ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 The 3rd Definition Symposium Report SessionV:4 Dimensional Imaging 体幹部:肝画像診断における4 Dimensional Imagingの意義 小林 聡(金沢大学大学院 医学系研究科)
SessionV:4 Dimensional Imaging
体幹部:肝画像診断における4 Dimensional Imagingの意義
小林 聡(金沢大学大学院 医学系研究科)
本講演では,4 Dimensional Imagingの意義をテーマに,自験例を中心に腹部,特に肝画像診断における画像技術の進歩に伴うDimensionの概念の変化と,最新技術である4 Dimensional Imagingについて解説する。特に,肝腫瘍血行動態解析(ドレナージ血流の解析)や,分子標的治療の効果判定について述べる。
■ 画像技術の進歩に伴うDimensionの変化
1.2Dから3D,4Dへ
腹部単純X線写真は,三次元の人体を面に投影して得られた2D画像だが,造影剤を投与しながら経時的に撮影することで,2D+時間の画像を得ることができる。これが血管造影である。またCT画像も,三次元の人体を数mmの厚さで輪切りにして面に投影した2D画像であるが,単純X線写真と比べると,ビューワなどを用いてページングして観察することで,3Dイメージを構築しやすいという利点がある。さらに,多相造影CTにて得た2D画像に時間のディメンジョンを導入した画像も3Dと呼べるだろう。その後,MDCTの時代となり,アイソトロピックデータの画像処理により,3D再構成画像が得られるようになった。また最近では,多相造影CTをMDCTで撮影可能となり,3D+時間のいわゆる4D画像が得られるようになっている。造影剤を投与しながら高速に広範囲のデータ収集を繰り返すことで,立体的な再構成画像を経時的に得ることが現在の4Dのコンセプトと言えよう。
図1は,64MDCTで撮影した4D Imagingで血管造影下CT(CTHA)画像を再構成したものである。血管から肝細胞がん(HCC),さらには周囲にドレナージ領域の染まりが見えてくるまでの経過を観察することができる。ただし,64MDCTでは,約4cm幅の3D画像しか得られないという問題があった。
図1 多相造影CTによる4D Imagingの例
2.Adaptive 4D Spiralの登場
一方,新たに登場した「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)に搭載されている“Adaptive 4D Spiral"は,検出器サイズに依存することなく,臓器の機能情報を広範囲かつ経時的に収集することができる。最大幅48cmの撮影が可能なため,全脳あるいは肝臓など臓器全体の灌流情報,さらには心拍動,嚥下,呼吸などの機能情報が得られ,まさに真の意味での4D Imagingを実現する機能と言える。
図2は,当院で作成した4D画像である。アキシャル像はもとより,コロナル,サジタルなど,さまざまな画像での観察も可能である。また,図3では非常に大きなHCCが認められるが,心臓から大動脈に造影剤が流入し,肝動脈を経て腫瘍が濃染していく様子が明瞭に描出され,あたかもDSAを3Dで見ているような画像となっている。将来的には,こうした画像の活用が肝動脈塞栓術のカテーテルのナビゲーションなどにも役立つのではないかと期待している。
図2 Adaptive 4D Spiralにより作成した4D画像 |
図3 Adaptive 4D Spiralによる3D DSA likeな画像 |
■ 肝腫瘍血行動態解析 ─特にドレナージ血流の解析と治療への応用
われわれは,このような4Dテクニックが肝腫瘍の血行動態の解析に有用であると考えている。特に,4D Imagingによるドレナージ血流の可視化は,HCCの診断および治療に非常に重要であると思われる。
造影剤や動脈血流はHCC内に流入後,被膜内の細い門脈枝を介して周囲類洞に流出して行くが,初期の血行性転移はがん細胞が同じルートを通って周囲類洞に到達し,肝内転移(娘結節)を形成していくものと考えられる。この考え方から,ドレナージ領域(いわゆるコロナ濃染の領域)は,HCCの肝内転移が起こりやすい場所であると言える。
図4は,64MDCTによる3D-CTHAの経時的観察の画像である。動脈血流が流入しHCCが濃染するが,その末梢のドレナージ領域(コロナ濃染)が立体感を持って認識可能である。ドレナージ領域の一部には,小さな結節状の肝内転移が認められており,主腫瘍からドレナージ領域に小さな肝内転移(娘結節)が生じた像を描出しているものと考えられる。Adaptive 4D Spiralによって,全肝でこうした画像が得られれば,肝動脈塞栓術やRFAを行う際の,適切な治療範囲の決定に役立ち,HCCの予後の向上に大きく貢献する可能性があると考えられる。
図4 64MDCTによる3D-CTHAの経時的観察
■ 分子標的治療の効果判定 ─Adaptive 4D Spiralを用いたCT灌流画像解析
近年,HCCに対しても分子標的治療が行われるようになってきている。薬剤を用いて細胞増殖にかかわるシグナル伝達経路や血管新生経路を阻害することで,がんの増大を抑制する治療であるが,問題点として,従来の抗がん剤と違い,腫瘍サイズを変えずに治療効果を発揮する可能性があるため,従来のサイズクライテリア中心の治療効果判定基準の適用が難しい可能性があることが議論されている。このような場合に,Adaptive 4D Spiralを用いたCT灌流画像解析が有用ではないかと考えている。
図5は,分子標的治療薬“Sorafenib"(バイエル薬品)による多発性HCCの治療例である。下大静脈の腹側の腫瘤に注目すると,治療1か月後には若干大きくなっているが,濃染は認められない。Sorafenibが奏功していると考えられるが,腫瘍サイズだけを考慮する評価法では,その有効性を判断することができない。このような例があるため,最近では血流の状況を加味した新しい診断基準を作る必要があると考えられている。
図5 HCCに対するSorafenib治療開始後の画像変化
われわれは,6症例9病変を対象に,Adaptive 4D Spiralにて肝のvolume perfusion CT(VPCT)を施行し,Sorafenibによる治療前後の血流変化について評価した(図6,7)。治療開始1,2か月後であれば,著効例では腫瘍縮小や,血流の低下などが通常の造影CTでも認識可能であるが,治療開始後早期では形態や濃染の変化は通常のCTでは認識が難しい。しかし,コストや副作用の面からも,できるだけ早期に分子標的治療の治療効果予測が可能であれば,有用性が高いと考え,治療開始直前と治療開始10日後の血流パラメータの比較を行った。
図6 VPCTによる腫瘍血流のCT灌流画像解析 |
図7 HCC 6例9病変における治療前後の血流評価方法 |
9病変の治療開始前後のVPCTの血流パラメータの変化を見ると,治療後にはある程度数値が減少したものの,有意差は認められなかった(図8)。この変化が治療効果の予測に直接結びつくかどうかはわからないが,Adaptive 4D Spiralを用いたVPCTは,将来的には治療効果判定で有用性を発揮するのではないかと期待している。ただし,2回の異なる時点のVPCTの血流パラメータの数値を,そのまま比較してよいかどうかという問題もあり,臨床応用にはさらなる検討が必要と考えている。
図8 HCC 6例9病変の治療開始前後のVPCTパラメータ変化
■ まとめ
自験例を中心に,腹部,特に肝画像診断における4 Dimensional Imagingの意義について,肝腫瘍血行動態解析と分子標的治療の効果判定に絞って解説した。
4 Dimensional Imagingは今後,腹部,特に肝臓領域においても重要な位置を占めていく検査法であると思われる。