ホーム inNavi Suite 日立メディコ 別冊付録 磁遊空間 Vol.22 RSNA名誉会員として放射線医学の国際交流を推進 杉村 和朗
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RSNA名誉会員として放射線医学の国際交流を推進
杉村和朗 (神戸大学大学院医学研究科放射線医学分野教授/同医学部附属病院院長/ 日本医学放射線学会理事長)
■RSNA2010で名誉会員に選出されました。当時の率直なお気持ちや,いまの心境をお聞かせください。
名誉会員というのはいままで,功なり名を遂げた方々へのまさに名誉という意味合いだったのですが,これからは国際交流などを積極的に行えるような立場の人たちを選出していくというRSNAの方針が,選ばれた理由のひとつと思います。現在,日本医学放射線学会(JRS)理事長ですし,アジア・オセアニア放射線学術会議(AOCR)2014の大会長を務めることも考慮されたはずです。また,学術面では,MRIによる骨盤内臓器(婦人科・泌尿器等)の画像診断の研究成果が評価されたのではないかと思います。これからの活動への期待と受け止め,国際交流により一層尽力していきたいと決意を新たにしております。
■放射線医学の国際交流の流れの中で,日本はどのような役割を果たしていけるでしょうか。
RSNAは大分前から国際放射線医学会議(ICR)とも協力して,放射線医学を世界に広めていくための活動の場をどんどん広げています。また,欧州放射線学会(ECR)も近年,国際化に力を入れ,成果を出してきています。一方,われわれアジア・オセアニアにはAOCRがありますが,三極の中ではまだまだ弱い立場にあります。AOCRの核になる,日本,中国,韓国の3国の中で日本がイニシアチブを取っていくためには,われわれがもっと世界に目を向けることが必要です。しかし日本の現状は,困ったことに内向き志向が強くなっていることが課題です。そこで,JRSでは国際交流委員会を強化し,海外の学会と協力関係を結んで交流を行ったり,学会での英語のセッションを増やし,英語での発表にインセンティブを設けるなど,さまざまな方法で国際化の推進に取り組み,存在感を示していきたいと考えています。
■RSNA名誉会員として評価された骨盤内臓器(婦人科・泌尿器等)の研究について,MRIとのかかわりを中心に振り返っていただけますか。
1982年頃に 0.15Tという,今からすれば非常に低磁場の装置が神戸大学近隣の病院に導入されたのを機に,週に1例だけ1時間の枠をいただいてMRIの研究を始めました。当時は基本的な撮像でもとても時間がかかるので,頭部以外の動かない臓器ということで,骨髄や骨盤部を対象に選んで研究するようになりました。症例数が多かったので婦人科領域を手がけていましたが,留学先のカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)では泌尿器領域にも取り組み,前立腺のMRIに目覚めました。
島根医科大学に帰国後,1.5T装置の導入を機に,婦人科・泌尿器領域の研究を精力的に行うようになりました。症例数の多い子宮筋腫や内膜症,前立腺肥大症などの良性疾患を対象にして医局員全員で取り組み,論文を次々に発表していきました。いまでは,子宮や卵巣の疾患における鑑別診断,治療方針の決定,術後のフォローアップ等,MRIは必須の検査法になっています。
最近は,MRIガイド下に行う凍結治療にも注目しています。中・低磁場のオープンMRIはインターベンションには大きなメリットがあります。当院では3年後の低侵襲治療センター開設を目指していますが,そこにぜひ導入したいと考えています。
■神戸大学,東京慈恵会医科大学,岩手 医科大学の3大学で行った1.5T MRI「ECHELON Vega」の共同研究が終了しましたが,その成果や今後の見通しをお聞かせください。
1.5T装置では一番後発になるので,まずSNRや磁場の均一性など基本性能の向上,そして,オープン型の経験を生かした 関節の動態検査やMRSなどの特徴付けを行ってきました。日立グループの総力をあげた研究開発体制が成果を上げてきているので,3Tも含めた次なる展開に期待しているところです。
■これからの放射線医学,そしてMRIの未来についてのお考えをお聞かせください。
JRS理事長の立場としては,全身を診る放射線科医というアドバンテージを生かして,読影・診断にとどまらず,救急放射線や放射線治療といった,治療に直結した分野を重視していきたいと考えています。またMRIは,その能力の8割がまだ未開拓と言える宝の山です。若い人たちにはがんばって,既成概念にとらわれない新しい発見を期待しています。
(2011年2月22日取材)
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