日立メディコ

Technical Note

2008年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−CT Colonoscopyの開発

中澤 哲夫/角村 卓是/國分 博人/白旗  崇
CTシステム本部ソフト開発部アプリケーション開発グループ

通常の大腸内視鏡検査では,15mm径程度の内視鏡を大腸に挿入して大腸内部の観察を行うため,被検者には多大な身体的負担が伴う。X線CT装置を用いる仮想的な大腸内視鏡検査であれば,大腸に内視鏡を挿入せずに大腸壁面を観察可能である。このため,被検者の身体的負担が少ない検査法として注目を集めており,大腸ポリープなどの存在確認や,狭窄などにより内視鏡が挿入できない部位の観察にも有用である。
当社で開発した仮想大腸内視鏡検査用の大腸解析ソフトウェアである「CT Colonoscopy」は,仮想的な内視鏡画像以外に,大腸管腔外の観察に適した3D-MPR表示,大腸を切り開いた状態を模擬した展開表示モードを備え,より臨床診断に役立つよう開発した。また,大腸領域の自動算出など簡便な操作性にも配慮したソフトウェアとなっている。


■ CT Colonoscopyの特長

CT Colonoscopyには主に3つの特長がある。以下では,これら特長別にその機能を解説する。

1. 大腸領域の自動算出と経路算出

CT Colonoscopyは,解析したい腹部領域のCT画像を読み込むと,自動的に3D画像の作成と大腸領域の認識を実行する。認識結果領域の確定/解除は,3D画像上で部位を直接クリックするだけで可能である。
また,大腸領域の経路については,MPR像上で経路算出開始点と算出方向を設定するだけで算出され,結果は3D画像上に表示される(図1右下)。

2. 3種類の表示モード

大腸内部の壁面を観察する表示モードは3種類から選択できる。図2 aに示す仮想内視鏡表示モードは,大腸内部の形状を観察する場合に有効である。壁面の凹凸を観察することで大腸ポリープなどの存在確認が行え,さらに,ポリープなどの突起物の距離計測も行える。図2 bでは,ポリープの縦・横方向の距離を計測したものである。計測した結果は,画像上の左側に数値で表示され,突起物の大きさの推測が可能となっている。
図3に示す3D-MPR表示モードは,大腸管腔外組織を観察する場合に適している1)。この表示モードでは大腸内部のみが3D画像であり,その周囲はMPR像である。この融合画像によって,ポリープなどの突起物の内部構造観察と,仮想内視鏡画像である3D画像の同時観察が行える。仮想内視鏡画像と3D-MPR像は,図1の右下の位置に表示され,どの位置で大腸内部を観察しているかは,3つのMPR画面によってガイドされる。
これら2種の表示モード以外に大腸展開表示モードも選択可能であり,これについては次節で説明する。

3. 展開画像縦横比均等表示

図4に展開表示モードを示す。大腸を切り開いた標本のような画像を表示するモードである。この表示モードは,大腸内壁を1画面に表示することで,ポリープなどの存在位置の確認を容易にする利点を持つ1),2)
また,CT Colonoscopyの展開表示モードは,大腸径に応じて展開画像の横方向の長さを調節している。これにより縦横比が均等となり,ポリープなどの突起物が歪むことなく,実際の形状に近い形状で表示される。
そのほか,大腸の曲率に応じて経路に対する断面の角度を変化させながら展開画像を作成する画像歪み低減補正や,ポリープなどの突起物が画像の上下に分割されて表示されるのを防ぐために,展開画像の上端および下端で一部の領域を重複させて表示させる機能も搭載している。

CT Colonoscopyは,内視鏡を用いずに大腸壁面の凹凸などの観察が可能である。しかし,内視鏡と同一の画像や情報を得ることは難しく,通常の内視鏡検査と併用するケースが考えられる。実際には,内視鏡検査前のCT Colonoscopyで大腸ポリープなどの存在・位置確認を行い,実際の内視鏡でポリープなどの除去を行う運用が一例として考えられる。これにより,内視鏡では見落としがちな大腸ひだ間に隠れているポリープなども,CT Colonoscopyの展開表示画像などにより確認することが可能であり,術前情報として術者に有用な情報を与えることができる。
今後,X線CT装置を用いる仮想的大腸内視鏡検査は,大腸がん検診などへの展開も期待されている。この場合,さらなる低被ばく化技術や下剤による腸管洗浄を行わない画像処理による残渣除去など3)〜5)の技術開発も重要となってくる。また,画像処理によるポリープなどの突起物の自動抽出の研究も進んでおり6),7),この技術により読影医の負担軽減が期待されている。


図1 CT Colonoscopy
図1 CT Colonoscopy
 
図2 仮想内視鏡画像 a:仮想内視鏡表示モード
図2 仮想内視鏡画像  a:仮想内視鏡表示モード
b:距離計測機能
b:距離計測機能
 
図3 3D-MPR表示
図3 3D-MPR表示
図4 展開表示モード
図4 展開表示モード

●参考文献
1) 小倉敏裕・他:消化器マルチスライスCT技術―消化器撮影のための二次元, 三次元画像の構築, 東京, 永井書店, 2005.
2) 佐藤一弘・他:パノラマ投影方法およびパノラマ投影装置(特許第3627066号)
3) Chen, D., et al. : Anovel approach to extract colon lumen from CT images for virtual colonoscopy. IEEE Trans. Med. Imag., 19・12, 1220〜1226, 2000.
4) Wang, Z., et al.:An impproved electronic colon cleansing method for detection of colonic polyps by virtual colonograpy. IEEE Trans. Bio. Medical Engineering, 8, 1635〜1646, 2006.
5) Zails, M.E., et al. : Digital subtraction bowel cleansing for CT colonography using morphological and linear filtration methods. IEEE Trans. Med. Imaging, 23・11, 1335, 2004.
6) Yoshida, H. : CAD for the detection of colonic polyps in CT colonography. Medical Imaging Technology, 21・1, 34〜40, 2003.
7) 河田佳樹・他 : 3次元曲率特徴の抽出アルゴリズム. MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY, 19・3, 142〜153, 2001.

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