シーメンス・ジャパン株式会社

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別冊付録

循環器領域における技術紹介 今後の展望
シーメンスMRIの最新技術紹介

循環器領域のMR検査には克服しなければならないさまざまな課題があります。周期的な拍動,準周期的な呼吸の動き,胸部に内因的に存在する磁場の不均一,いずれもMR検査にとっては難題となります。また,臨床や検査だけではなく,適切な後処理も必要なため,循環器領域のMRIに携わる関係者には多くの知識と経験が必要とされ,難解な検査として位置づけられていることも否めません。一方,解剖学的な画像だけでなく,壁運動,血流動態,パーフュージョン,遅延造影など,MRIには大きな期待が寄せられています。このような状況下,ドイツ・シーメンスは循環器領域のMR検査をより普及させるため,多くの情報が得られるCardiac ShimやFrequency Scout,Cardiac Dotエンジンなど,最新の技術を開発してきました。本稿では,今後の展望としての後処理ソフト,そして,研究段階の新しい画像再構成法について紹介します。

図1 4D Flowでの出力画像例 仮想粒子の流れを示す流線像(a),およびその情報から壁にかかる剪断応力分布(b)が計算されている。
図1 4D Flowでの出力画像例
仮想粒子の流れを示す流線像(a),およびその情報から壁にかかる剪断応力分布(b)が計算されている。

4D Flow

従来もPC CINE法による流速測定は行われていましたが,4D Flowは3D PC CINEのデータをより明瞭に可視化するものです1)。4D Flowでは血管内に置いた仮想粒子とその軌跡=流線により,血流の動態を3次元+時間軸=4次元で観察することができます(図1)。複数の色の仮想粒子を設定することにより,血管内で渦巻くVortex Flowなども観察できる点が,従来の手法とは大きく異なる点です。2011年のSCMR(Society for Cardiovascular Magnetic Resonance)では,本法を使用し,血管壁にかかる剪断応力分布から動脈解離を予測するといった研究も発表されています2)。本アプリケーションはまだ研究的な段階ですが,今後,リアルタイムに血流方向を観測できるドップラーエコーと相補して発展し,循環器領域のMR検査に大きく貢献しうる手法と思われます。

Compressed Sensing

心臓のMR検査では,被写体が動いていることから,空間分解能だけでなく,高い時間分解能も求められます。このため,いかに高速にデータを収集するか,もしくは少ないデータ量で画像を再構成するか,という命題を常に突きつけられています。Compressed Sensingは,さらなる高速撮像につながる画像再構成法であり,現在注目を集めている技術です3),4)
本法は,Sparse(疎)なデータサンプリングから解(画像)を求める手法です。Compressed Sensingでは,解が疎である,求める画像に境界(大きく数値が変化する場所)が少ない,などの仮定をもとに,l1 Norm最小値化法という数学的手法を用いて逐次的に画像を再構成します。現在,MRで用いられている画像再構成法では,一般にデータ量が減ると空間分解能が低下してしまいますが,本法ではコントラストが高い場合,空間分解能が十分に維持されるという特徴があり,コントラスト分解能が高いMRIに適合した方法といえます。さらに受信,送信系のハードの追加なしに,数十といったReduction Factorを得ることができ,CINE撮像では20msという時間分解能も得ることが可能です5)図2)。これは50fpsに相当し,血管撮像装置にも引けをとらない時間分解能です。ただし,現状では計算時間が膨大となるため,再構成システムの開発や新しいアルゴリズムの開発が行われています。

図2  Compressed SensingによるCINE画像 (R:Reduction Factor)
図2 Compressed SensingによるCINE画像 (R:Reduction Factor)

循環器領域におけるMRIに課せられた要求を解決するためには,多くの克服すべき技術的障壁があり,さらなる発展を続けなければなりません。本稿で紹介した技術やソフトウェアはシーメンスの取り組みの一部ですが,これらのソリューションが循環器領域のMR検査の普及の一助になれば幸いです。

●参考文献
1) Markl, M. : JCAT, 2004.
2) Putcher, A., Markl, M. ,et al. : JCMR, 13(Suppl. 1), 392, 2011.
3) Candes, J., Tao, T., : IEEE Trans. Inf. Theory, 52・12, 5407〜5425, 2006.
4) Donoho, D.L. : IEEE Trans. Inf. Theory, 52・4, 589〜592, 2006.
5) Uecker, M., et al. : NMR Biomed., 23, 986〜994, 2010.

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