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別冊付録

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The actual use of CryoHit

清水 匡(北海道大学大学院保健科学研究院教授)

清水 匡
清水 匡
Shimizu Tadashi

1978年北海道大学工学部電子工学科卒業。 80年同大学院工学研究科修了。88年北海道大学医学部医学科卒業後,同附属病院放射線科医員。91年帯広厚生病院,2004年北海道大学医学部保健学科助教授,2005年同教授を経て,2008年より現職。

第37回日本低温医学会総会(渡邊正志会長・東邦大学病院医療安全管理部教授)が2010年11月11日(木),12日(金)の2日間,東京国際交流会館(東京・江東区)にて開催された。2010年1月,凍結治療器「CryoHit」(Galil Medical社製/日立メディコ社販売)が,小腎癌の経皮的治療および腹腔鏡下・開腹下手術にも使用可能な装置として薬事承認され,わが国でもようやく凍結治療が臨床応用可能となった。11日に行われた日立メディコ社共催のランチディスカッションでは,北海道大学大学院保健科学研究院教授の清水 匡氏が,「The actual use of CryoHit 」と題し,2001年3月〜2002年10月まで同大学および東京慈恵会医科大学附属柏病院で実施された,肝がん,腎がん,子宮筋腫の計60例に対するCryoHit を用いたオープンMRIガイド下経皮的凍結治療の臨床試験の結果について報告した。


凍結治療に必要なシステムと治療のメカニズム

われわれがオープンMRIガイド下経皮的凍結治療の臨床試験を行ったのは,いまから約10年前であるが,その当時使用していた冷凍手術器がCryoHitである。最新のクライオプローブは1.5mmときわめて細いが,当時は2.4mmと3.2mmの2種類であり,穿刺による出血を避けるため,MRI対応穿刺針は血管造影用のダイレータ付きシースを用いて穿刺していた(図1)。

図1 シース,ダイレータを用いた穿刺
図1 シース,ダイレータを用いた穿刺

実際に,3.2mmのプローブで寒天を凍らせると,図2のようなアイスボールができる。凍結によって組織が約−20℃になると細胞外液が凍り,電解質の濃度が上がって細胞障害が起こる。また,急速に−40℃まで凍らせると,細胞内液が凍って細胞内小器官が破壊され,細胞破壊が起こる。さらに,−20℃以下では径0.5mm以下の微細血管の内皮が障害され,血管が閉塞する。この現象が組織障害に最も大きく影響すると考えられている(図3)。

図2 クライオプローブの内部構造とアイスボール
図2 クライオプローブの内部構造とアイスボール
図3 凍結治療のメカニズム
図3 凍結治療のメカニズム

凍結治療時のモニタリングに使用可能なモダリティは,超音波診断装置,CT,MRIがある(図4)。実際の画像を比較すると,MRIでは凍結領域が無信号となり,最もクリアに描出されるほか,さまざまな方向からの観察が可能である。一方,CTは,金属アーチファクトの影響でMRIよりも正確性が劣る。そのため,われわれは日立メディコ社製のオープンMRIを治験に採用した。

図4 凍結治療時のモニタリングに使用可能なモダリティの比較
図4 凍結治療時のモニタリングに使用可能なモダリティの比較

凍結治療のポイント

以下に,凍結治療のポイントについて述べる。
1.マージン
凍結治療を行うにあたり,重要なのはアイスボールの内側の温度である。実験の結果,アイスボールの表面から約5mm内側が−20℃であった。最新のCryoHitの説明書には,マージンは1cmと記載されているが,それでは凍結範囲が大きくなりすぎる場合がある。これまでの経験からは,5mmあれば十分と考えている。

2.プローブの配置(図5
アイスボールを作る際,1本のプローブでは,腫瘍を完全にカバーすることはできない。また,3本のプローブを平行に配置すると,頂点部分が凍結できない可能性がある。そこで,われわれは,プローブをクロスして配置することで,腫瘍全体をカバーした。

図5 クライオプローブの配置
図5 クライオプローブの配置

3.フローズンサイクル
凍結して融解するフローズンサイクルは,どの文献を見ても,肺を除いて基本的に2サイクルである。その際のポイントは,急速に凍らせて,ゆっくり溶かすことであり,これにより最も組織障害,細胞障害が大きくなるとされている。われわれはこれを2分の間隔を置いて行った。2分では,アイスボールが完全に溶けず一部残ってしまうが,−40℃以下の領域はすでに細胞が壊死していると考えられるため,−20℃以上の部分だけを2回凍らせればよいと考え,このようなプロトコールを採用した。

