ホーム inNavi Suite フィリップスエレクトロニクスジャパン Technical Note MRIの新たなステージ─デジタルコイルの登場
2011年9月号
Step up MRI 2011−MRI技術開発の最前線
2010年11月,シカゴで開かれたRSNAにおいて,フィリップスは新たなMRIを発表した。そのMRIの登場は,“デジタルコイル”という新たなステージを生み出すこととなり,従来システムよりも高い信号雑音比(SNR)と効率的なワークフローを実現した。さらに,デジタルコイルになることで,装置で使用可能なチャンネル数に上限がなくなり,チャンネルフリーも実現した。
本稿では,デジタルコイルを実現した新技術やその特長について紹介する。
●デジタルコイルとは
かつて,X線装置においてディテクターがアナログからデジタルへ変遷したように,MRIでもアナログコイルからデジタルコイルへの変遷が行えるようになった。
デジタルコイルとは,受信されたMR信号のアナログ・デジタル変換をそれ自身で行えるコイルである。
●デジタルコイルシステムのコアテクノロジー:dStream
従来よりMRIで用いられてきたコイルは,MR信号をアナログ波形として受信していた。受信されたアナログ信号は,MRI本体側にあるアナログ・デジタル変換器(Analogue Digital Converter:ADC)にてデジタル変換され,リコンストラクターにて画像構築が行われている(図1)。
図1 従来のコイルによるデータ受信の流れ
一方,デジタルコイルはADCがコイル自身に搭載されており,コイル上でのデジタル変換が可能である。デジタル信号は送信に際してノイズの混入がない。したがって,デジタルコイルで得られた信号は,ノイズ混入や信号減衰がないまま高いSNRで画像化することが可能となる(図2)。
図2 デジタルコイルによるデータ受信の流れ
ここで示したコイルのデジタル化技術を,弊社では“dStream"と命名しており,デジタルコイルを“dS coil"と称している。これらコイルの外観的な特長として,コネクター部分が挙げられ,デジタル信号を送信するための光ファイバーが組み込まれている(図3)。
●デジタルコイル:高いSNRが実現するスピード,解像度
デジタルコイルによる高SNRは,短時間撮像を実現する。図4は,American College of Radiology(ACR)のガイドラインに則った検査を,デジタルコイルで行った場合のスキャンタイムである。例えば,3Dを含む肝臓撮像でも,7分30秒で組むことが可能となる。また,高SNRは分解能にも寄与する。薄いスライスの撮像もクリアに行うことができ,診断の確信度向上が期待できる。
さらにデジタルコイルでは,SENSEによるSNR減衰も補填する。したがって,拡散強調画像において5倍速などの大きなSENSE factorを設定でき,広範囲でも歪みのない検査を行える(図5)。
このように,デジタルコイルはより高精度なMRI検査を可能とする。
図4 デジタルMRIによるACRガイドラインに則った場合のスキャンタイム
図5 デジタルコイルが可能にするSNRの高いDWIBS
(スキャンタイム 2:09/station,1.5T)
●デジタルコイルとチャンネル拡張性
従来,MRI装置で使用可能なチャンネルの拡張には,そのチャンネルに対応したデータ受信機構(Data Acquisition System:DAS)の追加作業が必要であった。一方,ADCが組み込まれたデジタルコイルでは,コイルそのものがDASととして扱えるため,MRI本体側のチャンネル拡張作業は存在しない。したがって,デジタルコイルを採用するMRIは,理論上,制限なく多チャンネルコイルを利用できることになる。将来的に期待される64チャンネルなどのデジタルコイルを使用する際には,コイルを購入するだけで十分となる(図6)。
図6 デジタルコイルのチャンネル拡張性
デジタルコイルはコイル自体がDASであり,プラットフォームとしてのチャンネルアップグレードという概念はなくなった。
*図上のコイルは概念図です。
●次世代デジタルコイルMRI:Ingenia
RSNA2010では,デジタルコイル技術の発表とともに,同技術を搭載した新しいMRI「Ingenia」を発表した(図7)。
Ingeniaは,その95%以上のハードウェアを新しく開発した,プレミアムフラッグシップモデルである。ここまで紹介したデジタルコイルシステムのほか,3.0Tでは,心臓撮像にも利用できるMultiTransmit 4Dを搭載し,全領域で妥協せずに高画質を追い求められる装置となっている。また,磁場均一性にこだわった70cmワイドボアを実現し,患者の快適性と画質の両立を可能とした。
Ingeniaは,お客様の声を妥協することなく実現した,まさに次世代のデジタルコイルMRIである。
図7 世界初のデジタルコイル搭載MRI「Ingenia」
(a)と,腹部用デジタルコイル(b)
SENSEやMultiTransmitなど,MRIに一石を投じる技術を生み出してきたフィリップスだが,デジタルコイルによって,1.5Tや3.0Tといった磁場強度の枠組みさえも超えた新たなステージを生み出した。
現行の主力製品である「Achieva」,次世代のIngeniaともに,今後もMRI発展の一助となるよう,精力的に開発を続けていく。