ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 The 1st Definition Symposium Report Session U Dual Energy Imaging 体幹部
Session U Dual Energy Imaging
体幹部 Dual Energy Imaging 〜腹部領域〜
本講演では,Dual Source CT「SOMATOM Definition」(以下,DSCT)による体幹部におけるDual Energy Imaging(以下,DEイメージング)をテーマに,その基礎と解析方法,および腹部領域への応用について,症例画像を示しながら概説する。
DEイメージングの基礎
DSCTでの心臓CTの場合,2つの管球の管電圧はそれぞれ120kVに設定して撮影する。一方,DEイメージングは,1つの管球を140kVに,もう1つを80kVに設定して,1回のスキャンで2つのエネルギーの画像を撮影し,同時に得られたデータの解析を行う。
図1は,左が80kV,右が140kVの画像だが,膵臓や腎臓の造影剤による濃染の程度が異なっている。80kVの低電圧の方が高コントラストに描出されており,管電圧の違いがコントラストに変化をもたらしていることがわかる。
高電圧,低電圧の画像それぞれのCT値を調べると,骨や大動脈については低電圧の方が高い値を示している。特に,造影された大動脈は,全体的にCT値が高くなることがわかる。また,140kVと80kVでは,組織によってCT値の分布が異なるため,その違いを利用してしきい値を設定すると,例えば骨を除去したCTA像を得ることができる。
この原理を簡単に説明すると,140kVおよび80kVの管電圧で発生するX線のスペクトルは,それぞれの管電圧を最高エネルギーとする連続的なスペクトルになっている。このX線のエネルギーは,平均エネルギー,つまり実効エネルギーで評価できるため,X線のエネルギーと吸収係数をグラフにし,80kVと140kVの平均エネルギーのところに線を引くと,図2のようになる。通常の診療用CTで使用される実効エネルギーの領域は,光電効果の影響が大きいとされており,X線のエネルギーが大きくなるほど光電効果は小さくなるのに対し,物質の原子番号が大きくなるほど光電効果は大きくなる。つまり,原子番号の大きいヨードなどではCT値は大きく変化し,原子番号の小さい脂肪などではCT値の変化が少ないため,DEイメージングでは,この2つの要素を応用して物質を判定していくのである。
図1 80kV(左)と140kV(右)で撮影した画像
図2 DEイメージングによる物質判定の原理
DEイメージングの解析方法
DEイメージングの解析アルゴリズムは,2つの物質を分けるときに使用する“Two-material decomposition”と,特定の組織におけるヨード造影剤量を測定する“Three-material decomposition” に大別される。例えば,希釈したガドリニウムとヨードのCT値をグラフ化してみると,濃度が濃くなるに従って,2つのライン上に等間隔に並んでいくのがわかる(図3)。そのラインを境に組織を分けるのがTwo-material decompositionであり,ヨード量の測定も可能である。胸壁など骨に接する部分できれいに骨が除去できるため,当院では,胃静脈瘤などでは,動脈相と門脈相の両方でDEイメージングを行い,図4のような画像を得ている。
図3 Two-material decompositionの原理
図4 DEイメージングによる胃静脈瘤の骨除去CTA,CTP画像
腹部領域への応用
●Liver VNC(Virtual Non-contrast)
通常撮影と同様にDEイメージング撮影時には,“CareDose 4D”という被ばく軽減プログラムを用いて撮影している。造影剤注入量は3mL/sで,動脈相のみをDEイメージングで撮影している。
ヨード造影剤の濃度曲線は基本的に一定のライン上にあり,肝臓を構成する脂肪,水,タンパクなどのCT値も一定のライン上に並んでいるため,ある部分の造影剤のROIをとって濃度曲線に沿って移動させていくと,その交点が造影されていない肝実質のCT値であることがわかる(図5)。このように,造影後の画像から仮想化した単純CT像(VNC)が再構成できるほか,造影剤の染まり具合いからヨードマップ(画像)も再構成することができる。
さらに,ヨードマップ(画像)をカラー化してLiver VNCとフュージョンすると,造影剤の濃染がよりわかりやすく表示される(図6)。こうした作業はワークステーション上で簡単に行うことができる。
図5 Liver VNCの原理
図6 Liver VNCの応用(肝細胞がん)
●Composite Image(合成画像)
80kVの画像を約30%,140kVの画像を約70%の割合で合成を行うことにより,通常の,120 kVの画像に近似した画像を作成することが可能である。1%きざみの割合で作成可能だが,80kVの画像の割合を多くすると,肝細胞がんでは早期濃染が明瞭に見えるようになる一方,肝実質の部分はノイズが増加する。また,淡い濃染を示す腫瘍では,120kVより低い100kVの画像の方が腫瘍濃染が明瞭である(図7)。
図7 肝細胞がんのComposite Image
●Optimum Contrast
Optimum Contrastとは,低電圧の画像をより有効に活用するためのblending techniqueの1つである。前述の合成画像は,linear blendingという,常にCT値の低いところから高いところまでを一定にして合成する方法だが,non-linear blendingを用いたOptimum Contrastでは,CT値によって合成の割合を変化させる。例えば,CT値の低い領域は80kVを30%,120kVを70%で合成し,濃染部分等のCT値の高い領域については,合成比率を変え,より明瞭に濃染が描出できる80kVの割合を増加させる手法である。これにより,全体としては,比較的ノイズが抑えられ,かつ濃染が明瞭な画像を得ることができる。
そこで,肝細胞がんが疑われてDEイメージングが施行された12例について,CT値とノイズを測定して腫瘍肝コントラストを計算し,比較を行った。肝細胞がんの濃染部のCT値は,Optimum Contrastの画像が80kVに次いで高い値を示し,肝実質のCT値とノイズは,100kV,120kVと同等であった。腫瘍のコントラストもOptimum Contrastが最も良好であり,かつ肝実質のCT値の上昇も抑えられているため,多血性の腫瘍は良好に検出できるようになる(図8)。
図8 Optimum Contrastとその他の画像の比較
まとめ
DSCTにおけるDEイメージングによる骨除去のCTAや合成画像,Liver VNCなどのアプリケーションは腹部領域に有用であった。2つの管電圧の成分を効率的に利用することによって,目的に合わせた画像が簡便に作成でき,診断能の向上にも寄与するものと思われる。