臨床試験の結果と考察

臨床試験は,北海道大学および東京慈恵会医科大学附属柏病院にて,肝がん20例,腎がん22例,子宮筋腫18例の計60例を対象に行った。ここでは,肝がんと子宮筋腫について述べる。
1.肝がん
肝がん20例の内訳は,肝細胞がん(HCC)17例,転移性肝がんが3例である。腫瘍径は1〜5.5cm(平均2.5cm)で,凍結時間は12〜32分(平均16.4分)である。
症例を提示する。治療にあたってはSPIO造影MRIにて腫瘍を描出し,3mmのプローブを3本使用して凍結を行った(図6)。門脈の辺縁は,血流によるヒートシンク効果のため凍結しないが,プローブをきわめて近傍に配置することで温度勾配が急になり,腫瘍細胞の残存を抑えることができる。また,ラジオ波焼灼術(RFA)あるいはマイクロ波凝固療法では,嚢胞状に欠損部位が残ることがあるが,凍結治療では欠損が残った症例は1例も経験していない。さらに,凍結治療のメリットとして,痛みがないことが挙げられる。会話をしながら治療を行うことも可能で,術者にとっても患者さんにとってもストレスの少ない治療法であると言える。
なお,10〜50.5か月(平均36.7か月)のフォローアップの結果,局所制御率は約80%,3年生存率は約60%で,約3割の患者で肝内再発は認められなかった。一方,合併症は,全例に発熱があったほか,当時は手技が未熟だったためか,穿刺時に肋骨横隔膜角を傷つけ,それを原因とする気胸2例,血胸1例が認められた。また,反応性の胸膜炎により,胸水が溜まった症例が2例あった。

図6 肝がん症例(46歳,男性)
図6 肝がん症例(46歳,男性)

2.子宮筋腫
子宮筋腫は,腫瘍径が2.9〜10cm(平均7.4cm)である。凍結時間は,変性筋腫により凍結領域がなかなか大きくならなかった症例があったことから,4〜67.5分,平均25分とやや長くなった。プローブは5本まで使用できるが,われわれは4本までで対応した。
実際に治療を行って驚いたのは,筋腫が6週間後に元のサイズの約60%にまで縮小した点である。子宮動脈塞栓術(UAE)と比較しても,縮小が非常に早いと言える。一方,合併症は発熱のほか,abscess(膿瘍)が1例あった。
症例は,37歳,女性。凍結治療の24時間後と2週間後に造影MRIを撮像してみると,凍結領域と壊死に陥っている領域の形状とサイズがまったく異なっていた(図7)。その理由として唯一考えられるのは,筋腫内にある微小血管系が塞栓されたということである。つまり,子宮筋腫の治療においては,ある程度の領域を凍結すれば,症状の低減効果が得られると考えられる。また,粘膜下筋腫の治療6週間後の画像では,正常な信号強度の内膜junctional zoneおよび筋層が認められ,少なくともMRI画像上は凍結領域の痕跡は残っていない(図8)。つまり,凍結治療後も妊孕能が温存できる可能性があると考えられる。

図7 子宮筋腫症例(37歳,女性)
図7 子宮筋腫症例(37歳,女性)
図8 粘膜下筋腫の6週間後の画像
図8 粘膜下筋腫の6週間後の画像

海外での凍結治療例:乳房,骨

カナダのケベック大学病院では,乳がんの凍結治療が行われていた。凍結前,凍結中,凍結後の画像を見ると,腫瘍と組織との関係や凍結領域がMRIにて明瞭に描出されていた。
また従来,RFAが有用とされてきた類骨骨腫においては,病巣に直接穿刺をしなくても,骨の外側からプローブを当てて凍らせれば治療可能で,痛みもないというメリットが報告されている(David, M. L., et al., : J. Vasc. Interv. Radiol., 21・4, 586〜589, 2010)。
さらに,ミシシッピーメディカルセンターでは,腎がんの椎体転移例に対して,MRIガイド下にプローブを穿刺して凍結治療を行っていた。その結果,椎体後面の骨は凍結領域が硬化し,再生・復元していた。これは,凍結治療では硬化してリモデリングが起こるということであり,熱を加えてタンパク凝固を起こすよりは,組織の再生能に対して影響が少ないということではないかと考え,現在,高い関心を持っている。

(文責:編集部)

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