2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
DR/DA(FPD)−腹部領域におけるX線透視撮影システムへの臨床ニーズとソリューション
小田和幸
XR戦略本部
1980年代半ばから放射線科の領域で実施され始めたIntrerventional Radiology(IVR)手技は,当初,血管の狭窄や閉塞などの病変に適用された。その効果は,入院期間を短縮でき,また,基礎体力の弱い患者も治療できるなどのメリットがあり,確実に治療成績を伸ばしてきた。その後,各種デバイスの開発が進み,また,内視鏡装置の高性能化とともに消化器内科の領域である胆膵管系へのアプリケーションが進歩してきた。
一方,X線透視撮影装置では,90年代初めから実用化されたDigital Radiography(DR)装置により,デジタル化された高精細な透視像と撮影像をリアルタイムに表示できるようになってきた。さらに,2002年に製品化された大視野Flat Panel Detector(FPD)を搭載したX線透視撮影システムにより,画質と操作性がさらに向上し,胆膵管系へのIVRニーズに応えられる環境が整ってきた。
本稿では,腹部領域におけるX線透視撮影システムについて,特に大視野FPDを搭載した透視撮影システムへの臨床ニーズとソリューションについて述べる。なお,本稿ではX線透視撮影システムを用いて実施する胆膵管系への治療を伴う検査を,広義の意味でIVRと呼ぶ。 |
■ 臨床ニーズ
胆膵管系IVRに対する臨床ニーズとその背景を以下に記す。
(1) 透視撮影台のテーブル周囲の作業性が良好なこと
・検査には,助手や看護師など多くのスタッフが参加し,さまざまな器材を使用する。
・被検者が動いた場合の対処やケアなど,迅速に被検者にアプローチする必要がある。
(2) できるだけ被検者を動かさずに検査を進められること
・内視鏡装置のスコープやガイドワイヤなど,被検者にさまざまな器具が体外から挿入されているため,安全性の観点から,視野移動時にテーブルをできるだけ動かしたくない。
・画像を見ながら手技に集中できる操作環境が必要である。
(3) 高精細な透視像を表示でき,かつ,できるだけ被ばく線量を低減させること
・細いガイドワイヤやステント,細かい石などを造影剤注入下でも良好に観察したい。
・目的部位を同定するため,CT画像やMR画像を参照画像として透視像と並列表示したい。
(4) テーブルが広く,できるだけ低い位置まで下がること
・胆膵系検査では,横臥位や腹臥位などの体位変換が必要となる。
・テーブルとストレッチャ間で被検者を移動させやすい高さに,テーブルの高さを調節したい。
(5) スコープの重なりを外せること
・目的部位がスコープの影にならないようにしたい。
(6) コンパクトなシステムであること
・従来のアナログタイプのX線透視撮影装置からの置き換えが容易なように,ユニット数が少なく,設置面積の小さいシステムが望まれる。 |
■ ソリューション
前述の胆膵管系IVRへの臨床ニーズに対して,X線透視撮影システムとして実現した技術を以下に記す。
1.透視撮影台
われわれは,これらの技術を搭載した製品群を「VISTA」シリーズと呼んでいる。VISTAシリーズは,「CUREVISTA」,「EXAVISTA」,「Versiflex」の3機種からなる。各機種は後述する共通の画像処理エンジンとFPDを持つ。本項では,CUREVISTAとEXAVISTAについて透視撮影台の特長を述べる(図1)。
(1) CUREVISTA
独自の2ウェイアーム機構とオフセットオープンスタイルを持つオーバチューブ型X線透視撮影装置である。
・2ウェイアーム:視野移動を映像系(X線管球とFPD)の動きのみで任意方向に実現でき,安全性の高い検査環境を提供できる。通常の装置は,縦方向の視野移動は映像系の動きで対応するが,横方向はテーブルを動かすことで実現するため,特に挿管状態にある被検者のリスクが高まる(図2)。
・オフセットオープンスタイル:テーブルシフト機構+オフセットアームの組み合わせにより,テーブル奥側に広いワークスペースを確保した。通常の装置は,テーブルの上下動や起倒動を制御する駆動スタンドとX線管球を支持する支柱により,テーブル奥側のワークスペースは狭くなる(図3)。
・ロングストローク:映像系の可動範囲が150cmと広く,天板の上端および下端より10cmの位置から透視・撮影像を収集し表示できるため,泌尿器系・婦人科系検査において,術者は楽な姿勢で検査に臨むことができる。 |
図1 CUREVISTAの外観 |
図2 2ウェイアーム |
図3 オフセットオープンスタイル |
(2) EXAVISTA
