シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

SessionT:Advanced Technologies

CT AEC:自動露出機構(Auto Exposure Control)

池田 秀(東海大学医学部付属病院 放射線技術科)

池田 秀(東海大学医学部付属病院 放射線技術科)

「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」における線量低減技術には,AEC(自動露出機構),逐次近似画像再構成法,軟部線量カットのための負荷フィルター,CARE kV,X-CAREなどがある。現在,われわれが臨床で見ている画像は,これらの線量低減技術の総合的な結果であり,各技術の特性を理解することは非常に大切である。そこで今回は,AECである“CARE Dose 4D”を中心に,基礎的な理解を深めていきたい。

■自動露出機構(AEC)の概要

自動露出機構AEC(Auto Exposure Control)には,次の3つの働きがある。
(1) 位置決めの画像から対象の大きさを認識し,体の大きい人では線量を多く,小さい人では少なくして撮影する働き
(2) 体軸方向(Z軸)のX線吸収差を認識し,吸収の多いところと少ないところの線量を変調させる働き
(3) アキシャル面(XY軸)のX線吸収差を認識し,線量を変調する働き
これら3つの機構により,照射線量を変調させるのがAECである。

■AEC検討班による評価

日本放射線技術学会の「CT用自動露出機構(CT-AEC)の性能評価班」では,2004年より2年間,各社のAECの検討を行った。私もシーメンス社製CTのユーザーとして,参加させていただいた。
2007年の最終報告書には,シーメンスのAEC“CARE Dose 4D”は,(1) 患者の体のサイズ,(2) Z軸,(3) XY軸のすべてに対して,同時に変調が行われているということが記載されている。また,今回の検討では,この評価班で作成した2種類の評価用アクリルファントムを使用した。

*楕円形の円錐ファントム(最大径40cm超,最小径が5cm)。凸型ファントム(直径が20cm,25cm:AECの鋭敏な反応を評価)。

■CARE Dose 4D

●CARE Dose 4Dの設定
CARE Dose 4Dは,コンソール上で部位別に強い変調から弱い変調まで,細かく選択できるようになっている(図1)。
「Very Strong」「Strong」「Average」「Weak」「Very Weak」の5段階で好みの変調設定を選べることは,大きなメリットである。

図1 CARE Dose 4Dの設定 コンソール上で5段階の設定から選択
図1 CARE Dose 4Dの設定
コンソール上で5段階の設定から選択

図2に,変調度合を示す。横軸が体の大きさ,縦軸がX線量である。ユーザーが5段階のプロトコールから,変調設定を自由に選ぶことができる。

図2 CARE Dose 4Dの設定(変調度合)
図2 CARE Dose 4Dの設定(変調度合)(シーメンス・ジャパン提供)

●ファントムによる特性の確認
Definition Flashで,ファントムによる特性の確認を行った(図3)。
図2とほぼ同様の変調を示している。最も強く変調するVery Strong(図3a,赤線)は,ファントムの直径が小さい部分では線量を極力下げ,直径が大きい部分では極力上げて,変調を大きくしていることがわかる。しかし,SDが一定になるほどの変調はしていないことがわかる。逆に,変調が最も少ないVery Weak(図3a,青線)にすると,線量の変化はなだらかになる。
図3bは,標準偏差(SD)である。変調を大きく設定すると,SD値の変化が緩くなるが,SDが一定になるほどの変調はしていないことがわかった。また,変調を小さくすると,SD値の変化が大きくなるということがわかった。

図3 ファントムによるCARE Dose 4Dの特性確認(腹部プロトコール選択)
図3 ファントムによるCARE Dose 4Dの特性確認(腹部プロトコール選択)

●CARE Dose 4D使用の注意点
楕円形円錐ファントム(AEC検討班作成)を用いて,寝台の高さによるトポグラム(位置決めスキャン)への影響を考察した(図4)。ファントムが寝台の高さの中心にある場合と,下方/上方に5cmずれている場合の3つのケースで検討すると,寝台の高さの違いでトポグラムの拡大率が変わり,対象物の把握が困難になって,適正な線量を出すことができなくなる場合があることがわかる。

