ホーム inNavi Suite フィリップスエレクトロニクスジャパン Technical Note フィリップス最新Cardiacアプリケーション─複合モダリティによるイメージガイダンス
2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
循環器領域の疾患は,冠動脈疾患,不整脈,弁疾患など多岐にわたり,近年では,その治療法としてインターベンションを選択する機会が急速に増えてきている(図1)。フィリップスは,これらの臨床ニーズに対応するアプリケーションを開発し提供している。本稿では,PCI,EP,大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)に関するアプリケーションについて紹介する。
図1 Allura Xper FD10シリーズ
■PCIアプリケーション
1.StentBoost
ステントの視認性を向上させるアプリケーションとして“StentBoost”を開発し製品化している。このStentBoostは,以下のようなPCIのさまざまな場面で活躍する。
・留置されたステントの状態の確認
・ステント拡張時や再拡張時のバルーン位置の確認
・すでに留置されたステントとのオーバーラップの状態の確認
その手順は簡便で,バルーンのダブルマーカーが留置された状態で数秒間撮影するだけで,ほぼリアルタイムにステント強調画像が自動表示される。しかし,ステントだけが強調されても,血管壁との相関関係は把握できなかった。これらを解決したのが,StentBoostを改良した“StentBoost Subtract”である(図2)。通常のStentBoostに造影相を追加することで,血管内壁とステントとの対比を可能にした。拡張前のステントの位置決めや,拡張後のステントと血管内壁の状態を把握することが可能である。ますます視認性が低くなる傾向にあるDES(drug eluting stent)などの最新デバイスにも対応し,より正確なPCIをリアルタイムにサポートするアプリケーションとして多くの施設で好評を得ている。
図2 StentBoost Subtract
血管造影相を追加撮影し,オーバーレイすることで,ステントと血管を対比しながら観察できる。
2.CTO Navigator
冠動脈造影像では,CTO(冠動脈完全閉塞)病変から遠位部の完全閉塞病変部分の走行を表現できない。術中に完全閉塞病変部のルートを確認するには,心臓CTの冠動脈画像を別モニタに表示するしかなかった。このワークフローを改善したのが“CTO Navigator”である。
CTO Navigatorでは,心臓CTから抽出した冠動脈の走行を参照画像上に重ね合わせ,完全閉塞病変部のルートを確認できる(図3 a)。従来の冠動脈造影では見えなかった完全閉塞病変部のルートを,CT画像との重ね合わせにて描出することで,より正確に病変を把握できる。また,任意の血管を選択すると自動で最も観察しやすい角度を算出する機能(図3 b)や,算出された角度をアームアングルに反映させる機能を利用することで,より迅速なワーキングアングルの決定に貢献できる。
図3 CTO Navigator
a:完全閉塞病変部のルートを心臓CTにて再現。
b:Optimal View Map機能。血管の長さや重なりから,最も観察しやすいアングルを自動算出する。
■EPアプリケーション
1.EP Navigator
カテーテルアブレーションは,頻脈性不整脈に対する根治治療として用いられている。その中でも,左心房の肺静脈をアイソレーションする手技は,確立された治療として認知されている。しかし,手技中の透視画像上にはカテーテル等のデバイスしか映っておらず,左心房との正確な解剖学的位置関係を把握しながらカテーテル操作を行うことは困難であった(図4 a)。これをサポートするアプリケーションが“EP Navigator”である。
EP Navigatorは,左心房の3D画像を透視画像上に重ね合わせる3Dロードマップ機能である。これにより術者は,カテーテルと左心房の解剖学的位置をリアルタイムに確認できる。抽出された左心房の3D画像は,アームの動き,SID,天板の位置変更にもリアルタイムに追従する。さらに,内腔表示機能により,カテーテルの先端が肺静脈のどの位置にあるかをより正確に把握できる(図4 b)。左心房の3D画像の選択は
2通りあり,1つは心臓CT画像によるもので,もう1つは,血管撮影装置による回転撮影(3D-ATG)による抽出である。3D-ATGは,1回の回転撮影で左心房の3D画像を再構成する。再構成された左心房は,心臓CT検査による抽出とほぼ同等のクオリティで,かつ,手技当日の左心房の形態を忠実に再現できる。術中に左心房の解剖学的位置をより正確に把握でき,アブレーションにおける新たなイメージガイダンスとして期待されている。
図4 EP Navigator
EP Navigatorによる左心房の内腔表示により,カテーテル位置の正確な把握が可能となる。
■Hybrid ORシステム
近年では,外科手術もより低侵襲なインターベンションへとシフトしており,従来とは異なるニーズが血管撮影室に求められている。非観血的手技と観血手技を同室にて施行できるHybrid ORシステムという概念が新たに生まれた(図5)。フィリップスは,世界で唯一専用の手術台(Maquet社製Magnusテーブル)と血管撮影装置(Allura Xperシリーズ)を統合した本格的なHybrid ORシステムを製品化した。Hybrid ORシステムは,血管撮影装置の操作卓からも手術台を操作できる操作性の統合を実現しており,接触安全機構も血管撮影装置と同じレベルの安全性を有している。完全に統合されたシステムとして高い評価を受けている。
回転撮影による3D画像やCTライク画像の再構成,3Dロードマッピングなど,最新アプリケーションを利用したインターベンションも特に制限なく可能である。また,専用手術台以外にも,チルティング(縦転)やクレードル(横転)機能が備わった従来タイプのカテーテル寝台も選択でき,各施設の要望に応じた提案が可能である。
図5 血管撮影装置と専用手術台を統合した本格的なHybrid ORシステム
1.Heart Navigator
このHybrid ORシステムを用いて施行される治療法の1つが,TAVIである。現在,治験も実施されているTAVIは大動脈弁狭窄症に対するカテーテルを用いた治療法で,手術適応にならない症例へのアプローチ法として注目されている。この手技では,透視上でデバイスを留置する際,大動脈弁の位置を正確に把握することが難しく,冠動脈閉塞や大動脈弁輪破裂の危険性も指摘されている。
その中で,より安全に手技をサポートするために開発されたのが,“Heart Navigator”である。Heart Navigatorは,術前に心臓CTの3Dデータから病変部の計測と術前アングルのシミュレートを行うプランニング機能を有している。プランニングした大動脈弁,冠動脈起始部,石灰化,およびデバイスは,透視画像上に重ね合わせることができる(図6)。デバイス留置をより正確に支援するアプリケーションとして期待されている。
図6 Heart Navigator
a:透視画像上に大動脈弁,冠動脈起始部,石灰化およびデバイスを重ね合わせる。
b:術前プランニング。大動脈弁,冠動脈起始部,石灰化およびデバイスを抽出
フィリップスは,血管撮影装置だけでは実現困難だった複雑な手技に対して,複合モダリティ画像情報を統合するLive 3D Guidanceコンセプトにより,多くの先進的なアプリケーションを開発してきた。今後も臨床現場と密接に連携し,いただいたフィードバックからより良い製品を開発していく。