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別冊付録

SessionT:Advanced Technologies

時間分解能:CTにおける時間分解能と画質

原 孝則(中津川市民病院 医療技術部)

原 孝則(中津川市民病院 医療技術部)

CT画像は,解像特性やノイズ特性,コントラスト分解能,SNRから物理的に画質を評価することができる。マルチスライスCTの登場により高速撮影が可能となり,時間分解能についても議論されるようになった。本講演では,時間分解能の定義について解説する。

■ 時間分解能の定義

本講演で述べる時間分解能は,スライス面内の1画像における時間分解能である。時間分解能(temporal sensitivity profile:TSP)とは,どれくらい短い時間で撮影(画像化)が可能かを示す指標で,CTにおいては,X線管のスキャン時間,また,1画像あたりに寄与する投影データの時間的な感度分布によって定義される。

●Non-helical scanの時間分解能
Non-helical scanでは,360度回転したときに1画像の投影データが収集されるため,回転時間(s/rot.)=時間分解能となる。回転時間は一定であることから,時間分解能は図1のような矩形のTSPとなる。実効スキャン時間であるFWHM(full width at half maximum:半値幅)が時間分解能であり,図1の場合は1秒と定義できる。

図1 Non-helical scanのTSP
図1 Non-helical scanのTSP

●Multislice-helical scanの時間分解能
図2は,4列のMultislice-helical scanの展開図である。マルチ化すると,グレーの部分のデータを作成する場合に,複数の検出器,または複数の回転で得られたデータで画像が作成されることになる。
これにより,ピッチが変わると,再構成に用いられる本質的なデータ領域が異なるため,投影データが持っている時間的な感度分布が変わってしまい,当初は時間分解能を正しく測定することができなかった。
2008年,金沢大学の市川勝弘氏により,時間分解能を測定する方法として,回転しているガントリ内に金属球体を高速で打ち込むという方法が考えられた。金属球をガントリ内に打ち込むことで,図3のようにスキャン時間中に一瞬だけ Impulse信号が現れ,細かく画像再構成をすると,図4のような信号値が出力される。体軸方向の変化であるピッチは,スキャン単位時間あたりにどれだけテーブルが動いたかにより定義されるものなので,細かく再構成したスライス間隔は時間間隔に変換可能である。これにより,時間間隔を計算すると,図4下のようなTSPが測定でき,画像1枚1枚が持つ時間分解能がわかる。

図2 4列 Multislice-helical scanの展開図
図2 4列 Multislice-helical scanの展開図
図3 インパルス法TSPの概念図
図3 インパルス法TSPの概念図
図4 TSP測定の概要
図4 TSP測定の概要
 

■ TSP:temporal sensitivity profile

「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」のTSPを測定すると,図5のように,ピッチごとにTSPが変化することがわかる。また,時間分解能はある一定の幅,実効スキャン時間(TSP中のFWHM)を持ち,Definition Flashに関しては,仮に1回転1秒としたとき,ピッチが遅い場合は時間分解能は約1.8秒,つまり,1秒で回転しても2秒程度の時間分解能でしかないということになり,体動があると良い画像が撮影できない理由はここにある(図6)。
逆に言えば,1回転0.285秒では,ピッチを上げれば画質は向上し,時間分解能は約0.15秒となり,1回転あたり0.15秒で回ったに等しい画像が得られることを意味する。この変化を適確に理解していないと,異なる装置で撮影する場合に,同等の画像を得ることができない。

図5 Definition FlashのTSP
図5 Definition FlashのTSP
図6 Definition Flashの時間分解能
図6 Definition Flashの時間分解能

●画質への影響
時間分解能の画質への影響を見るため,等速移動するアクリルパイプのファントムを使った検証を行った。回転速度が同じ1秒回転であっても,時間分解能の変化により,図7のように画像に差が出てしまう。つまり,動いている場合には,時間分解能を非常に高くする必要があり,ピッチや回転時間の調節が重要となる。また,高い時間分解能では,コントラストの高い画像が得られる。
同じ時間分解能でスキャンピッチが異なる場合は,図8aのようなTSPとなるスキャンピッチを選択すると画像は常にボケた状態となるが,図8bのような中心部分に高いレスポンスを持つスキャンピッチを選択すると,ボケの少ない画像を得られる可能性がある。
時間分解能は,ピッチだけに左右されるものではなく,また,装置で一定ではない。装置やメーカーによりTSPの持つ時間分解能が異なるので,TSPの測定によって適切なプロトコールを作る必要があると言える。一般に,メーカーからは推奨プロトコールが示されるが,例えば救急で体動がある患者の頭部を撮影する場合,デフォルト値のピッチ0.55を使うと,かなりのアーチファクトが発生し,骨付近の出血などはわからないため,ピッチを上げ,時間分解能を高める必要がある。
Definition Flashには,Windmillアーチファクトを抑制するz-Sharpが搭載されているため,救急患者の撮影ではピッチは常に1〜1.25を選択することにより,診断に耐えうる画像を得られると考える。

図7 アクリルパイプファントムによる評価
図7 アクリルパイプファントムによる評価
図8 TSP形状の違いによる変化
図8 TSP形状の違いによる変化

■ 時間分解能とアーチファクト

Non-helicalに比べ,Helicalの方がアーチファクトが少ないのは,中心時間に対しヘリカル補間しているものは,ある幅の中で,外の方が感度が低下するためである。これにより,同じFWHMだとすれば,台形や三角形の方がアーチファクトが抑制される(図9)。また,体動に対して,Non-helicalではアーチファクトの方向が一定であるが,Helicalではアーチファクトの方向が分散されるため,診断上では受け入れやすい画像になる。
胸部CT検査は,心臓の拍動の影響が大きいが,Dual Source CTの特徴であるFlash Spiralを使うことで,ほとんど輪郭のぼやけない画像を得ることができる。ただし,すべてに適用することが良いというわけではない。例えば,大動脈疾患が疑われるような患者に対しては推奨値で撮影すると,図10aのような画像になる場合が多い。しかし,Flash Spiralを大動脈の精査に使うことで,心電非同期でも77msの時間分解能で,図10bのような画像を得ることができる。また,フォローアップにおいて造影剤の低減ができることからも,Flash Spiralは有用であると言える。
Flash Spiralにも課題があり,肝臓の横隔膜のところでは少しアーチファクトが出る傾向が見られる。
しかしながら,低コントラストの検出能を検証したところ,通常のスキャンとFlash Spiralでは,ほとんど差が見られなかったことから,体動や拍動がある場合は,積極的なFlash Spiralでの撮影が推奨できると言える。

図9 Non-helicalとHelicalのアーチファクト
図9 Non-helicalとHelicalのアーチファクト
図10 胸部大動脈CTA
図10 胸部大動脈CTA

■ まとめ

Definition Flashは非常に高い性能を持っており,そのポテンシャルを最大限引き出すためには,特性を理解することが最も重要である。患者にすばらしい恩恵を与えるために,ぜひ理解に努めてほしい。

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