日立メディコ

ホーム の中の inNavi Suiteの中の 日立メディコの中の 別冊付録の中の 磁遊空間 Vol.22の中の MRP累計出荷台数5000台突破 日立MRIの進化の歴史と未来への戦略 株式会社日立メディコ執行役常務/経営戦略室長/マーケティング統括本部長 前田 常雄

別冊付録

Special Interview

日立MRIの進化の歴史と未来への戦略

前田常雄(株式会社日立メディコ執行役常務/経営戦略室長/マーケティング統括本部長)

前田常雄1987年の発売開始以来,全世界で普及している日立メディコの永久磁石型MRI(MRP)が2010年9月,ついに累計出荷台数5000台を突破した。経済性に優れたMRIとして開発された永久磁石型MRIは,患者さんに“磁遊空間”をもたらすオープンMRIへと進化を遂げたことで,高性能と安定性,経済性,患者さんへのやさしさをすべて兼ね備えた優れた装置として急速に普及し,いまや中・低磁場MRIの代名詞となっている。そこで今回,MRPの累計出荷台数が5000台を突破したことを記念して特別インタビューを行った。MRPの開発に初期から携わり,同社の初代MRIマーケティング本部長も務め,現在もMRI事業全体を統括している同社執行役常務/経営戦略室長/マーケティング統括本部長の前田常雄氏に,MRP開発の歴史と日立MRIの未来への戦略についてお話をうかがった。

オープンMRIの開発に至る経緯と戦略

●患者さんにやさしいMRIの開発を

永久磁石方式MRIの開発は,1986年にスタートしました。当時は,日立製作所が0.5T,1.5Tの超電導型高磁場MRIの開発を行っていましたが,医療機器を扱うメーカーとして,当社でもMRIを開発したいとの思いから,より設置性や経済性に優れた普及型装置の開発をめざし,永久磁石方式に着目しました。最初に開発したのは,4本柱で四角いトンネル構造の装置でしたが,それを見ているうちに,柱を2本に集約して横をオープンにできるのではないかという発想が生まれ,実際に形にしたのがオープンMRIのスタートです。その根底にあったのは,「患者さんにやさしい製品づくりをしたい」という開発者の強い思いでした。
ただ,オープンにするという発想そのものは単純でしたが,いざ開発にとりかかると,いくつもの課題に突き当たりました。例えば,上下に分割して配置するためのフラットタイプの傾斜磁場コイル,照射コイルや,非対称構造の中で静磁場の均一性を保つための技術,きわめて薄いスペースに磁石,傾斜磁場コイル,RF照射コイルを詰め込むために起こる,渦電流と残留磁場の影響を回避するための技術,磁石の温度を一定に保つための制御技術などは,すべて一から開発しなければなりませんでした。最終的に,これらの課題は1年ほどで解決できましたが,それは,マグネットの開発を行っていた当時の住友特殊金属(株)〔現・日立金属(株)〕と当社が,コンセプト作りから共同で開発を行ってきたからです。

●一時代を築き上げたオープンMRI

最初の永久磁石型0.2T MRI「MRP-20」が発売されたのは87年ですが,その後,95年に2本柱の0.3TオープンMRI「AIRIS」を発売すると,販売台数が目をみはるほどの勢いで伸び始めました。特に,米国では急速に普及し,当時の普及型MRIの主流であった超電導型0.5T装置がどんどん置き換わっていきました。その理由は,1つは米国には閉所恐怖症の人が多いため,オープンという形態が最適だったこと,もう1つは,ちょうどこの頃,画質,性能,使い勝手などの面で超電導型0.5T装置を完全に凌駕したことがあると思います。垂直磁場方式ではソレノイドコイル(首輪や腹巻様のコイル)が使用できるため,水平磁場方式よりも高いSNRが得られますが,特に,頭頸部や関節部などは,水平磁場方式の0.5T装置よりも圧倒的に高画質でした。
また,オープンMRIによって,従来は難しかった小児や高齢者の撮像が可能となったほか,整形外科領域では関節を曲げた状態でも撮像できるため,大変有用でした。さらに,患者さんへのアクセス性に優れ,インターベンショナルな使い方もできるため,国内でも非常に高い評価が得られました。その後も,新しい撮像法などに次々と対応しながら進化を続け,2002年には,0.4Tの「APERTO」で,ついにシングルピラーを実現しました。

中・低磁場から高磁場への展開

●高磁場オープンMRIへの挑戦 ─AltaireからOASISへ

一方,MRI市場全体のトレンドは,確実に高磁場化へと向かっていましたので,当社としても,市場のあらゆるニーズにお応えするために,中・低磁場から高磁場まで,フルラインナップでそろえる必要があると考えました。そこで,垂直磁場方式の高磁場オープンMRIの開発に取り組み,2000年には0.7Tの「Altaire」を発売することができました。さらに,数年後には超電導技術の大幅な進歩や,すでに磁石開発と生産を開始していた日立製作所が得意とする,優れたシミュレーション技術を生かすことにより,結果として2008年に,オープン型では世界最高磁場強度を誇る1.2T MRI「OASIS」の発売に至りました。
 このとき当社がめざしていたのは,すでにMRIの標準機となっていた1.5T MRIに匹敵する装置を作ることでした。それが実現できるかどうかで,市場の評価はまったく変わってしまうからです。そのため,垂直磁場方式の1.2T装置の開発にあたっては,ソレノイドコイルという,信号を効率良く取得できるコイル技術の採用などにより,総合的には1.5T装置と同等の性能が実現できることをめざしました。実際に,米国では評価が高く,発売からわずかの期間で多くの台数を出荷することができました。現在もオープンMRIのシェアの50〜70%をOASISが占めています。

