シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

Session T Cardiac Imaging

心筋 MSCTを用いた心筋評価 〜これまでの検討とDual Energy Imagingの可能性〜

城戸輝仁 愛媛大学医学部放射線科
城戸輝仁
愛媛大学医学部放射線科

心臓CTはこれまで,冠動脈の評価を中心に発展してきた。愛媛大学では1999年から,シングルヘリカルCTを用いてマニュアルで心電図同期をかける方法により冠動脈プラークの描出を行い,心機能評価や心筋虚血評価なども可能であることを報告してきた1)。その後,CTの多列化が急速に進み,Dual Source CT「SOMATOM Definition」(以下,DSCT)では,冠動脈CTの診断率が,感度92%,特異度96%,かつassessability(診断効率)98%と,非常に高い診断精度を実現するに至っている2)
最近では,心臓CTによる冠動脈狭窄の評価に加えて,治療適応の評価,すなわちプラーク性状評価,心機能評価,心筋虚血評価,心筋性状評価(遅延造影)が行われるようになっている。今回はこの中から,心筋虚血評価と心筋性状評価(遅延造影)について,Single Energyイメージングによるわれわれの基礎的検討,およびDual Energyイメージング(以下,DEイメージング)における初期経験を報告する。

倉田 聖*1 東野 博*1 望月輝一*1 岡山英樹*2
檜垣實男*2 渡辺浩毅*3 山本昌也*4
橘 知宏*5 村上輝恵*5 浅海 直*5
*1 愛媛大学医学部放射線科
*2 愛媛大学医学部循環器内科
*3 済生会松山病院循環器科
*4 済生会松山病院放射線科
*5 済生会松山病院画像センター

Single Energyイメージングによる心筋虚血評価

心筋虚血評価は従来よりアデノシン三リン酸(ATP)負荷心筋SPECTにより行われてきたが,心臓CTでは,安静時とATP負荷時の評価が可能である。

●安静時の心位相による変化
収縮期に心筋内の造影剤が洗い出される微小冠動脈血流現象をとらえる安静時心筋血流評価は,収縮期や拡張期の心位相の変化を見ることにより,虚血が描出できる可能性がある。この方法の利点は,通常冠動脈CTの撮影データから解析できるため,被ばくや造影剤の追加がないことであり,問題点は機器や撮影条件の影響を受けることである。

●安静時ダイナミックスキャンの展望
安静時でも高度狭窄病変がある場合,造影剤による心筋の染まりにタイムラグが生じるため,その部分にダイナミックスキャンを行うと,心筋虚血をとらえることができるのではないかと考える。ただし,スキャンタイミングを2心拍,3心拍と増やすと被ばく線量が増加すること,心筋全体を評価するには装置を選ぶ必要があること,などの問題点もある。

●ATP負荷による定性評価と定量評価
心筋SPECTで再分布を認める領域には,ATP負荷心筋造影CTでは虚血を表す低吸収域が広がり,安静時には灌流の改善が認められ,高い一致率を示した。さらにCTでは,虚血領域における冠動脈狭窄の形態的情報も同時に得られるため,診断能の向上が期待された。またわれわれは,ATP負荷相と遅延相で撮影するプロトコールも実施し,心筋SPECTとの良好な一致を認めている。心筋虚血の定性評価では,時間分解能の改善やワイドディテクタが非常に有用ではないかと考えている。
一方,ATP負荷による定量評価は,正確な虚血評価の可能性があるが,造影剤量とビームハードニングアーチファクト,被ばく低減と画質低下・データ量減少の相関関係があること,フィルタや解析ソフトの開発が必要,などの課題もある。

●心筋性状評価(遅延造影)
MRIの遅延造影(LGE)では,造影領域は病理学的な心筋梗塞領域と一致することが証明されており,また,遅延造影の深さによって,機能的予後が評価できるため,非常に有用な方法と認められている。そこでわれわれは,CTの遅延造影(LIE)による心筋性状評価を検討したところ,MRIと同じ領域に一致する遅延造影を認めた。しかし現状では,ヨード造影剤量の不足から,LIEの検出率は60〜70%程度であり,DEイメージングによる検出能の向上が期待される。

