ホーム inNavi Suite 日立メディコ Technical Note腹部領域におけるCTの最新技術
2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
腹部領域で重要な性能として,高速撮影と低被ばく撮影が挙げられる。本稿では,64列CT「SCENARIA」*1に搭載された技術の中から,腹部領域で有用な技術を紹介する。さらに,将来技術として開発中の逐次近似再構成技術についても触れる。
■0.35s/rotの腹部ルーチン検査
スキャン時間の高速化は,主に心臓撮影時の時間分解能の向上を目的として進められ,最短スキャン時間において,心臓撮影だけでなく胸部や腹部を含む全身の撮影が可能かどうかシステムごとに確認を要する。計算によるシミュレーション結果では,view数(1回転あたりの取り込みデータ数)が1000viewを下回ると空間分解能の低下が見られるため,最短スキャン時間において,1000view以上を収集することが課題となってくる。
SCENARIAは,2880view/sの高速データ収集が可能な検出器とその周辺システムを搭載しており,0.35s/rotにて1008view(2880view/s×0.35s)を確保している。そのため0.35s/rotの条件で,心臓だけでなく,腹部や胸部など全身を撮影することも可能である。さらに,Feldkamp法に比べて高画質な日立独自の3次元画像再構成アルゴリズムCORE(Cone-beam Reconstruction)法と組み合わせることにより,腹部300mmを3秒(0.35s/rot,ピッチ:1.08)で撮影可能である(図1)。
■IntelliEC*1
“IntelliEC(Exposure Control)”は,弊社AEC(自動照射制御)技術の名称である。1方向のスキャノグラム(PA or LAT)の取得で,被検者の体軸方向およびX線管回転方向に,3次元的に管電流を変調させる機能を有する。SCENARIAのIntelliECには,SDモード(Standard Deviation-driven AEC)とCNRモード(Contrast-to-Noise Ratio-driven AEC)の2つのモードが実装されている。
SDモードは,再構成画像における画像ノイズ,すなわち,CT値の標準偏差をほぼ一定にするよう管電流を制御する。“目標画像SD”を入力すると,入力値が該当シーケンスにおいて目標とする画像ノイズ値となる。これにより,被検者サイズやスキャン条件によらず一定の画質が確保可能となる。なお弊社では,管電圧,スライス厚,回転速度,ピッチ,再構成フィルタ等が変化しても,入力された目標画像SDを満たすような管電流が自動算出されるアルゴリズムを採用しているため,直感的な目標値入力が可能となっている。
CNRモードは,造影検査における視認性に着目した新しい管電流算出アルゴリズムを用いている。すなわち,組織間コントラストと識別性に関する独自のデータベースに基づいて,視認性を一定にするように管電流を制御する。図2に示すように,視認性はコントラスト,画像ノイズの双方に依存するため,撮影条件の変化に伴うコントラスト変化を考慮することは非常に重要である。標準条件(ここでは,標準的なサイズ,120kVとした)におけるコントラストで規格化した場合,被検者サイズ,管電圧に応じたコントラスト変化をコントラスト比として定義すると,図3に示すような傾向を持つ。同一管電圧条件では,被検者サイズが大きいほどコントラスト比は小さくなる。また,低管電圧条件ほど,コントラスト比は大きくなる。これらはそれぞれ,ビームハードニング,X線実効エネルギーの低下によって説明が可能である。
図2 コントラスト・画像ノイズに応じた視認性の変化 |
図3 被検者サイズ・管電圧に応じたコントラスト比 |
CNRモードでは,画質目標値として“Reference SD”(以下,Ref.SD)を入力する。Ref.SDは,標準条件にて目標とする画像SD値であり,そのほかの条件においては,以下の式にて算出される。
(1)は,標準条件と同一のCNRになるよう目標画像SDを調節する項である。(2)は,標準条件と同一の視認性になるよう目標画像SDを調節する係数項であり,読影実験*2から導き出された値である。図4は,CNRモードを適用して撮影した寒天ファントムの画像例である。内部にヨード造影剤を主成分とした模擬腫瘤を埋入している。ファントム直径は260mmである。SDモードの目標画像SDは,管電圧によらず10HUで固定した。比較のため,CNRモードの標準条件を直径260mm,120kVとし,Ref.SDを10HUと設定した。100kVでは,120kVに対してコントラスト比が大きくなるため,CNRモードでは目標画像SDが13.8HUに設定されるが,CNRは120kVとほぼ同等の2.8となる。すなわち本例は,視認性を維持しつつ,100kVのSDモードと比較して47%の被ばく低減が可能であることを意味する。標準条件より小さなサイズの場合は,コントラスト比が大きくなることから,より被ばくを低減させることが可能である。
■Intelli IP*1
“Intelli IP(Iterative Processing)”は,SCENARIAに搭載された逐次近似型ノイズ低減処理である。Intelli IPには,処理速度を特に重視したIntelli IP(Normal)*3と,実用的な処理速度において被ばく低減性能を向上させたIntelli IP(Advanced)がある。
Intelli IP(Normal)は,適応型逐次反復処理によって統計的なデータの信頼性に基づいたノイズ低減処理を投影データと画像データに施すものであり,ノイズ低減度,先鋭度,粒状性などのバランスを部位ごとに最適化する処理技術である。部位ごとにAから始まる数種類のタイプがある。撮影中のリアルタイム処理を実現するとともに,画像ノイズを最大で約30%*4低減可能である。
Intelli IP(Advanced)は,Intelli IP (Normal)における統計学的処理の精度を向上させた逐次近似処理である。処理速度と画質とのバランスを重視し,画像ノイズを最大で約40%*4低減,被ばく低減効果に換算して約60%*4という高いノイズ低減効果,およびストリークアーチファクト低減効果を得ることができる(図5 c)。
図5のROIで画像ノイズ(画像SD)を測定すると,従来再構成(Intelli IP=OFF)に比べてIntelli IP(Normal,E)*3では約14%,Intelli IP(Advanced)では約40%のノイズ低減効果が得られている。
図5 Intelli IP適用画像(腹部,WW=200,WL=60)
■逐次近似再構成
次世代の高画質化技術として,統計学的モデルを考慮した逐次近似再構成法〔仮称WIT(Weighted Iterative Technology)〕を開発中である。これは,高画質を追究した真の逐次近似再構成法であり,弊社独自の特徴を備えたアルゴリズム1)を用いて,ノイズ,コーンビームアーチファクトともに高い低減効果が期待できる。従来の再構成法に比べて,画像ノイズを最大で約60%低減*4,被ばく低減効果に換算して約85%*4をめざしている(図6)。
図6 逐次近似再構成法(仮称WIT)適用画像例(W.I.P.)
*1 | 「SCENARIA」「IntelliEC」「Intelli IP」は,株式会社日立メディコの登録商標です。 |
*2 | 熊本大学・粟井和夫教授(現・広島大学教授)他との共同研究 |
*3 | 区別の都合上,本稿では従来のIntelli IPをIntelli IP(Normal)と呼ぶこととし,Intelli IP(Normal)にてタイプEを使用した場合をIntelli IP(Normal,E)と呼ぶことにする。 |
*4 | 従来再構成(Intelli IP=OFF)時との比較結果である。 |
●参考文献 | |
1) | Takahashi, H., et al. : Motion Tolerant Iterative Reconstruction Algorithm for Cone-Beam Helical CT Imaging. 11th International Meeting on Fully Three-Dimensional Image Reconstruction in Radiology and Nuclear Medicine, 355〜358, 2011. |