図4 寝台の高さの違いの影響(腹部プロトコール選択)
図4 寝台の高さの違いの影響(腹部プロトコール選択)

次に,トポグラムを正面と側面で撮影した場合を比較した(図5)。大きな差は認められず,正面と側面でのやりやすい方向からの撮影で問題はないと言える。しかし,同じ撮影条件であっても,胸部と腹部のプロトコールではCARE Dose 4Dの応答が違うので,各プロトコールでそれぞれ設定値を選ぶ必要があると言えるだろう。

図5 正面,側面のトポグラムの違いの影響(腹部プロトコール選択)
図5 正面,側面のトポグラムの違いの影響(腹部プロトコール選択)

前出の凸型ファントムでの検討では,直径サイズの分極点において,線量の変化を観察した(図6)。線量の変化(黄線)を見ると,ファントムの分極点より少し手前から線量を多く出し始めており,分極点に対しても確実にSDが得られていることがわかる。すなわち,CARE Dose 4Dでは,腹部領域の横隔膜直下の肝臓付近においても,良好な画像が得られる鋭敏な応答があると言える。

図6 凸型ファントムの応答
図6 凸型ファントムの応答 

■AECの性質と考察

●ディテクターカバレッジ
人体ファントムのトポグラムと吸収線量の相対値をグラフにすると,図7の(黄線)が理想的な変調と言える。それに対し,ディテクター幅は決められているので,ディテクターの幅が大きいほど,変調が鈍くなってしまうということが想像できる。すなわち,真の変調は,理想的な変調とディテクターの幅の重畳積分になる。したがって,ディテクターが広くなるほど反応が鈍くなるため,図7aの赤線部分が過線量となってしまう。CTのAECに関しては,ディテクター幅が広くなることは,デメリットになると言える。
図7bは,いろいろなディテクター幅のシミュレーションデータであるが,狭いほど理想的な変調に近づくことがわかる。

図7 体軸方向ディテクター列範囲とAECの応答比較
図7 体軸方向ディテクター列範囲とAECの応答比較

●吸収線量の実際
X線吸収の式を以下に示す。
 I=I0e−μx
  I:出力線量
  I0:入力線量
  μ:線減弱係数(cm−1
  x:物質の厚さ(cm)

これに基づき,水の線減弱係数(μ=0.19)にて計算をすると,直径20cmに対し,23.7cmのもので同じ出力線量を得るためには,2倍もの線量が必要という結果が得られる。
成人男女の胸腹部検査において,各位置におけるCARE Dose 4Dにおける線量変調を調べた(図8)。男女とも,最も線量が増加したところは胸郭上部で,女性では肝臓位置より骨盤部の方が線量が増加傾向にある。通常,Ref.mAsの設定は,低コントラストが大切な肝臓位置を基準に行うが,もし,SDを一定にするAECだとしたら,胸郭上部や女性の骨盤部でさらに線量が増加することになる。

図8 体幹部におけるAECの応答特性
図8 体幹部におけるAECの応答特性

体幹部の大きさと画質の関係について,円錐ファントムを用いて検討を行った(図9b,c)。CARE Dose 4Dは,ファントム径が小さいほどSD値が良いという結果が得られた。
さらに,SD値を一定にして撮影を行った場合も検討した(図9d)。この場合,読影時に小さい対象ではFOVを小さくして観察するが,それでは,空間周波数(Cycles/Pixel)で低周波領域のノイズ成分が増し(図9e),ノイズが目立ち,ボケ関数も大きくなった画像になってしまう。そのため,SD値を小さくした画像を得ておく必要があることがわかる。
以上より,CARE Dose 4Dは,対象の大きさに応じてSDを一定にするほど線量を変調させないと考察する。

図9 体幹部の大きさと画質の関係
図9 体幹部の大きさと画質の関係
aの緑線はc,dのスライス位置, 黄線はbのスライス位置

■まとめ

線量低減技術であるCARE Dose 4Dは,適正な被ばく低減に有用であると言える。Stellar Detectorという新しいディテクターの登場により,さらなる被ばく低減が実現することを期待したい。

▲ページトップへ

目次に戻る