日立メディコ

ホーム の中の inNavi Suiteの中の 日立メディコの中の 別冊付録の中の 磁遊空間 Vol.21の中の Insight 腎腫瘍の凍結治療がスタートラインに 原田 潤太

別冊付録

Insight

腎腫瘍の凍結治療がスタートラインに
冷凍手術器の認可とMRI併用のメリット

原田潤太(東京慈恵会医科大学医学部医学科放射線医学教授/同大学附属柏病院放射線部診療部長)

原田潤太(東京慈恵会医科大学医学部医学科放射線医学教授/同大学附属柏病院放射線部診療部長)

■2010年1月,冷凍手術器CryoHitが腎悪性腫瘍を適用として薬事承認を取得しました。治験終了から8年経過しての認可ですが,担当者として今の率直なお気持ちをお聞かせください。

凍結治療(cryotherapy, cryosurgery)自体の歴史は古く,非常に侵襲の少ない優れた治療法だということは国際的に認められていますので,早く認可されてほしいと願っていました。一時は諦めかけたこともありましたが,すでに世界中で行われている凍結治療を日本でも絶対にできるようにしなければならないと思っていましたので,ようやく認可までこぎつけて良かったと思っています。

■治験を行った肝腫瘍,腎腫瘍,子宮筋腫のうち,今回は約4cm以下の小径腎腫瘍のみが適用となりましたが,どのような理由が考えられますか。

例えば肝腫瘍では,TAE(肝動脈塞栓術)やPEIT(エタノール注入療法),RFA(ラジオ波焼灼療法)など,認可された治療法の選択肢が比較的多いという背景があります。また,子宮筋腫の場合は保険適用される摘出術が第一選択で,他には先進医療としてUAE(動脈塞栓術)やFUS(集束超音波療法)も行われています。
しかし腎腫瘍の場合は,摘出術が唯一の標準的治療法でした。最近,RFAや海外では凍結治療が行われるようになり,有用性が報告されていますので,日本の泌尿器科医からの凍結治療への期待は大きく,今回の認可につながった一因と言えるでしょう。ただし,まだ保険収載はされていませんので,先進医療で行うことになると思います。

■改めて臨床治験の成果を振り返っていただけますか。また,アプローチ法としてのMRIのメリットについてお聞かせください。

2001年3月から2002年10月までの1年半に渡り,「MRIガイド下経皮的組織内凍結治療」の臨床治験が,北海道大学医学部附属病院と東京慈恵会医科大学柏病院で行われました。肝腫瘍,腎腫瘍,子宮筋腫を対象に,2施設各30例,計60例実施しました(治験プロトコール等の詳細は省略)。有効性は59例中50例で得られ,奏功率(CR+PR)は84.7%,安全性については問題なしが60例中58例であり,安全かつ正確に施行でき効果的であると結論されました。また,疼痛が少ない,ターゲット周辺の組織ダメージが少ない,繰り返し施行可能など多くのメリットがあり,関係各科からも凍結治療の継続が望まれていました。
MRIガイドを選択したのは,被ばくがなく,凍結辺縁0℃領域をクリアに描出できるため,腫瘍自体の凍結(アイスボール)を客観的に評価可能な最も優れたモニタ手段だからです。また,オープン型MRIはガントリ周囲からのアプローチが容易で,透視画像表示などの技術的進歩により,ほぼリアルタイムなモニタリングが可能です。永久磁石型オープンMRIは音が静かなことも適していると思います。
ただし,今回の認可では,経皮ではMR併用しかエビデンスがないということが警告されていますが,超音波やCT,内視鏡下などでも可能なので,非常に範囲が広がったと思います。

■永久磁石型オープンMRI稼働施設では今後,凍結治療を行うことも可能なわけですね。

実施に際しては,泌尿器科専門医がいることなどの使用者基準,施設基準があり,腎癌凍結療法ガイドライン(日本IVR学会,日本泌尿器科学会,日本低温医学会)の遵守が求められていますので,どこでも希望すればできるということではありません。現在,当院ではもちろん申請準備中ですし,国立がん研究センターでも実施すると聞いています。承認条件をクリアできる施設では,積極的に実施してほしいと思っています。

■凍結治療はスタートラインについたばかりですが,これからの展開をどのようにお考えですか。

患者さんに優しく,治療効果も高い凍結治療は,管腔臓器や血管系以外の頭頸部・胸部・腹部・骨領域の悪性腫瘍や痛みの治療など,多くの分野での適用が期待されています。今回の認可による成果をきちんと出して適用対象が広がること,そして,凍結治療が通常の治療法の選択肢に数えられるようになることを願っています。

(注)冷凍手術器「CryoHit」は,Galil Medical社製,日立メディコ社販売。販売価格などの詳細は未定。

1974年
  岩手医科大学医学部卒業
東京慈恵会医科大学附属病院長直属の研修医として放射線科で研修開始
76年
  同大学放射線医学教室助手
84年
  同講師
87年
  同大学附属柏病院放射線科診療科長
91年
  同大学放射線医学教室助教授
2000年〜
  同大学附属柏病院放射線部診療部長
2002年〜
  同大学放射線医学教室教授

▲ページトップへ

目次に戻る