日立メディコ

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Technical Note

2010年9月号
Step up MRI 2010−MRI技術開発の最前線

MRI−日立の1.5T MRIシステム「ECHELON Vega」におけるμTEシーケンスの開発

八杉 幸浩
MRIマーケティング部

現在,臨床用のMRIで用いられている主な撮像シーケンスでは,エコー時間(TE)は数ms以上が一般的である。このため,靭帯やアキレス腱などのT2値の短い組織では十分なコントラストが得られていない。
今回,1.5T MRIシステム「ECHELON Vega」(図1)において,“μTE”と称する超短TEシーケンスを開発して搭載した。
表1は,整形領域の診断において重要となる主な組織のT2値である。これらのような組織は,従来のTEの長いシーケンスでは比較的低輝度に描出され,十分な画像コントラストを得ることが不可能であった。これに対し,TEを数百μsに短縮した超短TEシーケンスでは撮像が可能となる。このTEを極限まで短縮したシーケンスの実現には,ラディアルサンプリング技術やハーフエコー計測,励起RFパルスの短縮化などが必要であり,さらに,高速に送受信モードを切り替えるRFシステムの開発も必要である。

図1 ECHELON Vega
図1 ECHELON Vega
表1 整形領域の主な組織T2値
表1 整形領域の主な組織T2値

●μTEシーケンスの概要

μTEシーケンスは,k空間を放射状にサンプリングするラディアルサンプリング技術を用いる。日立では“RADAR”として,モーションアーチファクトの低減を目的とした撮像技術を完成させて,高磁場MRIシステムに搭載している。
図2は,通常のシーケンスとRADAR,μTEのk空間サンプリング軌跡の違いを示したものである。通常サンプリング(図2 a)は平行にエコー信号をサンプリングするが,RADAR(図2 b)では原点を中心に回転してエコー信号を取得する。μTE(図2 c)はTEを短くするために,k空間の中心からサンプリングを行う点が特徴である。RADARなどのラディアルサンプリングでは,エコー信号ごとにk空間の取得角度が変わるため,ハードウエアの誤差による影響が問題となる。日立は,RADARの開発を通してこのような誤差要因の補正技術を確立し,製品搭載を可能とした。

図2 k空間サンプリング軌跡の比較
図2 k空間サンプリング軌跡の比較

図3は,μTEのパルスシーケンス図である。μTEは,励起RFパルスの片側半分のみを使用するHalf RF,エコー信号の片側半分を取得するハーフエコー計測,リードアウト傾斜磁場パルスの立ち上がり領域で信号を計測するノンリニア計測が特徴である。これらの開発により,最短で250μs(新開発のknee用受信コイル使用時)というきわめて短いTEを実現している。励起のRFパルスを途中で打ち切るHalf RFでは,スライスプロファイルの劣化が問題となるが,図4に示すとおり,スライス傾斜磁場の極性を反転して加算することで対処している。また,マルチエコー計測として,通常のTEの画像も同時に撮像する。これは,μTEではT2値の短い組織だけでなく,長い組織も高信号となるので,超短TEの画像データから通常のTEの画像データを差分処理することにより,短いT2の組織のみを描出する目的である。

図3 μTEパルスシーケンス図
図3 μTEパルスシーケンス図
図4 スライスプロファイルの改善
図4 スライスプロファイルの改善

●μTEの信号補正技術

μTEによるボランティア画像例を示す。図5は,アキレス腱の画像例である。主なシーケンスパラメータはFOV 150mm,スライス厚5mm,スキャン時間 6:44である。図5 aはファーストエコーの画像で,TEは0.25msの超短TEによる画像である。全体的に高信号となった画像が得られている。図5 bはセカンドエコーの画像で,TEは4.6msである。図5 cはファーストエコーからセカンドエコーを画像差分したものであり,T2の短いアキレス腱が明瞭に描出されている。
図6は,同じシーケンスによる手関節屈筋腱の画像例である。同様に,図6 cの差分画像において屈筋腱が明瞭に描出されている。

図5 アキレス腱撮像例
図5 アキレス腱撮像例

図6 屈筋腱撮像例
図6 屈筋腱撮像例

今回開発したμTEシーケンスはTEを数百μsというオーダに短縮することで,軟部組織だけでなく,軟骨や石灰化組織からも信号を得ることができる。これらの組織の画像化により,急性期の軟骨損傷などを診断できる可能性があり,MRI画像診断の新たな価値につながるものとして臨床応用が期待される。

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