房細動などの同期不全の被検者でもFull Volume Imagingの撮像が可能となった。3D心エコーの対象領域は,ますます広がっていくと期待されているが,撮像されたリアルタイムFull Volume Imagingにどのような活用方法があるのだろうか?
■活用法1:心臓を立体的に見る
3D心エコーの大きなメリットの1つは,3次元的に拍動している心臓を限りなく本来に近い状態で観察できることである。心房中隔欠損(図1 a)や僧帽弁逸脱(図1 b)など,解剖学的な変化を伴う疾患の理解が非常に容易であり,その動態までリアルタイムに観察できる点が,他の画像診断装置に勝る点である。
しかし,もともとの3Dデータセットは,一つのピラミッド様の大きな塊であり,最適な断面の3D画像を得るための編集作業には手間と時間がかかってしまう。この作業の面倒さが,3D心エコーがなかなか浸透し難い理由の1つでもあった。ACUSON SC2000では,この問題点を解決するため,簡単に最適な3D画像が得られるような機能を搭載している。それが“D'art(ダート)Navigation”という機能である。
3D表示の基本レイアウトは,図1のように,右側の現在描出している断面の3D画像と,左側のリファレンスプレーンと呼ばれる互いに直交する3つの2D画像で構成されている。D'art Navigationは,見たい方向,見たい範囲の始点と終点をリファレンスプレーン上に矢印で設定することで,その範囲の3D画像を描出する機能である。この機能を用いれば,Surgeon's Viewといった通常のスキャンでは得られない断面の3D画像も瞬時に描出可能である(図2)。
図1 立体で見る
図2 立体で見る:D'art Navigation
■活用法2:任意の2D断面を切り出す
忘れてはならない3D心エコーのもう1つのメリットが,心臓全体の3Dデータから任意の2D断面を切り出せることである。従来の2D心エコーでは,保存した画像以外の断面は再検査を行わないかぎり見ることはできない。図3 aは,心臓全体の3Dデータから切り出した多断面の左室短軸像である。あたかもCTで撮像したマルチスライスの断面でも見ているようであり,これにより心臓全体を見落としなく観察することが可能である。また,これらすべての断面は同一心拍で取得した画像であり,高い時間分解能でリアルタイムに多断面の壁運動評価が可能な点は,他の画像診断装置にはない3D心エコーによるリアルタイムFull Volume Imagingならではの優位点である。
実際の心エコー検査において保存される2D画像は,検査者の経験や熟練度などに依存してしまい,これが心エコーに常につきまとう再現性の問題の原因にもなっている。例えば,僧帽弁狭窄症において弁口面積を計測する場合,正確な僧帽弁口短軸像を描出するのは容易ではない。しかし,3D心エコーでは,短軸像と同時に描出される長軸像をガイドにしながら,正確な断面を抽出できるので,より客観的で精度の高い計測が可能となっている(図3 b)。
図3 任意の断面を切り出す
■活用法3:左室容量を短時間で正確に計測する
左室容量・駆出率は,心エコー検査において必ず計測される項目であり,独立した予後規定因子であることからも,これらの指標を正確に計測し,継続してフォローすることは患者様の予後にとって非常に重要である。3D心エコーによる左室容量計測が,幾何学的仮定に基づく2D心エコーからの容量計測よりも,高い精度を持つことは周知の事実である。従来の複数心拍からなるFull Volume Imagingでは,適応できない症例が存在したり,心電図同期による画像再構成時に誤差が内包されており,精度の面で不安を拭い切れなかったが,真のリアルタイムFull Volume Imagingの登場により,大幅に改善された。
さらにシーメンスは,左室容量を完全自動で解析するソフト“eSie LVA(イージーLVA)”を開発した。従来の3Dからの容量計測のように,3Dデータから真の心尖部断面を抽出したり,多断面をトレースする必要がなくなり,時間効率が格段に向上しただけでなく,完全自動なので再現性も向上している。トレース結果の確認を行い,必要な場合には,断面の抽出やトレースなどは修正も可能である。この技術の核をなす部分が,シーメンス独自の技術であるKnowledge-based workflowと呼ばれるものである。装置本体には,熟練者によってトレースされた多断面のトレース結果と,それに基づき完成した左室全体にわたるトレース結果がデータベースとして蓄えられている。その中には,正常例だけでなく,心不全や心筋梗塞といった種々の症例も含まれている。実際に取得された3Dデータを,データベースに照合させながら,ある特徴的なパターンを探し出し,各断面の抽出やトレースラインを同定させて左室容量を自動的に計測するわけである。3Dデータを取得し,eSie LVAを起動させれば,左室全体の1心周期にわたるトレースがわずか20〜30秒程度で完了し,時間容量変化曲線と,拡張末期容積,収縮末期容積,駆出率,1回拍出量などが表示される(図4 a)。
さらに,eSie LVAは左室16分画,17分画にも対応しており,各分画の容量が最小値を示すタイミングで,赤から青へとBull's eye上でパラメトリック表示する機能“Time to Peak Minimum Volume”も有している。心筋梗塞や,同期不全によるdyssynchronyの様子が一目で観察できる。図4 bは,下壁に陳旧性心筋梗塞を有する症例であるが,壁運動異常による収縮遅延部位が赤く表示されており,容易に特定が可能である。
図4 左室容量を計測する
真のリアルタイムFull Volume ImagingとeSie LVAによって,ルーチンワークフローに有用な多くの情報の取得,および再現性の高い正確な計測が簡便に行えるようになった。これらをうまく活用することで,3D心エコーはぐっと身近なものになると思われる。3D心エコーが基準となる新しいワークフローの構築のためには,まだまだ課題も多いが,これからのACUSON SC2000の進化に注目していただきたい。