2008年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
MRI−3.0Tの腹部領域におけるクリニカルアプリケーション
諏訪 亨/勝又 康友
MRテクニカル&クリニカルアプリケーション
近年のMRIにおける大きなトピックスは,全身対応3.0T装置の市場導入である。中枢神経領域を中心に1.5Tを凌駕する画像が得られ,今後クリニカルルーチンの主流となっていくことが予想される。
このような現状の中,上腹部領域においては3.0Tの明確な有用性が示されていないとの意見もある。しかし,これまで懸念されていた誘電効果による信号ムラは改善されつつあり,体動補正技術の進歩,高いSNRを生かした高速化技術といった3.0Tの有用性を確立するための開発が進んできている。
本稿では,上腹部における3.0Tの有用性を高める最新技術と,その臨床応用への可能性を述べる。
■ VISTA
現在,MDCTではボリューム撮像が一般的に行われるようになり高い臨床評価を得ているが,MRIにおいても同様にボリュームデータの取得,それもマルチコントラストでの取得が求められていた。そして,当社のVISTA(Volume ISotropic T2w Acquisition)の登場により,それを可能なものにした。
VISTAは,T2強調像をボリュームデータで撮像するために最適化されたシーケンスである。リフォーカシングパルスを印加する際,ボリューム選択傾斜磁場を使用しないことでエコースペーシングを短縮することが可能であり,3.0Tのような体動によるモーションアーチファクトが一般的に多く現れる場合,アーチファクトの低減にも寄与する。上腹部領域においては,呼吸同期法と併用することでVISTAはその威力を発揮する。3.0Tの高いSNRを生かし,Z軸方向のスライス分解能を高くすることが可能となり,MPRなどの再構成画像の画質も向上する(図1)。T2強調像をボリュームデータとして撮像できるということは,肝胆膵管も同時に観察することが可能となるためその臨床的な有用性は高い。 |
図1 VISTA画像 |
■ Motion correction
磁場強度が上昇するにつれ体動によるモーションアーチファクトが強く表れるため,呼吸同期法を併用するT2強調像を3.0Tで撮像する場合,モーションコントロールが重要となる。
その対策方法の1つとして,アシンメトリックオーダーの使用によるエコースペーシングの短縮が挙げられる。同一のTE,TSE factor数であってもエコースペースペーシングを独立して設定でき,常に最短のエコースペースを設定することでモーションアーチファクトの低減を図ることができる。
また,Multi-Vaneという体動補正を目的とした新しい撮像技術が腹部領域にも応用可能となった。Multi-Vaneでは,ブレードと呼ばれるプロペラの羽根のようなエコーの集合体を,kスペースの中心を軸に回転して充填し,ブレードごとに動き補正を行い画像化するため,動きの影響を抑えた画像を取得することが可能となる。Multi-Vaneは,呼吸同期法との併用が可能であり,従来のkスペース充填方法と比較してモーションコントロールの精度が格段に向上し,3.0Tの特徴である高分解能撮像においても安定した画像が得られ,ルーチン検査の精度向上に期待が持たれている(図2)。
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図2 Multi Vaneの肝臓への応用 |
■ m-FFE
m-FFE(multiple-FFE)は,グラディエントエコー法において,一回の励起パルスにて複数のエコーを収集する技術である。従来は2エコー(Dual Echo)までであったが,m-FFEは2エコー以上を得ることが可能であり,各エコーの画像もそれぞれ観察することができる。さらに,取得したすべてのエコーを累積加算することで高いSNRの画像を再構成することも可能となる。
また,複数のエコーによる画像を用いることでT2*mapping(W.I.P.)やintensity curveを描出し,エコーの経時的変化をとらえることでグラディエントエコー法特有の磁化率効果を画像化する。3.0Tにおいては磁化率の影響を強く受けることから,鉄の過剰吸収によりヘモジデリン沈着を伴うhemochromatosis(図3)や,現在,生活習慣病の1つとして注目されているNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の鑑別診断にも期待されている。
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図3 m-FFE画像(hemochromatosis) |
■ Dynamic
造影MRIの有用性としてコントラスト分解能の高さだけでなく,放射線被曝がないことによる連続撮像などが挙げられる。これらの有用性をさらに高めるべく,4D-THRIVEの上腹部ダイナミック検査への応用を進めている。
THRIVE(T1-High Resolution Isotropic Volume Excitation)とは,全肝の3Dボリュームデータを短時間に撮像できる技術であり,SNRが高い3.0Tで非常に有利となる。このシーケンスにKeyhole Imaging ,CENTRA(Constant Enhanced Timing Robust Angio)といった高速化技術を併用することで,空間分解能と時間分解能を同時に高めることが可能となった。4D-THRIVEでは,全肝ダイナミックの時間分解能を2〜3秒にすることも可能である(図4)。また,空間分解能だけでなく時間分解能も同時に高めることで,栄養血管の描出や腫瘍の濃染パターン(周辺→中心部,中心部→周辺)の描出が容易となり,HCCやFNH(限局性結節性過形成)といった腫瘤の確定診断やA-P shuntの診断につながる情報が得られやすくなる。
また,2008年1月より発売が開始された肝細胞に取り込まれて胆道に排泄するGd系造影剤「EOB・プリモビスト」(バイエル薬品社製)を使用する場合にも,4D-THRIVEが有利となることが予想される。これは,Gd-DTPA製剤と比べ造影剤量が1/2(Gd濃度は1/4)となり,腫瘍の濃染時間が短くなるためファーストフェイズのタイミングをとらえるのが難しくなる。そのため,時間分解能を高めて,動脈相から門脈相にかけて短時間にマルチダイナミックを施行できる4D-THRIVEであれば確実に腫瘍濃染をとらえることが可能となるからである。
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図4 4D-THRIVEを用いた肝臓ダイナミック
8 dynamics in 2 breath holds
1.5mm×1.5mm×1.5mm, SENSE, 133slices in 2sec/dynamic) |
■ 将来展望
われわれは腹部領域における3.0Tのアプリケーションとして,動きの補正技術,ならびに臨床に即した最新技術を提案した。MRIは卓越したコントラスト分解能が最大の特徴と言えるが,加えてVISTAやTHRIVEのような等方性ボクセルのボリュームデータを高空間・高時間分解能で撮像することで,より微細な病変を検出できるまでに飛躍的な進化を遂げている。
今後の技術革新としては,3.0T以上の高磁場化ならびに送信・受信コイルの多素子化の2つの方向性が考えられる。上腹部領域においては,32チャンネル受信コイルなどの需要が非常に高まっている。それはSENSEなどのparallel imagingによる高倍速化の恩恵を受けることから,時間分解能の向上,モーションアーチファクトやSARの低減が期待される。現在,研究段階ではあるがすでに臨床現場で稼働し威力を発揮しており,近く提供できる予定である。
今後もわれわれは,形態情報のみならず機能や代謝情報も一度の検査で得られるMRIの臨床的価値を見出しながら技術開発を追求していく。
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