ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 The 1st Definition Symposium Report Session T Cardiac Imaging 冠動脈U
Session T Cardiac Imaging
冠動脈U Dual Source CTでみる冠動脈プラークの展望
本講演では,心臓CT研究のために留学していたドイツのErlangen-Nurnberg大学において使用したDual Source CT「SOMATOM Definition」(以下,DSCT)の経験から,冠動脈プラークの解析(Plaque Map),高心拍数患者の撮影,被ばく低減などにおけるDSCTの有用性について述べる。
冠動脈疾患に対する診断ストラテジーの変化
心臓CTの冠動脈狭窄度の診断能は,スライス数の増加に伴い向上してきた。64スライスCTにおける感度,特異度は,負荷エコーや運動負荷心筋シンチグラフィといった非侵襲的な検査を超えるようになり,心臓CTは今や,外来でルーチンに施行できる検査法となった。
心臓CTは,冠動脈の狭窄度診断,冠動脈の起始異常の判別やCTO(慢性完全閉塞)病変の末梢の描出が可能であり,また,血管内超音波検査(IVUS)に匹敵するプラーク性状の診断能を有するなど,心臓カテーテル検査(CAG)と比べて,より多くの情報が得られるようになった(図1)。
こうしたCTの進歩は,冠動脈疾患の診断・治療のストラテジーに変化をもたらしている(図2)。従来,心電図・血液検査の後に心エコーや負荷試験を行い,入院後に,CAGや冠動脈形成術(PCI)を行っていたのに対して,心電図・血液検査の後に心臓CTを施行することで,入院前に冠動脈の狭窄度診断とプラーク性状の評価が可能となり,さらに,その結果をPCIのガイドとして使用することもできるようになった。
図1 CAGより情報量の多い心臓CT
図2 冠動脈疾患の診断・治療ストラテジー
DSCTの有用性
●プラーク性状の評価
冠動脈プラークのCT値については,CT装置の性能などによりバラツキがある。しかし,CTのスライス数の増加に伴い,CT値のバラツキの要因の1つである空間分解能が向上した。そして,DSCTでは,高い時間分解能との相乗効果で0.3〜0.4mmという高い空間分解能を実現したことで,より正確なCT値を計測できるようになり,プラーク性状を高精度に解析することが可能となった。
一方,プラーク性状を評価する上で,円形などの関心領域(ROI)設定では不十分である。そこで,画像全体のCT値を色分けして表示するPlaque Mapを2005年に開発した(図3)。ソフトプラーク,線維性プラーク,カルシウムプラークなどのプラーク性状を非常に高い感度で解析することができるPlaque Mapの有用性は,臨床的にも高く評価されている1)〜4)。
破綻したプラーク部分をDSCTで撮影した報告5)では,Plaque Mapで解析すると,cavity,石灰化,lipid poolの状態も,カラーでわかりやすく表示することができる。このように色分けしてプラーク解析を行う手法は,現在では一般的になりつつある。
図3 Plaque Map
●心拍数に依存しない診断能
心臓CTの撮影では,心時相や高心拍数,心拍変動など,さまざまな要因が画質に悪影響を及ぼす。心拍数を低下させるためにβブロッカーの投与が必要な場合があるが,禁忌症例や心臓移植後の症例および小児では,多セグメント再構成法を用いても,データの結合や平均化で画質が劣化することがあり,また,不整脈がある場合も画質が低下する。しかし,83msという高い時間分解能を持つDSCTであれば,高心拍数症例でもβブロッカーを使用することなく,きわめて高画質な画像を安定して得ることができる(図4)。
また,DSCTは,BMIの高い高度肥満症例でも,画像のブレがない,きわめて良好な画像が得られる。DSCTはBMIやカルシウムスコア,心拍数に依存せず,大動脈弁や僧帽弁狭窄などの動きのある症例でも明瞭に描出することができる。
図4 64スライスCT,DSCTそれぞれにおける心拍調節の有無による診断能の違い(文献6)より引用)
●Cardio BestPhase機能
DSCTの画像再構成の最適心時相については,心拍数70bpm以上では,心時相のうち,収縮期と拡張期が約半々となる結果も得られているため,収縮期と拡張期両方を含んだ時相で画像の再構成を行う工夫も必要であると思われる。最近では,DSCTの新しい機能として,最適心時相を自動検索するCardio BestPhase機能があり,有用性が期待される(図5)。
図5 Cardio BestPhase機能
●被ばく線量の低減
心臓CTの短所とされている被ばく線量についてであるが,時間分解能が高く,高心拍数でも撮影可能なDSCTは,被ばく低減の観点からも有用である。図6は,CAG,PCI,64スライスCT,320列CT,DSCTの被ばく線量を示したものである。DSCTの被ばく線量は,2.5mSv程度にまで減少しているが,さらに128スライスの「SOMATOM Definition Flash」では,1mSv以下という大幅な被ばく線量の低減を実現している。
近い将来,どこの病院でも心臓CT検査が1mSv以下で受けられる時代が来るよう,SOMATOM Definition Flashの普及に大いに期待したい。
図6 Prospective Gatingにおける被ばく線量の比較
1) | 児玉和久・他 監修 : 循環器診療・インターベンションのためのMDCT.東京,中山書店, 2007. |
2) | 児玉和久監修,小松 誠・他編集 : 心臓血管画像MOOK. 東京, 産業開発機構, 2007. |
3) | Komatsu, S., et al. : Vascular Disease Prevention, 2006. |
4) | Komatsu, S., et al. : Diagnostic Imaging in Asia/Pacific, 2006. |
5) | Komatsu, S., et al. : Eur. H. J., 2008. |
6) | Achenbach, S. : JACC Imaging, 2008. |