ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 MAGNETOM 磁場均一性に優れた高画質は診療と臨床研究に貢献
3T MAGNETOM Verio
磁場均一性に優れた高画質は診療と臨床研究に貢献
奈良県立医科大学附属病院
奈良県立医科大学附属病院は2009年5月,シーメンス社の1.5T MRI「MAGNETOM Avanto」,「MAGNETOM Symphony Sonata」に加えて同社の3T MRI「MAGNETOM Verio」を導入し,3台のMRIによる検査体制を構築した。MAGNETOM Verioは,3T装置としては唯一70cmという広いガントリ開口径を有し,さらにはTimシステムに加えてTrueFormテクノロジーを搭載したことで,体幹部においても優れた磁場均一性が得られるなど,従来の3T MRIが抱える課題を解消している。すでに世界では260台以上(2009年9月現在)が稼働し,高い評価を得ているが,同院においても,大学病院に求められる高度な医療の提供はもとより,先進的な研究の中心となるフラッグシップ機として期待されている。MAGNETOM Verio導入の経緯や臨床応用の実際,展望について,中央放射線部の田岡俊昭准教授,放射線科の北野 悟助教,中央放射線部の野儀明宏技師にお話をうかがった。
田岡俊昭 准教授 |
北野 悟 助教 |
野儀明宏 技師 |
体幹部の磁場均一性に優れたMAGNETOM Verioを導入
奈良県立医科大学附属病院は2009年5月,MRI検査体制の充実をめざし,シーメンス社の3T MRI「MAGNETOM Verio」を導入した。同院ではそれまで,1.5T MRIの「MAGNETOM Avanto」と「MAGNETOM Symphony Sonata」の2台で,年間約7000件の撮像を行っていたが,検査待ちが2〜3か月にも及んでいた。そこで,検査待ちを短縮すると同時に,大学病院としての研究の中心を担うフラッグシップ機として3T MRIの導入が決定された。
新たに導入する3T MRIは,最先端の装置であること,腹部・血管領域でも磁場均一性に優れていること,検査効率に優れていること,という3つの条件を満たしていることが求められた。中でも最大のポイントとして,北野悟助教は3T MRIで課題とされている腹部領域の磁場均一性を挙げているが,放射線科で3T MRIの導入を検討し始めた時点で,磁場均一性を保つ最新技術を搭載していたのはMAGNETOM Verioだけだったという。MAGNETOM Verioは,TrueFormテクノロジーによって,静磁場,傾斜磁場だけでなく,撮像シーケンスや画像処理に至るまでトータルに最適化が図られ,3T MRIとしての能力が向上している。そのため,北野助教は,これらの技術によって得られる高画質に強い期待を寄せていた。
MAGNETOM Verioが日本で発表されたのは2008年9月だが,世界ではその時点で,すでに出荷が開始されていた。そのため,田岡俊昭准教授は同年10月,韓国・ソウルで行われたAsian Oceanian Congress of Radiology(AOCR)に出席した際,インチョンにあるGachon University Neuroscience Research Instituteを訪問し,MAGNETOM Verioを見学することができた。このときの印象について,田岡准教授は,「肩関節の画像を見たのですが,MAGNETOM VerioのTrueFormテクノロジーがもたらす,磁場均一性に優れた歪みのない高画質に驚きました。さらに,70cmオープンボアを自分で体験して,その快適性を実感することができました」と述べている。
その高い技術力と世界での実績が評価され,MAGNETOM Verioの導入に至った。
70cmのオープンボアで患者さんの快適性を向上
同院では現在,3台のMRIがそれぞれ1日に13〜14件ずつ,計約40件の検査を行っている。MAGNETOM Verioを導入したことで,検査待ちが従来の2〜3か月から2週間前後にまで大幅に短縮し,目的のひとつであった検査効率の向上を実現した。また,MAGNETOM Verioの最大の特長である70cmのオープンボアとショートマグネットについて,野儀明宏技師は次のように評価している。
「ボアが広くなったことで,照明の明かりがボア内部にも届いて明るくなりました。1.5T MRIよりも開放感があり,楽に検査が受けられたという患者さんの声も聞いています」
結果として,患者さんがリラックスして検査を受けられるため,体動が抑制され,画質の向上にもつながっている。また,腰部痛や関節系などに痛みのある患者さんが横を向いたり,膝を曲げたりして,自由な体位で撮像できる。撮像部位が多少FoV中心からずれても,TrueFormテクノロジーにより診断には問題のない画像が得られているという。
