シーメンス・ジャパン株式会社
Technical Note

2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

SPECT/CT−心臓核医学の最新技術情報

小田川哲郎
分子イメージング事業部

64スライス以上のマルチスライスCTが心臓検査に利用されるようになったことで,ますます高精細な冠動脈造影CT検査が可能となり,狭窄部位の診断が容易に行えるようになったが,その狭窄で実際に心筋虚血が生じているかを判断することは困難である。逆に,心筋血流SPECTは,低侵襲に虚血状態を正確に診断できる検査であるが,どの責任血管で狭窄が起こっているかを確認するための形態情報に乏しい。また,20分程度の検査をStress/Restの2回施行する必要があり,その間腕上げの状態を維持する被検者の負担も非常に大きい。そこで本稿では,これらの弱点を克服するソリューションとして,高精細な冠動脈造影CT画像と心筋血流SPECTを3Dフュージョンし,冠動脈の責任領域と心筋血流SPECTを同時に評価するマルチモダリティ画像診断支援ソフトウェア,および心筋血流SPECT検査の患者負担を軽減するハードウェアの技術を紹介する。


syngo Circulation MI Hybrid Visualization

このソフトウェアは冠動脈造影CT画像に対し,冠動脈抽出後の狭窄度解析,拡張-収縮期画像から壁運動等の心機能解析を行うCT専用の解析ソフトウェア“syngo Circulation”に,SPECTやPETの心臓核医学画像の解析機能,およびCTとの3Dフュージョンを行う“MI Hybrid Visualization”を搭載したマルチモダリティ画像解析ツールである。これにより,それぞれのモダリティ画像における解析に加え,2D/3Dフュージョンによる両者の総合的な評価が可能となった。
このsyngo Circulation MI Hybrid Visualizationに含まれる心臓核医学解析には,Cedars-Sinai Medical Centerで開発された“QPS/QGS”,またはミシガン大学で開発された“Corridor4DM(旧4D-MSPECT)”を利用することができ(図1),日々の臨床検査で行われている解析結果と,冠動脈造影CT解析を同時評価できる点が特長である。壁抽出された心筋血流SPECTやPETの3D画像,ブルズアイ画像の2D画像によるStress/Rest比較や,健常者データベースとの比較によるExtent/Severity表示,心電図同期画像による左室駆出率解析に加え,壁運動の局所位相解析(Phase Analysis)などの最新画像解析にも対応する。さらに,2D/3D解析結果はsyngo Circulationに取り込まれ,例えば,QPSのStress/Rest/Reversibilityの3D画像,ブルズアイ2D画像上に抽出済みの冠動脈をオーバーレイ表示することが容易にできる(図2)。
多スライス化,高精細化が進むCT画像および心筋血流SPECTの有用性と,お互いの弱点を補うこのマルチモダリティ画像解析ツールは,循環器領域における診断能向上に非常に期待できるものである。


図1 syngo CirculationとQPSの連動
図1 syngo CirculationとQPSの連動

図2 QPS 2D/3D解析結果へのコロナリーオーバーレイ表示
図2 QPS 2D/3D解析結果へのコロナリーオーバーレイ表示
3D画像はReversibility機能画像へのオーバーレイ

■ 短時間心筋血流SPECTを実現する“IQ・SPECT”テクノロジー

長い検査時間は患者負担を大きくするだけでなく,体動などによる画質低下の要因ともなる。そこで,従来の検査時間を大幅に短縮する技術として開発されたのが“IQ・SPECT”である。これは,心臓検査用に開発された多焦点ファンビームのSMARTZOOMコリメータ,被検者を動かすことなく心臓を中心に円軌道収集するCardio-Centric Orbit技術,そして,複雑なホール形状を有するSMARTZOOMコリメータに対応したコリメータ開口補正付き3D-OSEM画像再構成アルゴリズムから構成される。
高分解能・高感度を実現するファンビームコリメータは,頭部検査などで使用されるが,このSMARTZOOMコリメータは,断面方向だけでなく体軸方向にもファンビームでガンマ線を検出する心臓検査用に開発されたものである(図3)。視野中心部で心臓を拡大収集し,視野辺縁部に向かって徐々にパラレルビームとなる多焦点構造であり,広い撮影視野からボディトランケーションの発生を抑えることが可能である。

図3 SMARTZOOMコリメータ概念図
図3 SMARTZOOMコリメータ概念図

これまでにも心臓用ファンビームコリメータは開発されてきたが,ファンビームで効率良く収集するためには,心臓が検出器の回転中心に配置されるよう,患者を寝台上で動かすポジショニングが必要であった。このため,患者だけでなく検査を行う側の負担も増え,また,回転中心がずれた場合に,画質・定量性の低下が生じる恐れがあることが大きな問題であった。これに対しIQ・SPECTでは,SPECTガントリーに搭載される患者位置決めモニタに表示される2つの検出器の画像上で心臓位置をセットする。この容易な操作だけで,自動的にシステムが心臓位置を回転中心となるよう,検出器支持機構を左右に動かすCardio-Centric Orbit技術を搭載し,患者ポジショニングの手間が不要となる(図4)。


図4 心臓を中心とした円軌道収集
図4 心臓を中心とした円軌道収集

このように収集されたプロジェクションデータに対し,新しく開発された画像再構成アルゴリズムを適用する。従来,パラレルビームコリメータだけに対応していたコリメータ開口補正付き3D-OSEM画像再構成アルゴリズムに対し,検出位置によって,コリメータホールの方向や長さが変化する多焦点ファンビームのSMARTZOOMコリメータに対応した。これにより,さらなる画質向上を実現することが可能となった。
これら3つの技術を組み合わせたIQ・SPECTは,標準的な低エネルギー高分解能コリメータ(LEHR)と比較すると,同等の分解能でありながら大幅な感度向上を実現する。ファントム実験においても,収集時間16分のLEHR画像と比べ,収集時間4分のIQ・SPECT画像の方が高画質であることがわかる(図5)。また,海外の臨床例でも収集時間4分を実現できており(図6),心筋血流SPECTの弱点を克服するだけでなく,いままで以上の高分解能な撮影,または多分割な心電図同期撮影にも期待できる。


図5 ファントム画像での比較
図5 ファントム画像での比較

図6 IQ・SPECT臨床例
図6 IQ・SPECT臨床例

本稿で紹介した心筋血流SPECTの短時間撮影技術,および心筋血流SPECTと高精細冠動脈造影CT画像のマルチモダリティ画像診断ツールが,日々の臨床検査においてより高い診断能を提供することを期待できる。また,国内でも多くの臨床用マルチスライスCT搭載型SPECT・CT装置(図7)が稼動し,CT減弱補正ずみ心筋血流SPECTとのフュージョン解析や,海外で行われ始めている冠動脈石灰化と心筋虚血による診断など,マルチモダリティ装置による診断能向上にも大きく期待したい。

  図7 臨床用MSCT搭載型SPECT・CT SymbiaTシリーズ
図7 臨床用MSCT搭載型SPECT・CT
SymbiaTシリーズ
(2009年3月現在,国内で30台稼働)


【問い合わせ先】 分子イメージンググループ  TEL 03-5423-8382