DEイメージングの初期経験と可能性

ここでは,当大学の関連病院である済生会松山病院のDSCTを用いたDEイメージングによる心筋虚血評価の初期経験を報告する。

1. DEイメージングによる心筋虚血評価
DEイメージングでは,100kVと140kVの画像を元に,ヨード成分を抜き出した“ヨード強調マップ(画像)”,および両者をフュージョンした“Composite Image(合成画像)120kV”の画像を作成することができる(図1)。これらの画像と,冠動脈CTやcoronary curved MPRなどを比較して読影する。DEイメージングによる心筋虚血評価のプロトコールは,ATP負荷は0.16mg/kg/minを3分間投与し,造影剤は4mL/sで100cc注入。通常の冠動脈CTより3〜5秒遅らせて撮影を行った。

図1 DEイメージングの解析原理
図1 DEイメージングの解析原理

●Case1:心筋SPECTとの比較
76歳,男性,労作時胸痛,LCX高度狭窄病変のあった症例では,SPECTと一致する領域にDEイメージングのヨード強調マップ(画像)でも低灌流域を認めた。

●Case2:治療効果判定
68歳,女性,労作時胸痛の症例で,RCAosに90%の狭窄がある。SPECTでは有意な狭窄病変を認めなかったが,非常に強い症状があるためDEイメージングを施行したところ,ヨード強調マップ(画像)で下壁領域に低灌流域がありPCIを実施。PCI後に下壁の低灌流域は消失しており,RCAosの狭窄が示唆された。

●Case3:冠動脈 CTとの比較
70歳,男性,3枝PCI後の症例で,再狭窄が疑われた。DEイメージングによる120kVの合成画像から作成した冠動脈CT(図2)では,多くの石灰化やステントがあるため再狭窄の有無は明らかではなかったが,ヨード強調マップ(画像)(図3)では心尖部側壁寄りや後位前壁に低灌流域が認められ,SPECTでも同一の場所で再分布を伴う虚血が認められた。このようにDEイメージングを用いることで,非常にクリアに虚血を描出できる可能性がある。

図2 Case 3:70歳,男性,3枝PCI後
図2 Case 3:70歳,男性,3枝PCI後
DEイメージングの120kV画像から作成した冠動脈CT

図3 図2の症例のDEイメージング(ヨード強調マップ)
図3 図2の症例のDEイメージング(ヨード強調マップ)

●Case4:高心拍数への対応
65歳,女性,労作時胸痛,撮影時心拍数(HR)が75bpmの症例である。HRが高いため100kVと140kVの合成画像再構成がうまくいかず,ヨード強調マップ(画像)では数値エラーが虚血のように見えている(図4)。われわれの経験では,HRが上がると,アーチファクトにより画質が劣化することが明らかになった(図5)。時間分解能の不足や低電圧(100kV)側のノイズが原因となり,heartPBVソフトウェアでの再構成エラーに遭遇することも多い。
時間分解能は128スライスのDSCT「SOMATOM Definition Flash」で改善されていくはずだが,低電圧側のノイズの低減については現在,われわれとシーメンス社の共同研究による3D Denoise filterの開発が行われている。

図4 Case 4:65歳,女性,労作時胸痛
図4 Case 4:65歳,女性,労作時胸痛
DEイメージングのヨード強調マップ(画像)
図5 DEイメージングのフュージョン再構成の結果(HRと画質の関係)
図5 DEイメージングのフュージョン
再構成の結果(HRと画質の関係)

2. DEイメージングを用いた遅延造影
DEイメージングによる遅延造影は,内膜側に限局した遅延造影の範囲はきれいに描出可能だが,100kVと140kVの合成不良によるアーチファクト領域も出るため, 今後,時間分解能の改善や3D Denoise filterの応用が必要と考えられる。

まとめ

MSCTを用いた心筋評価は装置や撮影条件に依存する。CT装置の発展と造影剤の使用法や撮影タイミングの工夫,的確なフィルター処理により,心筋評価はさらなる発展を遂げる可能性があり,DSCTによる診断精度の向上が期待される。

1) Mochizuki, T., et al. : LAD Stenosis Detected by Subsecond Spiral CT. Circulation, 99・11, 1523, 1999.
2) uzsics, B., Schoepf, U. J., et al. : Images in cardiovascular medicine; Myocardial ischemia diagnosed by dual-energy computed tomography ; Correlation with single-photon emission computed tomography. Circulation, 117, 1244〜1245, 2008.

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