ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン Technical Note 心臓MRI検査における高空間分解能3D遅延造影撮像の可能性−シーメンス独自の撮像技術Phase Sensitive Inversion Recovery法の進化
2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
近年のMRI技術は急速な進歩を遂げており,現在の心臓MRI検査では,シネ撮像,パフュージョン撮像,遅延造影撮像,冠動脈撮像,脂肪抑制T2WIによる浮腫撮像など,多岐にわたる撮像が可能となっている。その中でも,MRIの持つ組織学的なコントラストの高さを有効に利用しているのが,遅延造影撮像や浮腫撮像などである。これらの検査は,現在の心臓MRI検査において重要な役割を担っており,近年では多くの応用派生技術が開発され,多機能化してきている。 |
■ 3D Phase Sensitive Inversion Recovery法 Phase Sensitive IR法は,2002年にPeter Kellmanらによって開発された心筋遅延造影撮像の技術である。この撮像法は,煩雑なTI値の設定なしに,正常心筋と遅延造影領域の信号が最適なコントラストとなる画像が得られる撮像技術である。 |
図1 Phase Sensitive IR法と既存法による信号変化の模式図 |
図2 3D Phase Sensitive IR法のシーケンス模式図 |
■ 高分解能3D心筋遅延造影撮像への応用 最近では,Navigatorを併用した自由呼吸下での高空間分解能の3D遅延造影撮像が一般的に行われるようになってきており,遅延造影領域の連続性や広がり診断に有用であると報告されている。一方で,造影剤注入後の正常心筋の至適TI値は,血中の造影剤濃度の時間変化に依存し,遅延造影画像の撮像中に刻一刻と変化していく。そのため,呼吸同期による3D遅延造影撮像では,被検者の呼吸状態によりデータ収集に必要な撮像時間が推測しづらく,至適TI値の設定が困難であるという問題点を有する(図3)。しかし,3D Phase Sensitive IR法を用いることにより,この至適TI値の問題を解決することが可能である。これにより,被検者に呼吸状態やTI値の設定条件にかかわらず,最適なコントラストの高空間分解能の3D遅延造影画像を取得することができる(図4)。 |
図3 造影剤注入後の正常心筋の至適TI値の時間変化グラフと至適TI値がずれてしまった場合の3D遅延造影画像 |
図4 3D Phase Sensitive IR法による高空間分解能3D遅延造影画像 |
■ 臨床応用での可能性 このような高空間分解能な3D遅延造影画像の臨床応用領域は多岐にわたる。例えば,これまで2D遅延造影画像を用いて造影範囲の深達度や面積で重症度評価してきたものを,遅延造影領域の体積や質量で評価できる可能性がある。また,CTやMRIによる冠動脈画像とフュージョンすることにより,責任血管と遅延造影領域との関係を見ることが可能である。さらには,カテーテルアブレーションのプランニングや術後評価,外科的手術時のナビゲーションシステムへの応用などが考えられる。 |
高空間分解能の3D遅延造影画像は,これまでの2D遅延造影画像による診断手法をさらに発展させ,より有益な情報の取得を可能にするだろう。今後,心臓電気生理や心臓外科など,これまで心臓MRI検査があまり利用されていなかった領域での活用に期待したい。 |
●参考文献 | |
1) | Peter, Kellman, Andrew, E., Arai, Elliot, R., McVeigh, Anthony, et al. : Phase-Sensitive Inversion Recovery for Detecting Myocardial Infarction Using Gadolinium-Delayed Hyperenhancement. Magnetic Resonance in Medicine, 47, 372〜383, 2002. |