ホーム inNavi Suite 日立メディコ 別冊付録 磁遊空間 Vol.21 磁場均一性に優れたECHELON Vegaが整形外科の診療の質を大きく改善―医療法人財団共済会 清水病院
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医療法人財団共済会 清水病院
磁場均一性に優れたECHELON Vegaが整形外科の診療の質を大きく改善
リハビリにはfMRIと磁気刺激療法を導入
医療法人財団共済会 清水病院は,診療体制の充実による地域医療へのさらなる貢献をめざし,旧病院の改築に合わせて2009年6月,MRIを他社製の0.2T MRIから日立メディコ社の1.5T MRI「ECHELON Vega」に更新した。これにより,以前の装置では性能的に臨床使用が難しかったシーケンスが活用可能となったほか,ECHELON Vegaの静磁場均一性に優れた高画質によって,特に整形外科診療の質が大幅に向上している。また新たに,functional MRI(fMRI)専用の刺激・解析システムを構築し,脳卒中の後遺症のリハビリの一環として開始した“経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)治療”の際に,機能評価としてfMRIを役立てている。ECHELON Vegaによる診療の実際と展望について,清水正人理事長/副院長と放射線課の赤堀 亮主任にお話をうかがった。
赤堀 亮主任(右)と妹尾賢悟技師(左) |
清水正人 理事長/副院長 |
赤堀 亮 主任 |
村尾寿美 技師(手前) 中西和宏 技師(後ろ) |
山陰初の整形外科医院として開院し先進的な医療に取り組む清水病院
1958年に山陰初の整形外科専門医院として開院した医療法人財団共済会 清水病院は,長年にわたり,地域における整形外科診療の啓発や治療法の改善などに取り組んできた。病院に改称した1960年以降は,重い外傷や整形外科領域以外の疾患を抱えた高齢者にも対応できるよう,外科,内科,脳神経外科,神経内科などを順次開設したほか,いち早くスポーツ外来にも取り組み,地域の要望に積極的に応えてきた。また2008年には,病院として開院50周年にあたる2010年の完成をめざし,老朽化が進んでいた病院の改築工事を開始。新しい建物が順次完成していくのに合わせて,2009年6月には,MRIを他社製の0.2T MRIから日立メディコ社製の1.5T MRI「ECHELON Vega」に更新し,2010年2月からは,TMS治療のためのfMRIの撮像を開始した。さらに,2010年4月の新病院完成と同時に美容外科・形成外科も新設され,新体制での診療が本格的にスタートした。
fMRIを撮像できることがMRI選定の第一条件
MRIの更新にあたっては,経営的な観点から旧装置のバージョンアップも検討されていたが,最終的に1.5T MRIの導入を決断した理由について,清水理事長は,「TMS治療のためのfMRIの撮像には,1.5T以上の装置が必須でした」と述べている。
fMRIの撮像を行うには,高磁場MRIに加えてfMRI専用の刺激・解析システムの構築が必要なほか,安定した解析結果が得られにくいため,日常臨床でルーチンに実施している施設はほとんどない。しかし,清水理事長は,診療の幅を広げるためにも,他院では行っていない新しい取り組みに挑戦することが必要だと判断したという。
ECHELON Vegaの優れた操作性と高い静磁場均一性を評価
MRIの選定は,赤堀主任らが中心となって行われた。同院の4名の診療放射線技師のうち,組み合わせを変えて毎回3名が,各社の装置が稼働している施設や工場などを見学に訪れた。選定のポイントについて,赤堀主任は,「高画質であることと,誰でもすぐに撮像できる操作性の良さを特に重視しました」と述べている。見学先の施設では,可能なかぎり実際に操作も体験し,その結果,4名の技師のうち3名が,最も直感的に操作可能な装置としてECHELON Vegaの名前を挙げた。
