シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2010年7月号
Dual Energy Imagingの技術的特徴

CT−Dual Source CTによるDual Energy Imagingのアドバンテージ

宮西佐代子
マーケティング本部CT事業部

世の中のCTが多列化の一途をたどる2005年,われわれはあえてその道を選ばず,いままでのCTの概念を超えた画期的な装置である世界初のDual Source CT(DSCT)「SOMATOM Definition」を発表した。その後,2008年にはこれらの技術を継承し,さらに進化した第二世代のDSCT「SOMATOM Definition Flash」を発表した。
SOMATOM Definition Flashは,Dual Sourceの技術があるからこそなし得た“Flash Spiral”によって,これまでのCTでは実現することができなかった究極のスキャンスピードpitch 3.4(460mm/s)を実現し,これまで超えることができなかった“呼吸止め”の壁を超えた。そして,この技術を心臓に応用した“Cardio Flash Spiral”によって,さらなる被ばく低減を実現している。秀でた技術はこれらだけでなく,臨床適用できる唯一の存在として注目を浴びていたDual Energy Imaging(DE)もさらなる進化を遂げている。
本稿では,DEに求められている真意を,SOMATOM Definition Flashに搭載されている技術や機能に関連づけて概説する。


■ Dual Energy Imagingとは

DEは,物質の減弱がX線の平均エネルギーによって異なることを利用した画像化の手法である。異なる2つの管電圧に依存して,それぞれの組織,例えば骨,造影剤,脂肪,軟部組織などは組織組成に依存した異なるコントラスト差を生じるため,それぞれを適切に分離した画像化が可能となる。
DEの歴史は古く,Dual-Photon Absorptiometry(DPA)などのPhoton-Counting法1),2),Multi-Layer Detectorを用いたSandwich Detector法3),4)やDual Energy X-Ray Absorptiometry(DXA)に代表されるkV-Switching法5),6)など,さまざまな手法が各分野で研究がなされてきた。われわれシーメンスのCTにおけるDEの歴史は,1986年にkV-switching方式の「SOMATOM DR」7)がスタートとなるが,データ収集の手法においてロバスト性に欠けることから臨床応用されるには至らなかった。

■ Dual Energy Imagingに求められていること

DSCTのメリットとして時間分解能の高さがクローズアップされ,循環器領域においてはcardiac CTの最高峰としての地位をこの5年間で確実なものとした8)〜10)。それとともに,DSCTによるDEの臨床的有用性が多くの論文により証明されている11)〜15)。実際,1980年代後半から1990年代前半にいくつか出ていたDEの論文はその後皆無となっていたが,2005年のDSCT登場以降,急激に増加している(図1)。
CTにおけるDEの必要条件としては,(1) 空間的・時間的誤差を最小限にするために,異なるX線エネルギーによる同時撮影が可能であること,(2) 異なるX線エネルギーの差を可能なかぎり大きくすること,(3) 異なるX線エネルギーで撮影された画像が同等の画質(SNR)になるように,低エネルギー側に十分な線量をかけられること,(4) 撮影速度や画像再構成速度に制限がなく,通常のCT撮影と同様な運用が可能なこと,(5) 汎用性・拡張性に優れた臨床目的に応じたアプリケーションを有していることなどの項目が挙げられる。


図1 Dual Energy Imagingの論文数の推移
図1 Dual Energy Imagingの論文数の推移

■ DSCTによるDual Energy Imagingのアドバンテージ

第二世代のDSCTであるSOMATOM Definition Flashは,ガントリ内に2組のX線管球と検出器(128スライス)がそれぞれ約95°オフセットされた配置を有している。搭載している管球は,大容量ながら小型で堅牢なことで定評があり,さらにz-Sharpという体軸方向にオーバーサンプリングを行うことで空間分解能の向上を実現した“STRATON”である。DEの撮影時には,この2組のSTRATONから高電圧・低電圧の異なる管電圧のX線を同時照射しながら,スパイラルスキャンによってデータ収集を行う。もちろん,DE撮影時にも0.28秒のガントリ回転速度を実現しており,さらに,それぞれの管電圧ごとで独立して線量の制御が可能である。また,撮影速度も通常のCT検査時(1管球使用時)と同様に任意で選択することができ,ボーラストラッキングなどの機能ももちろん使用可能である。
そして,物質分離の精度・画質の向上や被ばく低減の目的で,X線のスペクトルを最適化することが可能な“Selective Photon Shield(SPS)”も搭載されている(図2)。
このように,DSCTによるDEは前述の必要条件を満たしており,さらに多くの臨床的有用性が示された論文により,DSCTによるDEは大きなアドバンテージを有している。