テーブル両端で同じ操作環境を提供する実用性と汎用性を重視したオーバチューブ型X線透視撮影装置である(図4)。
・アクセスフリー:支持枠や天板周囲の突起物を極力排除し,ケーブル処理も工夫した。これにより,テーブル奥のワークスペースを増大し,頭足両方向ともに同等の広さを確保した。また,ドアの位置など検査室の構成を気にせずに配置することができる(図5)。
・ロングストローク:映像系長手方向のストロークは150cmである。また,テーブルの上端および下端より15cmの位置から透視像および撮影像を表示できるため,泌尿器系・婦人科系検査において,術者は楽な姿勢で検査に臨むことができる。
・FPDサイズ:FPDの最大サイズを40cm×30cmと30cm×30cmの2種類から選択できる。このため,内視鏡検査専用,検診用など使用目的に応じて実用的なシステムを選択できる。 |
図4 EXAVISTAの外観 |
図5 アクセスフリー |
2.FAiCE-V
“FAiCE-V(Full Automatic Image Control Engine for VISTA Panel)”は,透視像や撮影像の画質向上のため,後述する“VISTA Panel”が持つ高い性能を最大限発揮させるための制御だけではなく,さらなる高画質化と高い操作性を統御するX線透視撮影システムのコアエンジンである。いくつかの機能を以下に述べる。
(1) SEC(Smart Exposure Control)
撮影時の管電圧・管電流は透視時の状態をもとにして透視と撮影のエネルギー差から決定できるが,撮影時間は通常,イオンチャンバなどのX線センサーをFPD入力部に設置して使用する。われわれは,このセンサーの陰影が画像に与える影響をなくすため,センサーを使用せず,アルゴリズムによりX線照射時間の最適化を図った。
(2) マルチモダリティ表示
画像サーバシステムと直接ネットワーク接続することにより,CTやMRIなどの撮影画像をコンソールの参照モニタに表示し,透視像と並列表示できる。特に,治療を伴う検査では,事前に検査した他のモダリティでの撮影画像を参照することにより,病変部を的確に同定することができる。
(3) 被ばく線量管理
被検者ごとに,透視と撮影の積算線量の概算値を表示する機能を搭載した。透視中は透視線量率を表示し,撮影直後はNDD法*1による計算値を表示する。その後,透視+撮影の被ばく線量積算の概算値を表示する。なお,面積線量計を搭載し,単位面積あたりの被ばく線量を計測・表示することも可能である。
3.VISTA Panel
VISTA Panelは,当社が2002年に製品化した際に搭載したFPDから3世代目のFPDである。その主な特長を以下に述べる。
(1) 透視像の高SNR化
FPDは各画素からデータを高速で読み出すため,読み出し画素の切り換え時にノイズが発生しやすく,このノイズがラインノイズとして現れる。VISTA Panelでは,データ読み出し時に発生するラインノイズを従来タイプの1/2以下に抑え,いままで以上に高いSNRの透視像を表示する。
(2) 詳細透視
撮影画像と同等の空間解像度を持つ透視像を表示できる。通常の透視像は,SNRを上げるため隣接する複数画素を加算平均してモニタ上の1画素として表示しているが,詳細透視では,FPD上の1画素をモニタ上の1画素として透視像を表示できる。このため,細いステントやガイドワイヤの視認性が通常透視に比べてさらにアップする
(3) 撮影像のワイドダイナミックレンジ化
FPDへの最大入射線量を従来タイプの2.5倍まで許容できるようにダイナミックレンジを広げた。この結果,被検者の体厚の薄い部分から厚い部分までをカバーし,表示能がさらに改善された。
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第三世代のFPDであるVISTA Panelと高画質化と高い操作性を統御するコアエンジンFAiCE-Vを搭載したVISTAシリーズは,「X線透視撮影装置に対する臨床ニーズを根本的に見直し,新しいコンセプトのもと,IVRを含む多目的検査に操作性良く対応できるとともに安全性に配慮したX線システム」をめざして開発された。3種類の透視撮影台により,それぞれの施設におけるAbdominal Imagingに応じて最適なシステムを選択していただけるものと思う。われわれは,今後も新しい臨床ニーズに応えられる技術をユーザーと一緒に追究していく所存である。
*1 NDD法は,茨城県放射線技師会被曝低減委員会(班長:森 剛彦氏)が提案した方法であり,茨城県立医療大学の佐藤 斉氏が係数を導き,ソフトウエアを開発したものである。
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