コンソールの操作性やTimコイルの扱いについては,同院で以前から稼働している2台の1.5T MRIがシーメンス社製のため,導入当初からスムーズな流れで検査を行うことができた。むしろ,同院では静磁場強度が3Tになったことで,特に安全面については他施設を見学しアドバイスを受けるなど,事前に綿密な検討を重ねていた。現状について野儀技師は,「慎重な配慮が必要という点では1.5Tも3Tも変わりませんので,3Tが導入された後も従来の1.5Tにおいても,安全面には同様に注意を払っています。検査内容としては,MAGNETOM Verioでも従来通りの検査の進め方で対応できています」と説明する。
MAGNETOM Verioのコンソール(左)と読影風景(右)
田岡准教授は,自作のフットスイッチでの画像のスクロールなどの工夫を行いながら,1日最多80件にもなる読影をこなしている。
SNRに優れた高画質がもたらすMRIの新たなる可能性
MAGNETOM Verioは,5月に稼働を開始してまだ約3か月のため,現状では頭部領域と腹部領域を対象に,症例を絞って検査を行っている。しかし,診療にはすでに,いくつかの有用性の高い変化が見られるようになった。
●頭部領域における評価
頭部領域では現在,脳動脈瘤の詳細な描出が求められる症例,脳腫瘍でMRSや術前の錐体路の走行などの拡散テンソルトラクトグラフィが求められる症例,磁化率強調画像(SWI)が求められる外傷症例などが,MAGNETOM Verioの主な適応となっている。
田岡准教授は,MAGNETOM Verioの画質について,「頭部ではやはり,MR Angiography(MRA)の画質が圧倒的です。1.5T装置と比べると,その情報量の違いは歴然としており,1〜2mmの小さな動脈瘤を迷わずに診断できることは,大きなメリットです。また,てんかんの診断に必要な海馬の解剖が,3Tではとても細かく描出できるなど,その画質は予想以上です」と高く評価している。
いまや脳腫瘍の術前検査としてルーチン化している拡散テンソルトラクトグラフィについても,高いSNRによって細かい神経路まで信号としてとらえられるため,ターゲットである神経線維の走行が安定して描出できるようになった。さらに,より大きなメリットが得られる撮像法として,田岡准教授は,シーメンス独自の磁化率強調画像であるsyngo SWIを挙げ,次のように述べている。
「SWIについては,1.5Tでも十分に描出できていると思っていましたが,3Tではさらに小さな,例えば脳腫瘍内の出血や,髄質静脈の非常に細かいレベルまで描出できます。当院でも,高次脳機能障害の症例で,1.5Tでは何もないとされていた患者さんを3Tで撮像したところ,軸索に沿って出血が認められたという経験をしていますが,これは大きなメリットです」
同院では,MAGNETOM Verio導入後約3か月で,SWIを1日に3〜4例,合計約240例撮像しており,適応疾患についてはルーチンになりつつある。
●腹部・血管領域における評価
腹部領域では,MAGNETOM Verioによって,特に骨盤内臓器の描出能が大幅に向上した。北野助教は,「骨盤内臓器の診断では3D画像を使用しますが,その際により良好な画像が得られるようになりました。1.5T では最適なコントラストが得られなかったり,スライス厚を薄くすると,SNRが低下して画像が劣化することがありましたが,その点で,3Tの高いSNRはとても有効です」と評価している。
同院では現在,3DのT2強調像の撮像ではシーメンス独自の三次元撮像法であるsyngo SPACEを,3DのT1強調像の撮像では三次元ダイナミック撮像のためのアプリケーションであるsyngo VIBEを使用し,骨盤領域の撮像を行っている。1.5T MRIでは,syngo SPACEを主に子宮筋腫などの良性疾患の診断に用いていたが,MAGNETOM Verioではシーケンスが改良され,コントラストがより通常のT2強調像に近づいたことから,子宮体がんや子宮頸がんの診断にも使用できるようになった。また,下肢専用コイルを用いた骨盤下肢動脈のMRAについても,画質が向上している。
上腹部については,消化管の影響を受けやすいため,1.5T MRIよりもややアーチファクトが目立つが,肝細胞がんなどを中心とした肝腫瘍の検索では,T1強調のダイナミックMRI(VIBE)による高速撮像で,3T MRIのSNRの高さが役立っている。特に,肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAを用いた造影MRIでは,1.5Tと比べて肝細胞造影相などで高いコントラストが得られている。このため,肝臓検査については,以前はCTファーストで行っていたが,超音波などによるスクリーニングで異常が指摘された場合は,できるだけGd-EOB-DTPA造影MRIを第一選択とするようにしている。また,肝がんのハイリスク患者のスクリーニングや,肝動脈塞栓術(TACE)後およびラジオ波焼灼療法(RFA)後の肝細胞がんのフォローアップでは,CTとMRIで交互に検査を行い,相補的な情報を得るようにしている。
MAGNETOM Verioは3T MRIの課題を解消
