フィリップスエレクトロニクスジャパン

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Technical Note

2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−Cardiac CTにおける0.27秒スキャンの実力

水口しのぶ
ヘルスケア事業部マーケティング本部CT

2008年,フィリップスでは,初のフローティングドライブ方式を採用した「Brilliance iCT」(以下,iCT)の発売を開始した(図1)。iCTにはさまざまな最新技術が搭載されており,その最新技術は互いに連鎖することで高性能を実現している。

 
図1 Brilliance iCTの外観
図1 Brilliance iCTの外観

■ 0.27秒スキャン

iCTでは,最速0.27秒でのスキャンが可能である。0.27秒スキャンを実現するために,iCTはフローティングドライブ方式を新しく採用している。フローティングドライブ方式とは,回転体同士を物理的に非接触とすることで,高速回転と精密なデータの取得を両立できる,媒体に圧縮空気を利用した流体ベアリングのことである。ガントリーの回転体を複数か所で支えながら,数ミクロンの空気層を作り出し,圧縮空気は圧力調整弁などで自動的に一定のレベルに保たれる構造になっている。停電時や装置待機時はフローティング状態が解除され,安定機構により保持される。回転体と筐体の摩擦による抵抗がほとんどないため,小さな駆動トルクでの回転が可能となり,短時間で最速のローテーションタイムに到達することができる。
このフローティング方式による0.27秒スキャンの実現により,時間分解能は飛躍的に向上し,最短時間分解能27msecを実現しており,従来は心臓CT検査が適応外となる高心拍な患者さまに対しても,高画質な画像を安定して得ることができる。この高い時間分解能においては,前処置にて薬剤を使用できない患者さまに対しても検査が可能であるため,適応患者の枠が広がったと言える。

■ 256slice/80mm wide coverage

次にiCTでは,256slice/80mmのカバレッジを持つディテクターを実装している。iCTでは,コンベンショナルはもちろん,ヘリカルにおいてもこのカバレッジをフルに使用して検査を行うことが可能である。
iCTに搭載されるディテクターは,16×16chにモジュール化された検出器を体軸方向に8個配列し,80mmワイドディテクターとして構成されている。この小さなモジュールの中に,ディタクターの根幹をなすシンチレーター,バックイルミネイテッド型のフォトダイオード,DASのインテグレーションチップまで組み込んでいる。このモジュール型のディテクターは,非常に高いフレキシビリティを持ち,XY方向のみならず,体軸方向(Z軸方向)にも曲面配置することが可能であり,理想的なX線利用効率を実現している。これによって,すべての検出面が光源に向けて球面配列され,Z軸両端の検出素子にも均等にフォトンが入るようになり,平面検出器では困難であった課題を解決している。
さらに,ワイドヘリカル撮影の画質向上を妨げてきた散乱線の影響を最小限に抑えるため,アンチスキャッターは,1方向(1D)のものから格子状(2D)のものになっている。
このようなワイドディテクターの課題を解決する技術を搭載することによって,iCTでは256slice/80mmにおいて,コンベンショナル/ヘリカルのいずれでも,高速かつ高画質な撮影が可能となっている。心臓CT検査では,息止め時間は3秒程度ですむため,患者さまの息止めの負担を大幅に軽減することが可能となっている。

■ 1000mA出力

液体金属ベアリング,ダイレクトクーリングなど自社開発技術が多く搭載されたX線管球は,“エッセンステクノロジー”としてさらに進化を遂げている。まず,難加工材として知られるタングステン素材の陽極盤に,応力を逃がすための12本のスリットが入られている。これは,高速回転時には短時間で大電流を出力するというiCTの要求に応えるもので,急激な加熱と冷却によるヒートショックを緩和し,軸支持機構にストレスを与えない設計となっている。陰極素材は,フィラメントからエミッターに変更され,より多くの出力が可能になった。これにより,基本的にはフィラメント切れが管球の交換理由から消えることになる。
これらの技術により,iCTでは1000mAの出力が可能となり,従来は適性線量における高速撮影ができなかった患者さまにおいても,画像の劣化を起こすことなく心臓検査を行うことが可能である。

■ Step & Shoot Cardiac

“Step & Shoot Cardiac”は,心臓をコンベンショナル撮影する方法であり,心電同期を行いながら,撮影→寝台移動を繰り返して心臓全体を撮影する方法である。この撮影法の最大のメリットは,従来のヘリカル撮影と比較して大幅な被曝低減が可能であることである。
iCTでは,256slice/80mmでデータを収集することが可能であるため,心臓全体を2ショットの撮影でカバーすることが可能であり,撮影時間もほぼヘリカルスキャンと同等である。さらに,Step & Shoot Cardiacはコンベンショナルスキャンのため,基本的にハーフスキャン再構成方法を用いる。よって,時間分解能にはローテーションタイムが直接影響するため,従来の64chでは,低心拍の症例への適応に限られてしまっていた。しかし,iCTでは0.27秒スキャンの実現により,Step & Shoot Cardiacにおいても135msecの時間分解能を実現し,従来では適応できなかった高い心拍数の患者さまにおいても実施可能となり,検査の適応範囲が大幅に広がった。

フィリップスではこれまで,“誰でも簡単に,難易度の高い撮影をこなすことができる”ことを目的として,装置の開発を進めてきた。そして,難易度の高い撮影の1つに,冠動脈撮影が挙げられる。iCTは,心拍変動への対応技術として以前から定評のある心拍変動自動追従アルゴリズム“Beat to Beat Variable Delay Algorithm”や“Maxcycle”,“Auto Arrhythmia Detect”などの技術はそのまま継承し,さらに,0.27秒スキャン,256slice/80mm wide coverage,1000mA出力などの新しい技術を搭載することで適応範囲を広げ,患者さまに優しく,さらには,心拍変動や高心拍にかかわらず一定レベル以上の撮影結果を得ることが可能になった(図2)。
今後も,患者さまが装置に合わせるのではなく,装置が患者さまの状態に合わせることができる性能を持つことで,“真に患者さまに優しい装置”の開発を重要課題として進めていきたいと考える。

図2 BrillianceiCT Clinical image
図2 BrillianceiCT Clinical image


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