ホーム inNavi Suite 日立メディコ 別冊付録 磁遊空間 Vol.20 APERTO Eternaにより健康度を評価する新たな指標を研究
ユーザー訪問
金沢大学医薬保健研究域附属健康増進科学センター
APERTO Eternaにより健康度を評価する新たな指標を研究
EBWを確立し,健康増進を科学する
2009年4月1日,金沢大学医薬保健研究域に,健康で長生きしたいという国民の願いを実現するために「健康増進科学センター」が開設された。同センターでは同年,研究の中心を担う装置として,日立メディコの永久磁石型0.4TオープンMRI「APERTO Eterna」を導入した。健康度測定法のさまざまな研究を進める一方で,今年4月からは学生の教育にも本格的に活用される予定である。研究と教育それぞれの面でAPERTO Eternaが担う役割や期待について,同大学保健学系教授で同センター健康モニタリング部門長の宮地利明氏にお話をうかがった。
宮地利明 教授 |
マスコットキャラクターの 「ケンゾーくん」 |
手前左から,宮地教授,松下特任助教, 奥左から,上田周平さん(放射線技術科学専攻4年),櫻井亮介さん(同4年),菅 博人さん(大学院医学系研究科保健学専攻1年)。 |
健康寿命を伸ばす研究を目的に「健康増進科学センター」を開設
「健康増進科学センター(Wellness Promotion Science Center:略称ウェルプロ)」は,平成21年度に金沢大学が文部科学省から採択された特別教育研究経費の連携融合事業「地域連携による健康増進科学の展開」の中心となる組織として,2009年4月1日に同大学医薬保健研究域に設置された(図1)。同センターは,国民の健康寿命(健康で自立して暮らすことができる期間)の延伸に寄与することを目的に掲げ,地域の大学,自治体,医療機関などと連携しながら,健康を維持・増進するための科学的根拠に基づいた理論と方法(Evidence Based Wellness:EBW)を研究する新たな学問分野“健康増進科学”の確立を図る。
健康増進科学センターは, MRIなどの高度な先進機器を使用し,科学的に健康度を評価する方法の研究を行う“健康モニタリング部門”,健康増進行動を支援するコンサルティング法を開発・検証する“健康コンサルティング部門”,連携先との研究体制の支援や倫理・情報管理などを行う“統括部門”,同大学の人間社会,理工,医薬保健の3つの学域の知的財産の融合を図る “学際協力部門”で構成され,2010年2月時点で,専任の特任教員・研究員4名を含むスタッフで運営されている(特任教員は今後増員予定)。また,健康増進科学を地域に定着させるとともに,地域住民の健康をサポートすることを目的とした「よろず保健室」を開設。地域と連携を図りながら活動を行っている。
図1 健康増進科学センターの組織図
科学的な健康指標を研究するためAPERTO Eternaを導入
●APERTO Eternaの選定理由
健康モニタリング部門では,健康度が評価できる方法をまずMRIで研究し,次に,その評価方法がポータブルの超音波診断装置や体組成計,骨密度計など,より身近で簡易な測定機器に転換可能かどうかを検証するとともに,新たな健康指標の構築をめざしている(図2)。そのための中心的な役割を担う先進機器がMRIである。ボランティアを対象とする研究には被ばくなどの侵襲がなく,安全に繰り返し行える検査機器が求められる。さらに,ほかにはない新しい情報が得られることも期待されるため,MRIは必須の装置と言える。宮地氏は,研究の目的を達成するために求められる装置の条件について,次のように述べた。
「MRIによって健康度を評価する際,ダイナミックな変化をとらえることも必要なため,姿勢を変えやすいオープン型の方が適しています。さらに,一般のボランティアを撮像するので,閉塞感のないオープン型で,騒音が少なく,より高い安全性を有する装置が求められます」
こうした条件を満たす装置として,永久磁石型のオープンMRIに候補が絞られた。さらに,高磁場装置と比較して遜色のない高画質な画像が得られ,研究用としても十分に対応可能であることが決め手となり,永久磁石型で最高磁場強度を有する,0.4Tの「APERTO Eterna」の採用が決定した。
図2 健康増進科学センターの研究の全体像
●MRIによる研究内容
