ホーム inNavi Suite シーメンス・ジャパン 別冊付録 MAGNETOM 最先端技術を搭載した3T MRIを導入しMRI中心の画像診断をめざす
3T MAGNETOM Verio 最先端技術を搭載した3T MRIを導入しMRI中心の画像診断をめざす
聖路加国際病院
聖路加国際病院は2009年6月,MRI検査体制のさらなる充実をめざし,シーメンス社の3T MRI「MAGNETOM Verio」を新規導入した。MAGNETOM Verioは,3T装置として唯一70cmの広いガントリ開口径を実現し,体幹部においても磁場均一性を保持する“TrueFormテクノロジー”を搭載して,検査の快適性と高画質を両立した最新の装置である。一方,同院は100年以上に及ぶ長い歴史の中で,常に新しい知識・技術の導入に積極的に取り組み,国内における医療の最先端を担い続けてきた。急性期医療や救急医療だけでなく,予防医療や緩和医療,在宅医療などの幅広い提供はもとより,画像診断においても,国内トップクラスの質と量を維持している。同院におけるMAGNETOM Verio導入のねらいと初期使用経験,展望について,放射線科の齋田幸久部長を中心にお話をうかがった。
齋田幸久 部長 |
渡邉嘉之 医師 |
槇殿文香理 医師 |
根津正次 技師長 |
中村美穂 技師 |
全人的ケアをモットーに先駆的医療に取り組む
聖路加国際病院は1902年,東京・築地に診療所として開設された。キリスト教精神に基づく全人的ケアをモットーに診療と看護が行われ,107年が経過したいまも,その精神は受け継がれている。
一方,この長い歴史は,同院の新しい知識・技術の導入の歴史と言っても過言ではない。古くは国内最初の高等看護学校の設立や,国内最初の予防医学的健診(人間ドック)に取り組み,近年では,92年に災害時にも万全の医療体制が整えられる画期的な新病院棟を建設。2005年には,乳がんのチーム医療に取り組むブレストセンターを開設した。
放射線科においても,年間の検査数が約2万6000件のCT,約1万3000件のMRIをはじめとして,一般撮影や超音波検査を含む,すべての読影を放射線科専門医が行っている。スタッフの人数は国内トップクラスである。MRIについては,すでに1Tが1台,1.5Tが2台の計3台が稼働していたが,2009年6月には,4台目のMRIとして,新たに3T MRI「MAGNETOM Verio」が導入された。
画像診断の将来を見据え3T MRIの導入を決定
MRIを新しく導入した理由について,齋田幸久部長は,「MRIが中心になる画像診断の将来を見据えた上での決断」と述べている。
一般的に,CTは汎用性が高く,検査スループットに優れているため,第一選択の検査として使用されているが,一般撮影に比べて被ばく線量が圧倒的に多いというデメリットがある。齋田部長は,将来的には被ばくのないMRIにシフトしていくべきと考えており,同院においても,MRI検査を増やすという方向性を打ち出していた。
こうした判断の下,放射線科では, 新たに導入するMRIを1.5Tと3Tのどちらにするかについて,慎重な議論が行われた。それについて,渡邉嘉之医師は,「3T MRIは,頭部では非常に高精細な画像が得られており,体幹部においても,さまざまな課題がこの2年ほどの間に急速にクリアされ,最近では1.5Tの画質を凌ぐようになってきているという放射線科全体での現状認識でした」と述べている。また,齋田部長は,「数年後には3T MRIの時代が来る」と予測しており,同院にとって3Tという選択は,まさに必然であったと言える。
TimコイルとTrueFormテクノロジーを評価
3T装置の選定にあたっては,各社の最新装置の画質や機能,検査効率,設置面積などについて,詳細な検討が行われた。同院では,いままでシーメンスMRIの使用経験がなかったが,齋田部長は,世界的にも定評のあるTimコイルやシーメンスMRIの性能について以前から注目しており,MAGNETOM Verioについても同院の要望に十分応えうる装置であると考えていた。また,根津正次技師長は,「70cmのオープンボアにもかかわらず優れた磁場均一性を実現しており,その技術力の高さには大変驚きました」と述べているが,それこそが,MAGNETOM Verioに搭載された,“TrueFormテクノロジー”である。