また,ECHELON Vegaは,“HOSS(High Order Shim System)”技術によって高い静磁場均一性が保たれているほか,同社独自の脂肪抑制手法“H-sinc”によって広範囲で安定した脂肪抑制効果が得られるため,特に整形外科領域の画質には定評がある。赤堀主任は,「同社はこれまでオープンMRIで培ってきた整形外科領域での実績があり,それを生かして開発されたECHELON Vegaは,MRミエログラフィや腰椎,膝の画質が,他社の装置と比べても優れているという印象がありました。さらに,複数の連続する画像をつなぎ合わせて表示する“イメージステッチング機能”によって,全脊椎が一度に観察可能な点も,決め手のひとつとなりました」と述べている。
こうした赤堀主任らの強い推薦に加えて,サービス面での信頼性の高さなども評価され,同院のニーズに最も合致したECHELON Vegaが選定された。
ECHELON Vegaの高画質により診断能が大幅に向上
同院では現在,ECHELON Vegaで月に約120件の撮像が行われており,そのうちの約80%を整形外科領域が占める。腰椎や膝の撮像が特に多く,腰についてはT1強調像,T2強調像,STIRを基本とし,脊椎の撮像では3D-MRミエログラフィを追加して,圧迫骨折や腰椎椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症などの精査を行っている。また,膝については,半月板損傷や前十字靭帯損傷が多く,T1強調像,T2強調像,プロトン強調像を基本とし,症例に応じてT2*強調像やラジアルMPRを追加する。体動が抑制できない患者さんに対しては,動きのアーチファクトを抑制するアプリケーション“RADAR”を用いることで,診断により有用な画像が得られるようになった。さらに,以前の装置では撮像に時間がかかり,画質的にも不十分であったT2*強調像や3D-MRミエログラフィ,STIRなどを技師の判断で追加したところ,医師からの評価が高かったことから,新しい撮像法にどんどん挑戦しようというモチベーションの向上にもつながっているという。
清水理事長はECHELON Vegaの画質について,「以前のMRI画像は,診断において補助的な役割しか果たしていませんでしたが,ECHELON Vega導入後は,MRIだけでも十分な診断が可能となりました。特に,肩の腱板断裂や膝の半月板損傷の診断では,T2*強調像が追加できるようになったことで,確定診断に迫れるようになり非常に有用です。離断性軟骨炎の診断では,骨挫傷や骨壊死が起きていないかなども同時に把握できるようになりました。また,三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷や手指などの小さな部位でも,専用コイルによって高分解能画像が得られています。最近では,キーンベック病の診断において異常信号が描出され,早期診断に役立ちました」と高く評価している。
操作性も予想以上に良好で,同院の技師4人全員が短期間でECHELON Vegaを使いこなせるようになった。赤堀主任は,「例えば脂肪抑制の数値設定を行う際に,ECHELON Vegaでは,数値をダイレクトに入力するのではなく,最適な数値バランスがグラフで表示され,その頂点の部分を選択すればいいようになっています。こうしたさまざまな工夫が,使いやすさにつながっていると思います」と述べている。
■脳卒中の後遺症に対するTMS治療前のfMRIの一例
●fMRI撮像条件表
SPMソフトウエアによるfMRI解析結果
脳の3D画像上の赤い部分は,Tapping(手指対立の開閉運動)による賦活領域を示す(aは左手,bは右手による運動。対象患者は右麻痺がある)。ただし,この賦活領域はTappingによって血流が増加した領域を示しており,神経活動の直接の評価ではない。
TMS治療のためのfMRI撮像をスタート
一方,ECHELON Vega導入のきっかけとなったTMS治療も,今年2月から診療が開始された。TMS治療とは,コイルを頭部の外側に当て,大脳局所を磁気刺激することで,脳の回復力を最大限に引き出すための治療法であり,東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科の安保雅博主任教授が脳卒中の後遺症,特に,上肢麻痺のリハビリに応用している。TMS治療と短期入院による集中リハビリを組み合わせることで,リハビリの効果を最大限に引き出すことがねらいであり,同大学病院では入院待ちをする患者さんも多い。こうした状況のなか,同院の清水理事長と安保教授が大学の先輩後輩の間柄だったことから,安保教授の指導のもと,同院にもTMS治療が導入された。同院では現在,安保教授が月に2回診療に訪れ,また,同大学病院で研修を受けた理学療法士と作業療法士がリハビリを担当し,月間10人に対して,TMS治療と2週間の入院を1コースとしたプログラムが行われている。