3T MRIは,1.5T MRIと比べて多くのメリットがある一方,磁化率効果の増強やT1緩和時間の延長とT2緩和時間の短縮による画像コントラストの変化,SARの増大,RF磁場の不均一などによって,特に体幹部領域への影響が大きいとされている。これについて北野助教は,「MAGNETOM Verioを選んだ理由の1つに,1.5T MRIと同じようなプロトコールで撮像できるということがあったのですが,実際に,当院ではほぼ同じシーケンスで問題なく撮像できています」と述べている。特に呼吸停止下の上腹部の撮像では,動きのアーチファクトが抑制され,むしろ3Tの方が高精細な画像が得られるようになった。
また,頭部領域について,田岡准教授は,「T1強調像に関してはまったく違和感はなく,1.5Tと同じように読影しています。T2強調像についても,脳では深部の鉄を含むような核の色合いが変化することを念頭に置いて読影している程度です」と述べており,MAGNETOM VerioではTrueFormテクノロジーなどの先進技術により,3T MRIの課題が大幅に解消されていることがうかがえる。
3Tの能力を最大限に引き出す臨床研究をスタート
MAGNETOM Verioはスループットに優れているため,撮像件数をさらに増やすことも可能だが,同院では大学病院という特性上,今後も症例を絞り,臨床研究に比重を置いて撮像を行っていく予定である。
頭部領域における今後の研究テーマについて,田岡准教授は,「非造影パーフュージョンイメージングのアプリケーションであるASLは,ワークステーションではなくコンソール上で手軽に非造影の灌流情報が得られます。特に,急性期脳梗塞症例では非常に有力な情報になると思いますので,これから検討を進めていきます。また,拡散テンソルトラクトグラフィを,高次脳機能障害の診断に活用するための研究を,奈良県総合リハビリテーションセンターと共同で始めました。画像診断で有用な情報が提供できれば,治療にも大きく貢献できると考えています」と述べている。
このほか,パーキンソン病に対する定位脳手術においても,視床下核など脳の深部の評価には3T MRIの方が1.5T MRIよりも優れていることから,条件が整い次第,刺激部位の位置決めに3T MRIを活用するための評価を行っていきたい考えだ。
また,北野助教は,腹部・血管領域の展望について次のように述べている。
「NSFの問題があるため,造影剤の2倍量投与が行われる大血管と骨盤下肢動脈の検査については,非造影MRAの依頼が増加しています。新たに,非造影MRAのアプリケーションであるNATIVEを追加予定ですので,まずは下肢動脈を中心に検討を行っていきます。また,3T MRIはコントラストが高いため,ダイナミック3D撮像法のTWISTを用いた肝臓のダイナミックMRIでは,時間分解能をかなり上げても画質の劣化が少なくてすみます。TWISTの画像だけで診断できる可能性もありますので,これから評価していきます」
このほか,3T MRIをほかのさまざまな領域で活用することも検討されており,さらなる適応範囲の広がりが見込まれている。MAGNETOM Verioの能力を最大限に引き出すための挑戦は,まだ始まったばかりだが,同院の研究がひとつでも多く実を結び,臨床適応へとつながっていくことに期待したい。
(2009年8月5日取材)
a:上腹部不快感を前兆とする複雑部分発作で,側頭葉てんかんが疑われる。3T装置での海馬T2強調像(a)では,右海馬の浅髄板の不連続像が見られる(↑)。
b:1.5T装置での海馬T2強調像(b)では,浅髄板自体の描出が不明瞭であり,不連続像の確認が難しい。
1.5T:1.5T装置でのMRA(左:MIP像,右:元画像)では,右内頸動脈に瘤状の像が見られ,動脈瘤が疑われる。後交通動脈自体は描出されていない。
3T:3T装置でのMRA(左:MIP像,左:元画像)では,上記の瘤状の像の先端から後交通動脈が連続しているのがわかる。動脈瘤ではなく,後交通動脈起始部の漏斗状拡張であることが判明した。
交通事故による頭部外傷。見当識障害が持続している。T2強調像(a)では血管周囲腔の拡張像や白質の異常信号が散見される程度であるが,3T装置での磁化率強調像(SWI)では,頭頂葉の実質内に微小出血が認められ(b ←),びまん性軸索損傷が疑われる。
3D SPACE(b)は,従来の2D T2強調像(a)と同様のコントラストの画像をiso voxel imageで得ることが可能である。任意断面の画像(c)を再構成で作成することが可能であり,腫瘍の広がり診断に必要な情報を1回の撮像から得られる。
iso voxel 3D T1強調像(VIBE)によるdynamic MRI(d)は,任意断面の再構成ができるため,造影前に撮像断面の選択に悩むことがなく,検査担当者の負担も軽減できる(本症例は,横断像で撮像している)。
3T MRIにより,HASTE法でも肝細胞がん検出に必要なコントラストが得られ(a),20分後の肝細胞相の画質も向上している(b)。syngo TWISTを用いて,動脈相5相のdynamic MRIを行うことにより,腫瘍の血行動態の把握が可能である(c,d)。
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