TrueFormテクノロジーとは,TrueForm magnet,TrueForm Gradient,TrueForm RFの3つの技術で構成されている。このうち,TrueForm magnetとTrueForm Gradientでは,従来は球体だった磁場均一度範囲と傾斜磁場の線形性を,より人体に近い円筒形で最適化し,TrueForm RFでは,臨床用の装置としては初めて,マルチチャンネル送信RFコントロールを可能にした。
これらの技術を総合的に評価した上で,最終的には齋田部長が,MAGNETOM Verioを導入した海外の医療機関をリサーチし,優れた装置であるとの確証が得られた時点で,MAGNETOM Verioの導入が決定された。
MAGNETOM Verioの初期使用経験
同院のMAGNETOM Verioは,2009年7月上旬に稼働をゆるやかに開始した。試験稼働中は1回の検査時間を約45分とし,9時から17時に時間を限定して,1日に10件程度の撮像を行っている。導入後3か月頃までは,頭部領域をはじめ,骨軟部や骨盤腔,乳腺,腹部など,あらゆる領域について,実際に3Tでどのような画像が得られるかを確認しながら,撮像条件を調整する作業が続けられている。
●撮像法の検討
撮像法については,1.5Tと同じ30分の検査枠内で,すべての領域において,より質の高い3T画像の提供を目標としている。例えば頭部では,1.5Tではスライス厚5mmで撮像しているが,3Tではスライス厚3mmをルーチンにする予定である。また,コントラストは,T2強調像については1.5Tと3Tに大きな違いはないが,T1強調像については,3Tではややコントラストがつきにくいため,できるだけ1.5Tに近づくような調整を行っている。
●アプリケーションについての検討
MRSについて齋田部長は,「3Tでは,1.5Tと比べて格段に優れています」と高く評価している。同院では,脳腫瘍および腫瘤性病変の鑑別にMRSを使用しているほか,MRIでの検査数の多い乳腺についても,MRSでコリン(Cho)を測定し,化学療法の早期効果判定に有用かどうかの評価を始めている。またMRSの設定が簡単に行えるため,画質の向上と相まって,撮像時間を1.5Tの約半分である1分半程度にまで短縮できる見込みだ。
シーメンス独自の非造影パーフュージョンイメージングのアプリケーションであるsyngo ASLについては,約5分で撮像できるため,脳血流の異常の診断に活用することが予定されている。三次元撮像法のsyngo SPACEは,可変フリップアングルを用いたTSEであり,短時間で全脳の高分解画像が得られるため,有用性が期待されている。このほか,拡散テンソルトラクトグラフィについては,脳神経外科から脳腫瘍の術前ガイドとして使用したいとの要望があるため,今後,撮像を行っていく予定である。
一方,頭部領域以外については,T1,T2値を定量測定するsyngo MapItを用いて,関節軟骨の定量的評価や,輸血後の肝臓における鉄沈着の程度をT2*値にて評価するための検討が始められている。
●CTとの使い分け
肝がんの精査においては,通常,CTがファーストチョイスとなるが,最近では,肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAを用いた造影MRIの優れた診断能によって,MRIの臨床的有用性が増している。さらに,齋田部長は,3T MRI稼働後の変化について,「3Tは1.5Tよりも空間分解能に優れているため,転移の検出や肝細胞がんの診断精度がかなり高くなります。これだけ診断能が高ければ,超音波によるスクリーニングの後,特に肝細胞がんについては,ダイナミックCTは不要になるかもしれません」と展望している。
●1.5Tと3Tの使い分け
現在,同院では,4台のMRIで1日に約60件の撮像が行われている。MAGNETOM Verioの本格稼働が始まれば,検査枠はもう少し増加する見込みだが,齋田部長は,「MRIは症例ごとの検査目的に合わせてていねいに撮像を行っていくのが基本です。特に3Tについては,スループットより質を重視する使い方になると考えています」と述べている。また,どの症例を3Tで撮像するかということについては,診療科任せではなく,放射線科主導で判断していきたい考えだ。
70cmオープンボアと最先端コイルのメリット
MAGNETOM Verioを導入したことで,検査時にも,さまざまなメリットが得られるようになった。
●70cmオープンボアのメリット
