ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 The 3rd Definition Symposium Report SessionT:Advanced Technologies 空間分解能:z-Sharp Technologyが画像にもたらすこと 池田 秀(東海大学医学部付属病院 放射線技術科)
SessionT:Advanced Technologies
空間分解能:z-Sharp Technologyが画像にもたらすこと
池田 秀(東海大学医学部付属病院 放射線技術科)
マルチスライスCTでボリュームデータを得ることはいまや当然のことであり,いかに精度の高い等方性ボクセルを得るかが重要となっている。128スライス2管球搭載の「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」は,X線管回転速度が最速0.28秒と時間分解能に優れ,任意のピッチ選択においても空間分解能に差はなく,また,z-Sharp Technology(以下,z-Sharp)によりアーチファクトを抑制することができる。本講演では,高い空間分解能を実現するz-Sharpについて紹介する。
■ z-Sharpによる空間分解能の向上
Definition Flashのディテクタ幅は0.6mmであるが,z-Sharpは,1プロジェクションごとにディテクタ幅の半分である0.3mmずつのオーバーサンプリングが特徴である。図1のように,通常のスキャン(図1a)の場合,画像が体軸方向にボケてしまうのに比べ,z-Sharpでオーバーサンプリングすることで,信号値を正確に検出することができ,解像度の高い画像を描出することが可能となる(図1b)。ファントムをコロナル画像として見る検証においても,z-Sharpを使った場合は,CT値が正確に得られていることがわかる(図2b)。さらに,形状の再現性も高い。
図1 z-Sharpの有無による解像度の違い |
図2 z-Sharpの有無による空間分解能の違い |
■ Windmillアーチファクトの発生と抑制
スパイラルスキャンにおける補間計算に起因するアーチファクト“Windmill(風車状)アーチファクト”も,z-Sharpによって抑制することが可能である。図3は,6mmのアクリル球を撮影した画像であるが,z-Sharpの有無によるWindmillアーチファクトの抑制が明瞭に現れている。CT値の差が大きい骨と組織などの境界においても,アーチファクトが抑制された明瞭な画像を得ることができる(図4)。Windmillアーチファクトは一般的にはピッチに依存するが,前述のとおり,Definition Flashはピッチによる空間分解能の差がないことに加え,z-Sharpにより,どのピッチにおいてもアーチファクトを抑制することが可能である。
Windmillアーチファクトの発生因子は,ディテクタが体軸方向に隔壁により分割さており,そのディテクタを動かしながらスキャンしたデータを画像再構成することにある。X線管の焦点や散乱線によりボケた信号が図5aのように検出される。さらに,Z軸方向にテーブルを動かしながらスキャンをすることで,ある時は信号がディテクタの中心に入力され(センターアライメント),またある時は障壁の間に信号が入力される(シフトアライメント)など,さまざまな形の違うサンプリングとなる(図5b)。このようなディテクタのアライメントの違いに伴うデジタルサンプリングの影響が,信号強度の差を生じ,Windmillアーチファクトを発生させる。逆に言えば,アナログのようにデータを扱うことができれば,Windmillアーチファクトは生じないと考えられる。
図3 z-SharpによるWindmillアーチファクトの抑制 |
図4 z-Sharpによる頭部のWindmillアーチファクトの抑制 |
図5 アーチファクトの原因となるサンプリング |
■ Windmillアーチファクトの抑制方法
Windmillアーチファクトを抑制する方法として,(1) 体軸方向のディテクタ幅を十分に狭くすること,(2) 体軸方向のrawデータにローパスフィルタをかけ,高周波成分を抑えること,(3) オーバーサンプリングを行い,体軸方向のデータ数を増やすことの3つが考えられる。
しかし,(1) は隔壁によりX線検出効率の低下を招く。また(2) は,得られた高周波成分の画像の分解能を低下させてしまうというデメリットもある。図6aのように,体軸方向に得られるMTFは,通常は水色のラインであるのに対し,ローパスフィルタをかけることで,黄色のラインまで分解能を低下させなければWindmillアーチファクトの抑制が十分ではないことを示しており,得られる画像は体軸方向にボケて,
画像全体の分解能が劣化した印象の画像となる(図6c)。
以上のことから,Windmillアーチファクトの抑制には,(3) の方法が最適であると言える。Flying Focal Spotを体軸方向に用いることで,それを実現しているのがz-Sharpである。
図6 ローパスフィルタによるWindmillアーチファクトの抑制
■ Windmillアーチファクト除去理論
0.6mmのディテクタ幅が持つ分解能は,図7の黄色のラインとなる。通常,0.6mmのディテクタ幅では,サンプリング間隔(Δt)も0.6mmとなるが,最高周波数(ナイキスト周波数)は,1/(2・Δt)=0.83Cycle/mmより高い周波数ではエラーを起こし,Windmillアーチファクトの原因となる(図7a)。
そこで,z-Sharpを用いることで,0.6mmのディテクタ幅に対して0.3mmのサンプリング間隔となるため,ナイキスト周波数は1.67Cycle/mmとなり(図7b),サンプリング幅に見合ったサンプリングピッチになる。これにより,Windmillアーチファクトを抑制することとなる。実空間上で見ると図8のようになり,最大に離れたセンターアライメントとシフトアライメントも,オーバーサンプリングすることで,より理想的な信号分布に近づけることができる。
図7 MTFとナイキスト周波数 |
図8 オーバーサンプリングによる信号波イメージ |
図9に,z-Sharpの有無による頭部の画像を示す。Windmillアーチファクトは,アキシャル画像で風車状に現れ,コロナルやサジタルでは,筋状になることが画像の異質感を生む。z-Sharpによりどの方向からでも同一の画質感で観察することができ,解像度の高いボリュームデータを得ることができる。これは,3D画像でも同様である(図10)。ボリュームデータを幅の広い照射野によって得ようとすると,X線ビーム幅が広がることにより,散乱線の影響や,線束中心と辺縁の空間分解能の違い,ヒール効果の影響による画像の劣化が表れてしまう。照射野を広げ過ぎずz-Sharpを用いることで,すべての位置において安定した高いボリュームデータを得ることができる。
図9 頭部におけるWindmillアーチファクトの影響 |
図10 頭部CTAにおけるWindmillアーチファクトの影響 |
■ まとめ
MSCTの発展に伴い,三次元方向の等方性ボクセルが得られるようになったが,三次元方向を同画質で観察するためには,アーチファクトの抑制が不可欠である。z-Sharpは,Windmillアーチファクトの抑制効果に非常に優れ,高い空間分解能の画像を任意の方向から観察することに秀でていると言える。