シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−腹部ルーチン撮像のソリューション─簡単・快適・高画質

井村千明
マーケティング本部MR事業部

MRIにおける腹部ルーチン撮像に対する要求はますます高度化している。主な要求として,高SNR,高分解能,体動補正,そして検査効率の改善が挙げられる。本稿では,シーメンスが提案するルーチン撮像の画質と効率の向上に対するソリューションを紹介する。


■ 高SNR,広範囲撮像

受信RFコイルの密度が上がることによって検査領域内でのSNRが向上する一方,“Tim(Total imaging matrix)”における受信コイルの自由な組み合わせは,高密度コイルによって広範囲をカバーすることができる(図1)。
3T MRIの登場によってSNRは飛躍的に向上したが,課題とされたのがRFの均一性と磁場の均一度範囲であった。RFの均一性は“TimTX”など,送信RFを多チャンネル化する技術により実現されている。また,磁場均一度範囲は,従来型の球体による範囲ではなく,より体幹部の形状に近い円筒型で保証する“TrueForm”が搭載されている(図2)。円筒形の磁場均一度範囲は,ボア径70cmの3T装置にいち早く搭載したが,今後は,70cmのオープンボアが主流になる1.5T,3T両方の装置にも必要な機能として搭載していく。


図1 Timコイルの組み合わせによる広範囲DWI
図1 Timコイルの組み合わせによる広範囲DWI
a:ボディマトリックスコイル(2枚設定)
b:広範囲DWI(ボディ×2,ネック,スパインの組み合わせ)
図2 TrueFormマグネットによる円筒型磁場均一
図2 TrueFormマグネットによる円筒型磁場均一
TrueForm(円筒)とDSV(球形)の磁場均一度範囲の違い

■ 高分解能撮像

腹部撮像においても,ボリュームイメージングを用いられることが増えている。代表例としては,ダイナミック撮像とMRCPである。ダイナミック撮像に用いられる“3D VIBE”はパラレルイメージングと組み合わせて使用することで,短時間に空間分解能を上げることができ,撮像後のMPR処理による画像の劣化を防いでいる。また,空間分解能が高くなるほど画質への影響が大きいのが体動であるが,“VIBE”では,ダイナミック撮像における各時相の息止め位置が変わってしまっても自動的に補正することができる機能“DynaVIBE”を搭載している(後述)。
syngo SPACE”1),2)は3D高速スピンエコーの一種だが,SARを低減することにより3T装置でもよく適用されている。横隔膜ナビゲータ“2D PACE”3)と併用することにより,膵管の分枝レベルまで明瞭に描出できる(図3)。


図3 syngo SPACEによる高分解能腹部撮像
図3 syngo SPACEによる高分解能腹部撮像
576マトリックス,ボクセルサイズ0.7mm×0.6mm×2.0mm

■ 体動補正

臨床上最もよく使われるのは2D PACEで,呼吸同期T2強調やMRCP,および息止めに利用される。最近では,SAR低減と高分解能化を目的とした“syngo SPACE”と組み合わせて,アイソトロピックなデータ収集を可能にしている。
しかし,横隔膜の動きを伴う体動に対しては2D PACEが有効であるが,横隔膜に同期しない動きに対しては機能しない。例えば,息止め撮像において,息を止めているが腹部は動いてしまっている場合などである。このような場合には,ソフトウェアによる体動補正機能“syngo BLADE”が威力を発揮する。syngo BLADEは,高速スピンエコーシーケンスにおいてk-spaceを回転しながら充填する技術で,パラレルイメージングによる撮像時間短縮も可能であることから,体幹部の撮像でも有用な技術として広く適用されている(図4)。


図4 syngo BLADEによる体動補正効果
図4 syngo BLADEによる体動補正効果

呼吸停止下のT1強調像においても2D PACEは利用されている。上腹部画像においてthin-slice撮像が必要な場合,同じ範囲をカバーするためのスライス数が増加する。一度に撮像しようとすると,TRが延長して被検者の息止め時間も長くなる。被検者の負担を減らすためにはスキャンを2回ないしは3回に分割して撮像しなければならないが,それぞれの息止めにおいて位置ズレが懸念される。2D PACEを用いた分割息止め撮像では,それぞれのスキャンにおける横隔膜の輪郭をモニタして位置を調整するため,位置ズレがない分割息止め撮像が可能である。この場合の制限は,2D PACEデータ収集中はスキャン音が継続していることと,現在適用できるT1シーケンスが2Dのみという点である。
DynaVIBEは,3Dダイナミック撮像用のシーケンスVIBEに,体動補正機能を追加したシーケンスである。ダイナミック撮像の各時相において息止め時の呼吸の大きさが変わり,肝臓の位置が変動してしまった場合でも肝臓の三次元的な輪郭をレジストレーションする。これにより,造影前後のサブトラクションでも位置ズレが生じることがなく,また,読影時に複数の時相を1画面に表示して同時にページングする際に,表示位置のズレもなくなる(図5)。


図5 DynaVIBEによる肝臓画像の位置ズレ補正
図5 DynaVIBEによる肝臓画像の位置ズレ補正
異なる息止めの位置で得られたデータを,肝臓の輪郭を合わせることで位置の補正を行う。

■ 効率化

腹部検査においては造影ダイナミック撮像が多くなっている。息止めスキャンを繰り返すダイナミック撮像においては,1回あたりの息止め時間,各時相の撮像タイミングの設定に神経を使っている。スキャン時間を息止め可能な時間にするために,数多くのパラメータを調整し,k-space中心データ収集のタイミングとダイナミック各時相を合わせるためにスキャン間の待ち時間を調整し,息止めのポーズを合わせる。これを短時間に行うことが要求されている。
新しく登場するユーザーインターフェイスの“Dot engine(Day optimizing throughput engine)”においては,これらの煩雑な手順を一気に解消できる。被検者の息止め可能な時間を入力するだけで,長方形FoVやその他のパラメータを自動的に最適化して,設定した時間内にスキャン時間を収める。ダイナミックの時相設定は,画像が必要とするタイミングを入力するだけでスキャン間の待ち時間が調整される(図6)。


図6 Dot engineインターフェイス
図6 Dot engineインターフェイス

要求が高度化する腹部MRI撮像へのシーメンスのソリューションである,直径70cmオープンボア,体型に合わせた磁場均一度範囲TrueForm,3TのTimTX,さまざまな体動補正機能とボリュームイメージング,Dot engineを紹介した。これらを統合的にルーチン検査に組み入れることで,「簡単に高画質」を「快適な検査環境」で提供することができる。


●参考文献
1) Mugler, et al. : Optimized single-slab three-dimensional spin-echo MR imaging of the Brain. Radiology, 216, 891〜899, 2000.
2) Lichy, et al. : Magnetic resonance imaging of the body trunk using a single-slab, 3-dimensional, T2-weighted turbo-spin-echo sequence with high sampling efficiency(SPACE)for high spatial resolution imaging. Invest. Radiol., 40・12, 754〜760, 2005.
3) Thesen, et al. : Prospective acquisition correction for head motion with image-based tracking for real-time fMRI. MRM, 44, 457〜465, 2000.


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