現在,同部門ではすでに,骨代謝・骨梁構造の評価,筋のパフォーマンスの評価,脂質・鉄の代謝の評価,脳の物性解析(頭蓋内圧やコンプライアンス),血流解析など,さまざまなテーマの研究が始まっている(図3)。これらの研究目的のために独自のシーケンスや解析法を開発し,APERTO Eternaに搭載した。例えば,脂肪含有率と評価には多重GRE法を,頭蓋内圧・コンプライアンスの解析には心電同期フェーズコントラスト法を使用している。
T1WI,T2WI,MRAなど基本的な撮像法はもちろん,拡散強調画像(DWI)やADC map,血流測定など,高磁場装置で行っている主要な撮像法にほとんど対応していることも,センターのMRIとしては重要なポイントである。このように,臨床用の汎用装置であるにもかかわらず,研究にも十分対応できるフレキシビリティを持つAPERTO Eternaの評価は高い。
宮地氏はまた,「問い合わせに対する対応も迅速で,技術的な要望にも開発陣が柔軟に対処してくれます」と,国内メーカーならではのきめ細かいサポート体制にも満足しているという。
研究テーマの中でも,頭蓋内コンプライアンスの測定は宮地氏が長年研究を続けてきたもので,特発性正常圧水頭症(手術で治る認知症)の診断能の向上に寄与することが認められている。そのための独自の撮像法もAPERTO Eternaで動作することが確認されている。現在,この手法の測定精度に関してのマルチセンタートライアルが国際的に行われており,中低磁場装置で唯一,APERTO Eternaが使用されることになる。今後は動物実験も行うことが予定されており,基礎研究での活用も期待されている。
図3 健康モニタリング部門で行われている研究テーマ
教育面での意義─最新のモダリティをそろえ,即戦力を育成する
一方,研究と並んで大学のもう1つの重要な使命である教育面においても,APERTO Eternaが導入された意義は大きい。同大学医薬保健学域保健学類は,専門性の高い教員と環境を備えた全国でも有数の教育施設として知られている。しかし,ことMRIに関しては,以前は附属病院や他院に出向いて臨床実習および卒業研究や大学院生の研究を行っていた。そのため,APERTO Eternaの導入は,学生にとっても待ち望んだものだった。
「4月の新学期から,どんどん教育に取り入れていきたいと思っています。学部学生はMRIの実習に非常に興味を示しており,今から待ちきれないといった様子です。また私の研究室には30人近くの大学院生が在籍していますが,大学院生の研究にも活用したいと思っています」と宮地氏は話す。学部学生がポジショニングから撮像,画像観察までの一連の流れを実際の装置で学ぶことで,即戦力を養成できる意義は大きい。さらに,卒業研究や大学院生の研究にも十分に役立つとしている。
また,教育現場におけるMRIには,コストパフォーマンスが高いことやメンテナンスが容易であること,扱いやすいことなどが求められると,宮地氏は指摘する。その点,永久磁石型MRIは最適な装置と言える。
健康増進科学センターの主なスタッフ(中央がセンター長の大竹茂樹教授)
左から,栗 正治研究員(統括部門),須釜淳子教授(健康コンサルティング部門長),真田 茂教授(統括部門長),大竹教授,宮地教授,北山敦子特任助教(健康コンサルティング部門),松下達彦特任助教(健康モニタリング部門)。
APERTO Eternaによる研究を多くの人の健康増進につなげる
時代の潮流としてMRIの高磁場化が進む中,“健康増進科学”という新たな学問分野を研究する装置としてAPERTO Eternaを選択した健康増進科学センター。研究テーマは大学内で募集もしており,今後もさまざまな研究を行っていく予定だ。
「診療所などにも広く普及している中低磁場のMRIで健康度を評価する新しい指標が構築できれば,多くの人の健康維持・増進に役立てることができます。そういう意味で,APERTO Eternaでなければ得られない成果を求めていくことが,われわれの役目だと思っています」と宮地氏は強調する。
さらに,自身がこれまで行ってきた研究をAPERTO Eternaでも検証し,中低磁場装置の可能性を追究していきたいと考えている。APERTO Eternaによる研究成果が,1日も早く国民の健康の維持・増進に役立てられることを期待したい。
(2010年2月8日取材)
金沢大学医薬保健研究域附属健康管理増進科学センター
〒920-0942 石川県金沢市小立野5-11-80
TEL/FAX 076-265-2541
ウェルプロ http://www.well-pro.jp/