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Technical Note

2010年9月号
Step up MRI 2010−MRI技術開発の最前線

MRI−次世代RFパルス送信技術“MultiTransmit”─現状の特長とその技術的有用性

宮本 慎也
ヘルスケア事業部

現在,全国で200台以上の3.0T MRIが稼働している。そして,3.0Tの導入がスタートしたころと比較すると,最新の3.0T装置は,高磁場装置特有のRFの不均一や組織コントラストの低下といった課題をかなり高いレベルで克服しており,どの部位の検査においても1.5T装置と同様な運用方法で活用され始めている。
ここで,歴史的な3.0T装置の変遷について述べたいと思う。まず1つ目の大きな変化は,頭部専用機として臨床に登場した3.0T装置が,全身用に最適化されて臨床での運用がスタートしたことである。本稿では,このときの装置を第一世代と位置づけたい。3.0Tで全身のスキャンが可能になったことは非常に画期的であったが,実際には,安全基準の影響による撮像時間の延長や撮像スライス枚数の減少,設定可能なパラメータの幅の縮小,送信RFパルスの不均一の増大など,オペレータを悩ませる課題が多く,頭部や関節領域以外ではその有用性を発揮することが困難であった。そこで登場した第二世代は,第一世代で問題視されていたこれらの影響を,送受信RFコイルの構造的な改善,送信RFの影響(B1影響)を加味した画像フィルタの開発,透過度合いを改善させる誘電パッドの導入など,総合的に高磁場装置の課題克服に取り組んだ装置である。これにより,「3.0T装置でも何とか体幹部領域が可能となった」と評価されるまでに至った。
そして,今回われわれが紹介する第三世代は,“MultiTransmit”と呼ばれるシステムを搭載する装置である。当社によって開発され,特許取得されたMultiTransmitとは,B1分布の不均一を後処理技術で処理するのではなく,プリスキャンによって,事前にB1分布を確認(B1キャリブレーション)し,そこからシュミレーションによって,信号の均一性を最大限に確保するための最適なRFパルス設計(位相,振幅,周波数,波形)を算出して送信する技術である。従来の3.0T装置で標準的に行われていたB1分布の影響による信号不均一性を抑え込むのではなく,逆に,その不均一性を積極的に生かして応用する考え方は,まさに発想の転換である。そして,このRFの不均一を生かし応用する技術は,患者ごとにテーラーメードされるという点が,第三世代MultiTransmitの最も重要な部分となっている。
本稿では,MultiTransmitの現状の特長,および技術的有用性について紹介する。

●患者ごとにテーラーメードでパルス設計されるMultiTransmit

3.0T装置になると,体内でのRFパルス波形が被写体と同レベルまで短くなり,sin波とcos波の理想的な関係で送信された2つのRFパルスは,体内ではその関係を保つことが困難となる。そのため,極端にRFパルスが弱まったり強まったりしてしまう現象が体内で生じ,局所信号不均一や局所SARの増大を引き起こす。
これに対し,第三世代のMultiTransmit技術では,部位や体型によって一人ひとり異なる人体内のRFパルスの分布を,患者ごとにテーラーメードでRFパルスの出力差と位相差を最適に設計することによって,信号不均一性の影響の少ない撮像を可能とする。実際の流れとしては,患者ごとにB1キャリブレーション撮像を行い,RF分布を事前に測定する。その測定されたRF分布をもとに,各部位(腹部・乳房の例)でのRFパルス最適値をシュミレーションして算出し,その算出された最適な送信RFパルスで本撮像を行う。これら一連のプロセスが患者ごとに実行されるので,常に安定した3.0T検査を実現することができる(図1)。

図1 患者ごとにテーラーメードでパルス設計されるMultiTransmit
図1 患者ごとにテーラーメードでパルス設計されるMultiTransmit
患者ごとのB1キャリブレーションから最適値を算出。

●MRIの組織コントラスト改善とSAR減少化でのパラメータ設定の改善

MultiTransmit技術によって,3.0T で問題となっている組織コントラストが改善された(図2)。第一世代と第二世代の3.0T装置では,局所信号不均一性は解消されているが,組織の画像コントラストは改善されていない。T1強調では,画像コントラストが原理上悪くなるが,頭部以外の領域でもそのことが実感できる。これは,送信RFパルスが設定どおりのフリップアングルで照射が行えていないことが原因であり,後処理で信号の均一化ができてもコントラストまで補正できない1例である(1.5T装置の画像と比較すると,明らかに画像コントラストが違うことが確認できる)。仮に,1.5T装置と3.0T装置の2台を保有していたとすると,空間分解能を重視した3.0T装置で撮像するか,画像コントラストを重視した1.5T装置で撮像するか,非常に難しい選択に迫られる。唯一この問題を解決できるのが,このMultiTransmit技術であり,局所信号不均一性は解消され,高い画像コントラストを得ることができる。
さらに,MultiTransmit技術によってSAR減少に寄与できるので,パラメータ選定の自由度が改善できる。図3は,頸椎T2強調像(高速SE法)であるが,リフォーカスパルスを1.5T装置同様にフレキシブルに設定ができるので,撮像時間や画像コントラスト(CSFの水信号コントラスト)を明らかに改善することができる。そのほかでは,撮像時間の短縮化(最大40%以上の時間短縮に貢献)や3.0T装置のsteady state法でも,フリップアングルが90°以上に設定ができるため,血管コントラストやブラックバンドのアーチファクトを大幅に改善することが可能となった。

図2 MRI最大の利点の組織コントラスト改善
図2 MRI最大の利点の組織コントラスト改善

図3 SAR減少化でのパラメータ設定の改善
図3 SAR減少化でのパラメータ設定の改善

●今後のMultiTransmitの方向性

MultiTransmit技術によって3.0T 装置の問題点が解消し,信号均一性の向上・コントラストの向上・撮像時間の短縮・患者ごとの画質バラツキの低減等が可能になる。今後の臨床応用の拡張に関しては,より高い安全性が求められる小児領域への応用(図4)が期待される。
また,信号のバラツキを低減化することでの頭部領域への応用(図5),例えばT1強調コントラスト改善や,MR機能画像(ASL,fMRI)やMR代謝画像(MRS)での定量的アプローチの促進に大きく貢献していくことが可能である。さらに,循環器領域への応用に関しても,心臓MRI検査が世界で最も行われている日本での臨床応用に大きく寄与できると考える。
すべての領域や部位において,3.0T 装置のアドバンテージがMultiTransmit技術によって明確に確立することを大いに期待している。

図4 MultiTransmitにより効果が期待できる部位:小児領域
図4 MultiTransmitにより効果が期待できる部位:小児領域

図5 MultiTransmitにより効果が期待できる部位:頭部領域
図5 MultiTransmitにより効果が期待できる部位:頭部領域


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