ホーム inNavi Suite フィリップスエレクトロニクスジャパン Technical Note MRI−Black Blood Imagingの新しい高速化コンセプト:MSDE法 ─血管壁病変およびその他の病変への応用の可能性
2008年9月号
Step up MRI 2008−技術開発最前線
MRI検査の中で,血液信号を抑制する技術black blood imaging(BBI)は,主に病変部位の描出能を向上する目的で使用される。例えば,(1) 血液と病変がどちらも高信号として描出される場合,(2) 血液の流れに伴うアーチファクトが発生する場合,(3) 血管壁病変のように,解剖学的に血管と病変部位が隣接している場合などに,BBIを併用することの臨床的有用性が高くなる。 ◆MSDE法の基本原理と応用例 図1に,MSDE法のシーケンスデザインを示す。(90°x)−(180°y)−(90°−x)の順番でRFパルスを照射し,180°を挟んで対称に傾斜磁場を印加する。このシーケンスデザインは,一般的なディフュージョン撮像と同じであるが,MSDE法ではこのスキームをプレパレーションパルスとして用いる。また,拡散に伴うスピンの動きのオーダが100μm/s以下なのに対して,血流に伴うスピンの動きのオーダは大体において10cm/s以上であることから,MSDE法では,ディフュージョン撮像よりも低いb値を用いても十分な血液抑制効果を得ることができる。例えば,過去に頸動脈の血管壁描出の発表で用いられたb値は,3軸合成値で11s/mm2である1)。 |
図1 MSDE法のシーケンスチャート (90°x)−(180°y)−(90°−x)の順番でRFパルスを照射し,180°を挟んで対称に傾斜磁場を印加する。このシーケンスデザインは,一般的なディフュージョン撮像と同じであるが,MSDE法ではこのスキームをプレパレーションパルスとして用いる。 図2 頸動脈プラークにおけるDIR法とMSDE法の比較 a:2D-DIR-TSE。撮像パラメータは,FOV=12×12cm,matrix=176×176,slice thickness=3mm,TR/TE=1000/13ms,TI=600ms,turbo factor(TF)=7,half scan factor=0.6,NSA=1,SENSE factor(SF)=2.0,over sampling factor(OS)=2.0,scan time=17s/slice(total 5slices)。 b:3D-MSDE-TFE。撮像パラメータは,FOV=12×12cm,matrix=176×176,slice thickness/gap=3/0mm,TR/TE=5.1/2.6ms,flip angle=20°,shot interval=800ms,TF=30,SF=2,NSA=2,OS=2.0,scan time=9s/slice(total 15slices)。 (画像ご提供:東海大学様) 図3 in plane BBI画像 頸動脈の血管走行に沿った撮像断面での2D-MSDE-TSE画像。撮像面内に血管を含んでいる場合でも,血液は全撮像範囲において抑制されている。 (画像ご提供:東北大学様) |
◆MSDE法の最適化と応用例 MSDE法で課題となるのが,磁場(B0)の不均一性,RF(B1)の不均一性,そして渦電流の影響をいかに抑えるか,ということである。頸動脈血管壁の撮像のように,撮像範囲が比較的狭い場合はこのような影響はあまり目立つことがないが,対象部位によっては問題となってくる。この問題を解決する方法として,われわれが現在検討しているシーケンスデザイン(improved MSDE:iMSDE)を図4に示す3)。 |
図4 iMSDE法のシーケンスチャート 180°パルスの位相を逆にして2回照射し,その前後にbipolar gradientを繰り返し印加している。また,プレパレーション前にもbipolar gradientを印加している。これらは,B0,B1および渦電流の影響を抑制するためのシーケンスデザインである。 図5 MSDE法とiMSDE法で撮像した頭部画像 MSDE法(a)では頭頂部の信号低下が目立つが,iMSDE法(b)によってそれが明らかに改善されていることがわかる。 (画像ご提供:山形大学様) 図6 iMSDE法を用いた造影後の脳転移検査 a:3D-TSE法で撮像したT1強調像。病変部位(▲)と血液信号(↑)がともに高信号として描出されており,病変部位の見極めを困難にする可能性がある。 b:3D-MSDE-TSEで撮像した画像。血液信号の抑制によって,病変部位のみを高信号として描出するため,検出能の向上が期待できる。 (画像ご提供:東北大学様) |
本稿では,MSDE法の有用性と,その最適化に関して紹介した。撮像範囲,撮像断面,撮像シーケンス,造影剤使用の有無などの制限を受けない新しい血液抑制技術は,今回紹介した応用例以外にも多くの有用性を生み出す可能性がある。ただし,動きに敏感であること,あるいは,マルチスライス法においてはシーケンスデザインが最適化されていないことなど,課題もある。 |
●参考文献 | |
1) | Koktzoglou, I., et al. : JMRI, 25, 815〜823, 2007. |
2) | Wang, J., et al. : Proc. ISMRM 2007, 442, 2007. |
3) | Makoto, O,. et al. : Proc. ISMRM 2008, 2842, 2008. |
4) | Levitt, M., et al. : JMR, 47, 328〜330, 1982. |
5) | Absil, J., et al. : Proc. ISMRM 2007, 12, 2007. |