シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2010年9月号
Step up MRI 2010−MRI技術開発の最前線

MRI−TimCT─Timを基礎とした最先端撮像技術

諸井 貴
ヘルスケア事業本部マーケティング本部MRマーケティング部

シーメンスのMAGNETOMシリーズに搭載されている技術には,未来のMRI装置のプラットフォームとなるために開発されたものが多く含まれている。現在,MAGNETOMシリーズの代名詞ともなった“Tim(Total imaging matrix)”もそのひとつである。Timのコンセプトや技術概念は独創的であり,「一体何に使うのか」,「広範囲撮像のための技術なのか」など,2004年の登場当初は戸惑いの声が聞かれた。しかし,ひとたび市場に導入されると,その使いやすさや高い検査効率性などの利点を理解してもらうのに,長い時間は必要としなかった。現在では広く市場に受け入れられ,MRI装置の新しいスタンダードとして競合他社も類似の技術を取り入れようと試みている。
本稿では,Timテクノロジー開発当初よりシーメンスがめざしてきた新しいMRI検査を紹介する。


●MRIの常識を変える発想

「MRI検査は動きに弱いので,検査中は動いてはいけない」。これは誰もが知っている“常識”であろう。シーメンスの開発陣は,こういった“常識”を変えることが未来のMRI検査の第一歩になると考えた。ヘリカルCTのように,テーブルを止めることなくデータ収集を行うことができれば,広範囲を高速に検査することができると考えたわけである。1990年後半当時,テーブルステッピング技術が多く発表され,また,各国の診療報酬形態の変化もあり広範囲撮像の要望も高まっていた。
テーブルを動かしたままデータ収集を行う“Continuous Table Move (CTM)”技術の報告例は2000年ごろから数例あったが,ガントリ内臓のボディコイルを用い,シーケンシャルタイプの2D超高速シーケンスによりデータ収集を行う方法であり,あくまでも研究開発目的のものであった。しかし,磁場中心でデータ収集できることは,臨床面から見ても大きなメリットと考えられた。
これらの技術を臨床検査で利用するためには,表1に示す技術が必要であり,そのために開発されたのがTimであり,“TimCT(CT=Continuous Table move)”である。TimCTは,CTMとTimの融合である。

表1 Continuous Table Move(CTM)を臨床検査に用いるための技術
表1 Continuous Table Move(CTM)を臨床検査に用いるための技術

●Auto Coil Detect & Auto Coil Select,そしてTimCT Adjustment

広範囲をカバーするフェイズドアレイコイルがあれば,簡単に高画質のCTM検査が行えるわけではない。ガントリ内臓のボディコイルでデータ収集するときにはなかった,さまざまな問題が発生するからである。例えば,テーブルが連続的に動くCTMでは,データ収集領域も体に対して動き続けていることになる。この問題を解決するためには,データ収集位置に合わせてコイルエレメントをスイッチングする技術と,体幹感部用フェイズドアレイコイル(など場所を移動できるコイル)の位置を正確に認識する技術の開発が必要となる。前者の技術を“Auto Coil Select”,後者を“Auto Coil Detect”と呼び,これら2つの技術はTimCTを行う上で必須のものと言える。
すなわち,Timは単なるフェイズドアレイコイル群をつなぐ技術ではなく,広範囲を効率的に検査するTimCTに必要とされる技術の基礎であると言える。
また,TimCTによる検査時(つまりテーブル連続移動時)においても,周波数や送信電波調整など各種アジャストメントは自動的に行われるため,通常の検査と変わらないワークフローを実現することができるようになっている。加えて,スライス位置決めなどのスキャン計画画面も,TimCT用のユーザーインターフェイス“Tim Planning Suite”が採用されている。従来のテーブルステッピング検査では,3〜5回の位置決めスキャンやスライス位置プランニングを必要としていたが,TimCTではいずれもたった1回で検査を進めることができる(図1)。もちろん,煩わしい調整やセッティングなどまったく必要とせず,いつもどおりの検査の流れを維持することができるわけである。TimCTの採用により,検査時間の大幅な短縮が期待される。

図1 従来検査とTimCTにおけるプロトコルの比較
図1 従来検査とTimCTにおけるプロトコルの比較
従来(Conventional)のテーブルステッピングによる検査プログラム(左)に比べ,TimCTでの検査プログラム(右)は半分になっている。
このため,大幅な検査時間の短縮が期待される。

●TimCT FastView

位置決めのための撮像においても,TimCTはその能力を発揮する。TimCT併用の位置決め撮像“TimCT FastView”を行うだけで,決められた領域の画像が再構成される。このときに特筆すべきは,得られた位置決め横断像は,即座に3軸方向にMPRされた形で表示されることである(図2)。頭側からMPR像が表示されるさまは,まさにX線CT装置の位置決め画像さながらである。

図2 TimCT FastView
図2 TimCT FastView
位置決め用に撮像された横断像から即座に冠状断面,矢状断面のMPRが作成表示される。

●TimCT Angio & TimCT Oncology

TimCTの技術が力を発揮する検査例として,造影MRAおよびがんの転移検索が挙げられる。これらの検査では,必要な撮像技術は異なってくる。例えば,造影MRAでは冠状断面ベースの3D撮像,転移検索では横断面ベースの2D撮像といった具合である。
冠状断面ベースの3D撮像では,テーブル連続移動を行いながら,3Dデータを収集が行われる。この際,撮像領域とともに収集されるデータも,スライディングしながらk-spaceに取り込まれる(図3)。出来上がる画像は冠状断面の広範囲画像となる。
横断面ベースの2D撮像では,シングルショットタイプシーケンスだけでなく,体動補正技術であるBLADE法を併用したマルチスライス高速スピンエコー(TurboSE)法や,造影後のT1強調撮像のためのグラディエントエコー(FLASH)法など,スライディングマルチスライス技術を用いることで,従来と同様の撮像法による検査を実現している。DIXON技術併用のFLASH法では,1回のテーブル移動で4つの異なるコントラストデータを収集することも可能となっている(図4)。

図3 TimCTにおける3Dデータ充填方法の概念図
図3 TimCTにおける3Dデータ充填方法の概念図

図4 TimCTによるDIXON画像
図4 TimCTによるDIXON画像
1回のTimCT検査で,4つの異なる画像情報を収集することが可能。

究極の技術をめざし開発し続けることがシーメンスの目標であり,今後も将来を見据えた技術開発に期待をいただきたい。なお,今回紹介した技術は,Tim搭載の既存システムであれば,バージョンアップにて対応することが可能である。



【問い合わせ先】 ヘルスケア事業本部マーケティング本部 MRマーケティング部 TEL 03-5423-8465