ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 The 2nd Definition Symposium Report 心筋 心臓におけるDual Energy Imaging−心筋血流評価を中心に−
Session U Dual Energy Imaging
心筋 心臓におけるDual Energy Imaging−心筋血流評価を中心に−
心臓CTでは冠動脈の評価に加えて心筋血流評価が可能であり,また,Dual Energy Imaging(以下,DEイメージング)を用いることによって,新たな可能性も見えつつある。そこで今回は,DEイメージングによる心筋血流評価(HeartPBV),SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)による心筋血流の定量評価の初期経験,さらに,DEイメージングによる冠動脈やプラーク性状評価の可能性を中心に報告する。なお,本講演におけるデータはすべて,済生会松山病院で収集・解析したものである。
■DEイメージングによる心筋血流評価
─HeartPBV(Perfused Blood Volume)の可能性
心筋血流評価において,DEイメージングが最も有用性を発揮するのは,ヨードマップによる負荷虚血の描出である。心臓においては,100kVと140kVのデータから合成した120kV画像による冠動脈評価や,ヨードマップによる心筋虚血評価が可能である。
● DEイメージングの実際
DEイメージングによる心筋血流評価のプロトコールを以下に示す。アデノシン三リン酸(ATP)負荷は0.16mg/kg/minを3分間持続後に,高濃度造影剤100ccを4mL/sで注入する。心筋の造影効果を保つために,通常のCoronary CTAより3〜5秒遅れで心電同期DEイメージングにて撮影する。心拍が速くなるほど,2つの管球から得られるデータにレジストレーション・ミスマッチが起こる確率が高くなる。われわれの初期経験56例では,心拍数60bpmまでは確実に成功したが,70bpm以上になると成功率がかなり低くなった。また,このデータをSOMATOM DefinitionとDefinition Flashに分けて検討したところ,Definition Flashでは管球回転速度の向上により,心拍数が65〜70bpm程度であっても,HeartPBVでの処理・評価が可能であった。
● 症例1:心筋SPECTとの比較
76歳,男性。LCXに高度狭窄が認められた。DEイメージングのヨードマップでは,心尖部側壁から広範な虚血領域が描出された(図1)。心筋SPECTでも同様に再分布を伴う虚血領域が描出され,ヨードマップとの良好な一致が見られた。
図1 症例1:ヨードマップと心筋SPECTで虚血領域が一致
● 症例2:冠動脈CTAでは評価困難な症例における優位性
70歳,男性。3本の冠動脈にステントが留置されており,冠動脈CTAではステント内腔の評価が困難であった(図2)。DEイメージングのヨードマップでは,心尖部側壁や心基部前壁側にpatchyな低灌流域が描出され(図3),心筋SPECTとも良好な一致が見られた。
図2 症例2:冠動脈CTAでは評価困難な症例 |
図3 症例2:ヨードマップと心筋SPECT |
● 症例3:治療適応と効果判定
68歳,女性。RCAosに90%狭窄が認められた。心筋SPECTでは,下壁領域にわずかに不完全再分布を伴う灌流低下が認められるが,虚血を評価するのは困難である(図4)。しかし,ヨードマップでは,低灌流域が明瞭に描出されており(図5),症状も強かったためPCIが施行された。PCI後のヨードマップでは,低灌流域がきれいに解除され,症状も改善された。
心臓CTにおいては,冠動脈狭窄による病変検出はもとより,心筋虚血評価によって治療の適応評価を行うことも重要である。その点で,DEイメージングは心臓領域の冠動脈狭窄と心筋血流が同時に評価可能であり,また,Coronary CTAとCT Perfusion Imagingが同時に撮影できることから,冠動脈狭窄情報と心筋血流情報をフュージョンすれば,非常に有用な情報が提供できると思われる。
図4 症例3:心筋SPECTでは虚血の評価が困難な症例 |
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図5 症例3:DEイメージングのヨードマップ |
■Definition Flashを用いた心筋血流定量評価
Definition Flashでは,1心拍ごとに心臓の上下を繰り返し撮影するシャトルスキャンによって,7cm幅の心筋血流評価が可能となった。ボリュームデータで心筋血流の定量化を行うため,短軸での再構成も可能であり,今後,心筋血流評価の大きな進歩につながるものと期待している(図6)。
図6 Definition Flashを用いた心筋血流定量評価
■DEイメージングによる冠動脈,プラーク性状の評価
● 冠動脈の機能評価の可能性
冠動脈のヨードマップの実際のCT値は,狭窄のない症例においてはヨード自体のCT値よりもやや高い傾向がある。一方,狭窄が起始部にある症例ではCT値はそれほど変動しないが,ヨードマップで計測した値はやや低いとの報告もある(Nagao, M., Kido, T., Watanabe, K., et al. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 2010.)。
● 石灰化除去
DEイメージングによる冠動脈石灰化除去にあたり,われわれはbone removal CTAを使用しているが,血管造影とほぼ同等の結果をMIP画像で得られることがある(図7)。しかし,症例によっては石灰化を過大評価してしまい,データ上で除去しすぎて,狭窄のように見えてしまう例も経験している。これは,専用ソフトでないことが原因と考えられるが,逐次近似法を用いた新しい画像再構成法IRIS(Iterative Reconstruction in Image Space)を用いることで,今後,より精度が向上していくものと思われる。
図7 DEイメージングによる石灰化除去(64歳,EAP RCA石灰化)
● プラーク性状評価
100kVと140kVで撮影するDEイメージングにおいて,ヨード,骨,脂肪成分などにROIを設定し,それぞれの線量でどのようなCT値を呈するかを見ると,140kVでは100kVに対して0に集束する傾向があった(図8)。
このようなCT値を見ていくことで,プラークに含まれる脂肪成分や線維成分などの性状が評価できる可能性があると推定でき,今後検討していきたいと考えている。
図8 DEイメージングによるプラーク性状評価
■まとめ
DEイメージングでは,ATP負荷を用いた心筋虚血と冠動脈の同時評価が可能となり,治療適応を含めた評価が一度の検査で可能となった。また,今後,DEイメージングによって,心筋血流の定量評価や冠動脈機能評価,冠動脈石灰化除去,プラーク性状評価が可能になると考えており,ハード,ソフト両面の発展が期待される。