図2 Selective Photon Shieldの概念図
図2 Selective Photon Shieldの概念図

■ 多数の臨床に特化したアプリケーション

現在,DEのアプリケーションは,大きく分けてGeneral ApplicationとClinical Applicationに分けられる。
General Applicationでは,高電圧の画像と低電圧の画像を任意の比率で重み付け加算が可能なDE Compositionと,仮想的な単色X線エネルギーの画像を作成することが可能なMonoenergetic Imageの2種類に分けられる。DE Compositionは,加算の比率を任意に変えることができるため,読影目的に応じたコントラストの画像,second contrastを任意に得ることが可能である。
Clinical Applicationでは,骨と造影剤のような2つの異なる組成の分離を行う一般的な“Two-material decomposition”をベースに,それをさらに拡張し,脂肪・軟部組織・造影剤のような3つの異なる組成を識別することができる“Three-material decomposition”をベースとしたものが搭載されている(図3)。Three-material decompositionは,造影剤成分のみを抽出した画像(Iodine Map)や,その比率を変えた画像を作成することが可能である。また,造影画像から造影剤成分を取り除くことで,仮想的な非造影の画像を作り出すことも可能である。現在,このmaterial-decompositionをベースとしたClinical Applicationは12種類リリースされている。


図3 material-decompositionの概念図
図3 material-decompositionの概念図

現在,X線CTにおけるDEは数種のデータ収集方法が提案されている。しかし,空間的・時間的にズレがなく,さらにそれぞれの管電圧ごとに独立して線量を制御することができる点などにおいて,DSCTは大きなアドバンテージを有していると言える。それがDSCTによるDEを唯一無二の実践的Dual Energy Imaging CTと言わしめる理由であろう。 今後,ますます臨床に応用され,その有用性が多数報告されることが期待できる。


●参考文献
1) Roos, B., et al. : Dual photon absorptiometry in lumbar vertebrae ; One theory and method. Acta. Radiol. Ther. Phys. Biol., 13, 266〜280, 1974.
2) Barnes, G.T., et al. : Detector for Dual-Energy Digital Radiography. Radiology, 156, 537〜540, 1985.
3) Hickey, N.M., et al. : Dual-Energy Digital Radiographic Quantification of Calcium in Simulated Pulmonary NodulesRadiology. Am. J. Reontgenol., 148, 19〜24, 1987.
4) Friedman, S.E., et al. : Mineral Content of Bone Measurement by Energy Subtraction Digital Chest Radiography. Am. J. Reontgenol., 149, 1119〜1202, 1987.
5) Sartoris, D.J., et al. : Dual-Energy Radiographic Absorptiometry for Bone Densitometry ; Current Status and Perspective. Am. J. Reontgenol., 152, 241〜246, 1989.
6) Gundry, C.R., et al. : Dual-Energy Radiographic Absorptiometry of the Lumbar Spine ; Clinical Experience with Two Different Systems. Radiology, 174, 539〜541, 1990.
7) Kalender, W.A., et al. : An algorithm for noise suppression in dual energy CT material density images. Medical Imaging, IEEE Transactions on, 7・3, 218, 1988.
8) Johnson, T.R., et al. : Dual-source CT cardiac imaging ; Initial experience. Eur. Radiol., 16・7, 1409〜1415, 2006.
9) Achenbach, S., et al. : Randomized Comparison of 64-Slice Single and Dual-Source CT Coronary Angiography for the Detection of Coronary Artery Disease. J. Am. Cdl. Cardiol. Img., 1・2, 177〜186, 2008.
10) Oncel, D., et al. : Effectiveness of Dual-Source CT Coronary Angiography for the Evaluation of Coronary Artery Disease in Patients with Artial Fibrillation ; Initial Experience. Radiology, 245, 703〜711, 2007.
11) Ruzsics, B., et al. : Images in cardiovascular medicine. Myocardial ischemia diagnosed by dual-energy computed tomography ; Correlation with single-photon emission computed tomography. Circulation, 117・9, 1244〜1245, 2008.
12) Remy-Jardin, M., et al. : Vascular disease in chronic obstructive pulmonary disease. Proc. Am. Thorac. Soc., 5・9, 891〜899, 2008.
13) )Meyer, B.C., et al. : Dual energy CT of peripheral arteries ; Effect of automatic bone and plaque removal on image quality and grading of stenoses. Eur. J. Radiol., 68・3, 414〜422, 2008.
14) Tran, D.N., et al. : Dual-energy CT discrimination of iodine and calcium ; Experimental results and implications for lower extremity CT angiography. Acad. Radiol., 16・2, 160〜171, 2009.
15) Graser, A., et al. : Dual energy CT ; Preliminary observations and potential clinical applications in the abdomen. Eur. Radiol., 19・1, 13〜23, 2009.
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