シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2008年9月号
特集−Step up MRI 2008−Z 技術開発最前線

MRI−Tim(Total imaging matrix)をもとに開発される次世代の送受信コイルシステム

丸山 克也
マーケティング本部MR事業部

シーメンスのMAGNETOMシリーズにはいくつかの特長がある。MRI以外のモダリティと操作性を統一したsyngoユーザーインターフェイス,高いグラディエント強度とスリューレートを誇るグラディエントシステム,Tim(Total imaging matrix)によるシームレスなアレイコイル・システムなどである。その中でも定評のあるTimの将来像として,本稿では次世代Timの開発状況を報告したい。


◆32チャンネルコイルの開発

「MAGNETOM Avanto」が,最初のTimシステムとして32チャンネルという受信チャンネルを搭載し発表された。当時,チャンネル数の多さから,複数の全身用のコイルの組み合わせという点にのみ焦点が当てられた感がある。1つの理由として,単一のコイルでこのチャンネル数を使い切ることのできるコイルが存在しなかった点が挙げられる。しかし,すでに研究開発部門では,多チャンネル単一コイルシステムの開発をスタートしていた。
米国・ボストンのMassachusetts General Hospital(MGH)とシーメンスの共同開発により,32チャンネル・ヘッドコイルの開発が進んでいた(図1)。ヘルメットのような素体に32個のコイルを配置したヘッドコイルは,各コイルから配線が飛び出すという異様な形状をしていた。開発は,3T装置用に進められ,標準コイルとの信号ノイズ比などが検討されてきた(図2)。このコイルは後に,1.5T,3T用の32チャンネル・ヘッドコイルとして製品化されている(図3)。
現在では,さらに7T用の32チャンネル・ヘッドコイルの開発が進んでおり,その画像が公開されてきている(図4)。


図1 3T用32チャンネル・ヘッドコイル(プロトタイプ)
図1 3T用32チャンネル・ヘッドコイル
(プロトタイプ)
図2 8チャンネル・ヘッドMatrixコイルと32チャンネル・ヘッドコイルとの比較
図2 8チャンネル・ヘッドMatrixコイルと32チャンネル・ヘッドコイルとの比較
MAGNETOM Trio, A Tim System, 3D FLASH, 1mm isotropic, PAT 12, TA=1min20s

図3 32チャンネル・ヘッドコイル
図3 32チャンネル・ヘッドコイル
図4 7T用32チャンネル・ヘッドコイル(プロトタイプ)での初期画像
図4 7T用32チャンネル・ヘッドコイル
(プロトタイプ)での初期画像

◆32チャンネルを超えて

32チャンネルコイルの開発が一段落し,次に何チャンネルコイルを開発すべきかという議論が当然出てきていた。32チャンネルのシステムを流用することを考えれば,32の倍数でのシステムを構築することが効率的である。単純に考えれば,次に来るのは64チャンネルコイルという選択肢になるが,シーメンスとMGHでは,すでに96チャンネルシステム用のヘッドコイルの開発を進めており,その画像が公開されている(図5)。


図5 90チャンネル・ヘッドコイル(1.5T用プロトタイプ)
図5 90チャンネル・ヘッドコイル(1.5T用プロトタイプ)
96チャンネルMAGNETOM Avanto(プロトタイプ)に接続

◆送信システムの将来−送信システムのマルチチャンネル化

受信(Rx)コイルのチャンネル数は,ここ数年で大幅に上昇したのは前述のとおりである。しかし,送信(Tx)側は臨床用のMRI装置が供給され始めてから,一貫して1チャンネルであった。しかし,近年のMRIでの高磁場へのシフトに伴って,Txコイルの多チャンネル化(Tx-Array)の開発が進んできている(図6)。
Tx-Arrayは当初,パラレルイメージング(parallel acquisition technique:PAT)のさらなる発展という位置づけで開発が始められた。現在,広く普及しているPATはRx側でのRx-PATであるが,Tx-Arrayを使用するTx-PAT(Tx-SENSEなど)では,Rx-PATで生じる折り返しによるアーチファクトを抑制でき,そのほかのノイズを減らすというメリットがある。特に,1.5Tではこの恩恵が大きく,Tx-Arrayを開発する原動力となっていた。しかし,ここ数年の爆発的な3T装置の普及によって,Tx-ArrayでのB1シミングという方向性が脚光を浴びることになった。


図6 シーメンスTx-Array概念図
図6 シーメンスTx-Array概念図

◆B1シミング

3Tを含む高磁場のMRIでは,送信周波数の上昇に伴うRF(B1)の不均一が知られてきており,われわれはこの解決策を模索してきた。磁場の歪みであれば,磁場内の複数個のシムコイルの電圧を変えることによって磁場を均一にするシミングというテクニックがある。この概念をRFに応用したものが“B1シミング”であり,そのためにはTxコイルの多チャンネル化が必要であった。Tx-Arrayによって,B1シミングというテクニックが実現可能となったのである(図7)。
B1シミングが可能ということは,逆に言えば,RFをわざと不均一にすることも可能である。これにより,自由な形状での励起を可能とする“Shaped excitation”というテクニックが実現された。単純な応用例としては,曲線でのプレサチュレーションがある。また,画像上に人物像のような励起を行うことも可能である(図8)。


図7 3T装置でのB1シミング
図7 3T装置でのB1シミング
a:各方向から同じ電圧でRFを照射しており,不均一に励起される部分が存在する。
b:B1シミングにより各チャンネルの電圧を最適化し,RFを照射した場合。均一に励起されていることが確認できる。

図8 Shaped excitation
図8 Shaped excitation
a:RFの干渉を利用してプレサチュレーションのような効果を出すことができる。この効果を利用して,直線以外のプレサチュレーションも可能となる。
b:画像のように文字部分だけを励起することができる。
c:ファントム上に人物写真のような形状での励起が可能。

Tim(Total imaging matrix)をベースに取り組まれている送受信コイルシステムの技術開発の最前線を解説してきた。RFの技術は,MRIにとって重要な要素であり,シーメンスはさらに次の技術を開発していくので期待していただきたい。

*本稿では,一部製品化されているコイル以外は開発段階であり,日本での薬事未承認品であることをお断りしておく。



【問い合わせ先】 マーケティング本部MR事業部  TEL 03-5423-8415