MAGNETOM Verioについて,同院では,特に70cmオープンボアを高く評価している。中村美穂技師は,その有用性について,「MRIで優れた脂肪抑制画像を得るためには,磁場の中心に撮像部位をポジショニングする必要がありますが,これまではボアが狭いため,肩や関節などは困難でした。しかし,MAGNETOM Verioでは,それが可能となりましたので,これまでに経験したことのない高画質の脂肪抑制画像が得られています」と述べている。また,膝を立てたり,横向きになったりして,楽な姿勢で検査を行うことが可能となったため,撮像時の患者さんの苦痛が大幅に軽減されたのはもとより,安静を保ちやすいことが画質の向上にもつながっている。撮像時の圧迫感も大幅に軽減され,閉所恐怖症の患者さんでも,いまのところ,
途中で撮像を中止したことは一度もないという。
●Timコイルのメリット
同院では今回,初めてTimコイルを使用することになった。中村技師は,「Timコイルによって,検査や部位ごとのコイルの入れ替えが不要になり,トータルの検査時間を短くできることは,技師にとって大変ありがたいことです」と評価する。また,コイル交換のために患者さんが寝台を上り下りする必要がなくなり,患者さんの負担軽減にも大きく貢献している。
以前は行えなかった全身の拡散強調像(DWI)についても,今後は挑戦していく予定だという。
●32chコイルの有用性
MAGNETOM Verioには,オプションで頭部と体幹部の32chコイルが搭載できるが,同院ではその両方を装備している。頭部については現在,基本的に32chコイルで,1日に3〜4例の撮像を行っている。1.5Tから3TになったことでSNRが約2倍となり,さらに,32chコイルによって約2倍になっているため,きわめて高画質の画像が得られている。渡邉医師は,32chコイルの有用性について,「血管の細かい構造が末梢まで明瞭に見えるため,2mmの動脈瘤でもはっきりと見えるようになりました。また,血管の起始部が拡張して動脈瘤のように見えていた部分をきちんと鑑別できるようになり,診断時の確信度が確実に向上しました」と評価している。
また,関節と骨盤腔の撮像について,槇殿文香理医師は,「特に骨盤腔については,空間分解能が大きく向上し,解剖がきわめて詳細に見えるようになりました」と述べている。MRCPについても,以前よりも容易に高画質が得られるようになり,胆管や膵管分枝の先まで明瞭に見えるようになった。
32chコイルが臨床的にどのようなメリットをもたらすかについての検証はまだこれからだが,骨盤腔などでは,がんのステージングがより正確に行えるようになると期待されている。また,渡邉医師は,「32chコイルでは,6層を呈する灰白質の構造まで見えるようになると考えています。大脳灰白質の形成異常などは新しく診断できる可能性があり,そこまで踏み込んだスタディを行っていきたい」と述べている。
3T MRIでは,高分解能かつ薄いスライス厚で撮像可能であり,腫瘍がより明瞭に描出され,脳実質外腫瘍(髄膜腫)と診断することができる。
syngo SPACEは,5分程度で全脳の1mmスライス厚の画像が得られる。MRSも,より明瞭なピークを得ることができる。
左乳腺内の乳がん。MRSにて腫瘍部位にコリンピークが観察される。
棘上筋腱の断裂が明瞭に描出されている。
肝S8横隔膜ドーム直下の肝細胞がん(HCC)が,造影早期相,肝実質相にて描出される。
MAGNETOM Verioを用いた新たなる挑戦
同院におけるMAGNETOM Verioの活用は,まだ始まったばかりだが,本格稼働を目前に控え,齋田部長は,「3Tでは,アルツハイマーをはじめとする代謝・変性疾患といった,これまで原因が明確でなかった疾患に関するスタディなども含まれてくると考えています」と展望している。
3T MRIや32chコイルの有用性は,まだ未知数の部分も多いが,齋田部長は心臓MRIへの挑戦にも意欲を示している。医療において常に先駆的な取り組みを続けてきた同院が,今後どのような新しい挑戦を行っていくのか,興味は尽きない。
(2009年8月25日取材)
MAGNETOM Verio−設置から稼働まで 聖路加国際病院では,設置場所の条件から,MAGNETOM Verioのコンパクトさも選定の決め手の1つとなったが,実際にどのようにしてMRI室に設置されたのか,その流れを取材した。 (2009年6月12日取材)
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