●Patient Friendlyな1.5T装置として開発されたECHELON Vega

もう一つの流れとして,高磁場装置の開発を行うなら,やはり将来的に3T装置をラインナップしていきたいという思いがあります。しかし,オープン型では技術的にもコストの面でも限界がありますので,水平磁場方式で1.5T以上の装置の開発をめざすことにしました。ただ,当社は他社との差別化要素として,オープンMRIの技術に力を注いできた歴史があり,これまでオープンMRIで培ってきた“Patient Friendl“”というコンセプトを新しい1.5T装置にも引き継いでいこうと考えました。その理念の下に開発したのが「ECHELON Vega」です。
ECHELON Vegaの発売は2006年ですが,当時,1.5T装置としてはガントリ長160cmとかなりコンパクトで,また,閉所恐怖症の患者さんがフィートファーストで撮像できるよう,寝台も他社にない長いストロークとし,コイルの受信コネクタの差し込み口も6か所設けました。また,将来のバージョンアップに備え,受信コイルのチャンネル数を8chから16chに拡張可能な設計としたほか,コンソールはWindowsベースとし,日本語表示を採用したことで直感的な操作を可能にしました。こうした工夫によって,Patient Friendly,User Friendlyな装置が実現できたと思います。
また,画質・機能面については,体幹部領域は東京慈恵会医科大学,脳神経領域は岩手医科大学,整形外科領域は神戸大学と3年間の共同研究を行い,先生方とディスカッションを重ねた結果,基本性能の大幅なブラッシュアップはもとより,最先端のアプリケーションやコイルなども開発されるなど,非常に大きな成果が得られました。

オープンMRIは開放性を生かした応用も推進

オープンMRIは小児やお年寄り,閉所が極端に苦手な方,まっすぐな姿勢で検査の受けられない患者さんなどに広く喜ばれる装置ですが,それだけでなく開放性を生かしてさまざまな用途で用いられています。特に治療への応用は,オープンMRIが今後,大きく期待されている分野です。国内では現在,脳神経外科手術などの術中撮像に用いられているMRIのほとんどが当社の中・低磁場装置ですし,2010年1月に薬事承認された冷凍治療器「CryoHit」(Galil Medical社製/日立メディコ社販売)を用いた経皮的治療においては,イメージガイド用のモダリティとして唯一,MRIだけがエビデンスが得られています。
イメージガイドを用いることで低侵襲な治療が可能になれば,患者さんのQOLの向上はもとより,入院期間が短縮し,総医療費の抑制にもつながります。MRIは無侵襲という点で非常に良い診断機器ですし,中でもオープンMRIは,イメージガイド下治療に最適な装置だと思います。実際に,オープンMRIガイド下で冷凍治療を開始することが予定されているほか,他の医療機関からも,OASISを手術室に設置したいというご要望もあり,新しい取り組みが始まろうとしています。これからも,そうしたニーズに耳を傾け,オープンMRIの活用の場を,もっと広げていきたいと考えています。

グローバルな医療への貢献に向けて

現在,日立製作所が社会イノベーション事業のグローバルな成長に向け,事業強化に力を入れています。そのひとつとして,ヘルスケア事業の強化があり,当社としても,これまで以上に医療現場のニーズに応えられるよう,新製品や高度な新機能の開発に全日立グループの力を活用していこうと考えています。
MRIについては,水平磁場方式高磁場MRI,高磁場オープンMRI,中・低磁場オープンMRI,の3つの方向性を考えていく必要がありますが,今年4月には,水平磁場方式1.5T MRIの新製品「ECHELON RX」と,0.4TオープンMRIの新製品「APERTO Lucent」をリリースする予定です。どちらもワークフローのさらなる向上をめざして開発したもので,従来よりも機能と操作性が向上していますので,ご期待いただければと思います。
一方,世界には,高度な画像診断を受けられない国や地域はまだたくさんありますが,そうしたところに最も適しているのは,やはり設置性,経済性,安定性に優れた永久磁石型オープンMRIです。販売網の整備と製品開発・製造の現地化を進め,中南米や中東,東欧諸国,アフリカなどへの普及を推進するなど,グローバルな医療への貢献に積極的に挑戦していきたいと考えています。

(2011年2月17日取材)

前田常雄 (Maeda Tsuneo)
1977年日立メディコ入社。MRIシステム本部設計部長,マーケティング・製品戦略本部MRI戦略統括部長,MRIシステム本部長,執行役/柏事業場副代表者,執行役常務/柏事業場副代表者を経て,2011年4月より現職。

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