fMRIの撮像は,TMS治療前に,治療部位の同定目的に専用の8chヘッドコイルを用いて施行されている。撮像にあたっては,患者さんに左右の手指の開閉(Tapping)を,30秒ごとに30秒の休憩を挟みながら行ってもらい,その間の脳の血流変化をBOLD法で撮像し,fMRI解析ソフトウエア“SPM(Statistical Parametric Mapping)”を用いて賦活時と安静時の差分により解析する。これに加えてMRIでは,T1強調像,T2強調像,3D-T1強調像,拡散テンソルトラクトグラフィを撮像し,総合評価によって治療部位が同定される。BOLD法の撮像は6分で行われるが,患者さんへの事前説明や動作練習なども行うため,すべての撮像を終えるのに約1時間かかるという。
赤堀主任は,「BOLD法は,MRIの撮像の中でも特に体動の影響を受けやすいため,なかなか安定した結果が得られません。良い結果を得るためには,患者さんにリラックスしていただくことが非常に重要なので,撮像前にいかにうまくコミュニケーションを取るか,現在も試行錯誤が続いています」と述べている。
fMRIで得られた結果をさまざまな角度から分析しつつ,より臨床的有用性の高いデータを得るための研究が続けられている。
fMRI撮像用にヘッドフォンが装着できるよう改良された8chヘッドコイルと,fMRI撮像時の刺激装置 |
fMRI解析ソフトウエアが搭載されたPC(中央) モニタ下はfMRI撮像時に視覚等に刺激を与えるための装置 |
新たなMRI撮像法に挑戦し適応領域のさらなる拡大をめざす
ECHELON Vegaの導入によって,診療に大きな変化がもたらされた同院であるが,経営面にも寄与していると清水理事長は話す。
「MRIの撮像件数は,ECHELON Vegaを導入した2009年7月から2010年3月までの9か月間の実績が,2008年1年間の実績に対して113%と上回っています。検査時間が以前の1/2から1/3に短縮したことで,緊急性のある検査にも柔軟に対応可能となり,待機日数も短いため患者さんや近隣の医療機関にも好評で,今後はさらに撮像件数が増加することが見込まれています」
fMRIについては,いまのところ,TMS治療以外の診療に活用しておらず,あくまでも研究の一環として行われているが,将来的には脳神経領域の診断の幅をさらに広げるために役立てていきたいと,清水理事長は展望している。また,神経細胞障害の状態やエネルギー代謝障害の有無,腫瘍などの細胞密度や増殖能の評価など,器質的異常の評価にMR Spectroscopyの応用が検討されており,同院の今後の展開が注目される。
(2010年7月3日取材)
医療法人財団共済会 清水病院
〒682-0881 鳥取県倉吉市宮川町129
TEL 0858-22-6161
FAX 0858-22-3030
http://www.shimizuhospital.jp/
ECHELON VegaによるfMRIの撮像 fMRIは,“functional:機能的”なMRI撮像を意味し,MRIによる脳の活動を画像化するものである。fMRIでは,外部からの視覚や聴覚の刺激,運動に対して反応する脳の活動を画像化する。画像化の手法にはいくつかの方法があるが,BOLD(Blood Oxygen Level Dependent)法が一般的である。これは,脳の活動に伴う血流の増加を利用する。血流(半磁性体の酸化ヘモグロビン)の増加に対し,酸素消費量(常磁性体の還元ヘモグロビン)の増加はわずかなため,相対的に常磁性体の還元ヘモグロビン量が低下する。これにより,磁化率が減少しT2*が延長するため,T2*強調像で賦活部位(活性化部位)におけるMRI信号の増加として検出することができる。また,脳の賦活以外のノイズ情報を考慮し,タスク(課題・運動)実行時とレスト(安静)時の画像から信号変化の統計的処理を行うことにより,脳の活動部位を推定することが可能である。このため,短時間に画像収集する必要があり,一般的にはSNRが高くEPIシーケンスが使えることが条件となるため,1.5T以上のMRI装置が検査手法となっている。 |