GEヘルスケア・ジャパン

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Technical Note

2011年11月号
クラウド型サービスの最新技術解説

「医知の蔵」―クラウド型医用画像外部保管サービス

湯藤 寿人
ヘルスケアIT本部プロフェッショナルサービス部

当社では,医療機関が撮影・保管したCTやMRIなどの医用画像を院外に保管する,クラウド型の医用画像外部保管サービス「医知の蔵(いちのくら)」の販売を2011年7月より開始した。提携先のソフトバンクの設備を活用し,運用管理業務は当社が行う。すでに,9月より深谷赤十字病院(埼玉県深谷市)にてパイロット運用を開始している。

■なぜいま,医用画像の外部保管なのか?

医用画像の外部保管が必要とされる背景として,主に以下の3点が挙げられる。

1.データの増大と管理者不足
医療機関の現場では,“データの爆発的な増大”と“管理者の不足”が大きな課題となっている。いままでのデータの増大要因は,主にモダリティの性能進化によるものであったが,今後については,社会構造,疾病構造の変化という点も見逃せない。2011(平成23)年の高齢社会白書によると,日本は2010年の時点でも国民の23.1%が高齢者と,すでに超高齢社会である。一方で,疾病構造として“がん”が増えると同時に,がんは致命的な疾患ではなくなりつつある。
こうした高齢者の増加とがんの慢性疾患化は,結果として,画像データを含む管理すべき診療情報の増大につながる(北里大学病院・村田晃一郎先生のご講演より引用)。こうした増大するデータの保管コストは,医療機関にとって大きすぎる負担となっている。
また,日々のバックアップ作業やデータ管理も,専任の管理者を配する施設はごくわずかで,多くの施設では,診療放射線技師が本来の業務に加えて時間と労力を割いているのが現実である。こうした課題は,昨今のフィルムレス運用の普及促進に伴い,日増しに大きくなっている。

2.法的規制の緩和
こうした状況の中,現場では外部保管を求める声が高まっていた。しかし,それを阻む壁となっていたのが法規制である。そもそも厚生労働省は,災害対策のための外部保存を含めた対策を講じることを奨励しており,その施策として,すでに2002年には「診療録等の保存を行う場所について」の通知が出されていた。しかし,その保存先は,医療機関か行政機関が管理するデータセンター等に限られていたため,普及は進まなかった。しかし,2010年2月,この通知が一部改正され,民間事業者の運営するデータセンターによる外部保存が容認された。現場でのデータ管理の負担軽減と,災害対策としてのデータの保全という使命を同時に実現することが,より現実的なものとなったのである。

3.医療コストの削減
3点目は,マクロ経済的な医療費削減の観点である。一般的にPACS導入の際,医療機関では過去データの移行領域に加え,今後5年以上先までデータを保管できる容量の短期/長期ストレージを購入することが多いが,利用開始時点ではほとんどのハードディスクが空のまま,いたずらに回転し電力を浪費している。1施設で見ても無駄が大きいが,国内全体で考えると膨大なストレージへの初期投資と消費電力の無駄を生んでいるため,長期アーカイブだけでもデータセンターに集約することで大幅な無駄の削減が期待される。
当社では,こうした背景とお客様の声に基づいて,医用画像の外部保管サービス医知の蔵を立ち上げた。

■ 医知の蔵の技術的な特長

技術的な特長は,ストレージ構成,ネットワーク,監視システムの3つに区分される(図1)。

図1 医知の蔵サービス概要
図1 医知の蔵サービス概要

1.ストレージ構成
“ストレージ構成”の特長には,“ツーティア型”と“2つの二重化”の2つがある。当社PACSが持つツーティア型(二階層型)というストレージ構成の特長が,外部保管サービスとの組み合わせに非常に適している。PACSは一般的に,短期キャッシュ用と長期アーカイブ用でストレージが構成され,データを二重化している。ワンティア型(一階層型)の場合は,すべてのデータを短期キャッシュに格納することにより,全データへの高速なアクセスを可能とする。しかし,アクセス頻度の低い過去データに対しても,高価なストレージが要求され,コストやデータ移行の負担が大きな懸念となっている。これに対しツーティア型の場合,短期キャッシュには,アクセス頻度の高い直近数年分のデータを保存し,瞬時に使えるようにする一方で,長期アーカイブには,短期キャッシュに対するバックアップに加え,アクセス頻度の低い患者のデータが必要に応じて短期キャッシュに呼び戻され使用される。この仕組みは医知の蔵でも適用され,データセンターには長期アーカイブ用ストレージのみが配置される。これにより,医知の蔵を用いる医療機関は,頻繁にアクセスする患者データに関しては,瞬時に施設内の短期キャッシュにアクセスし参照することができ,アクセス頻度の少ない患者データについても,医知の蔵に保存された画像にオンデマンドなアクセスが可能である。
また,ストレージ構成のもう1つの特長として,医知の蔵では2つの二重化がなされている。1つ目は短期・長期ストレージによる二重化,2つ目は長期ストレージ同士の二重化である。短期キャッシュに保管された画像は,基本的に長期アーカイブにも存在する。これにより,短期キャッシュに保存されたデータが何らかの災害・障害で失われても,その画像は,遠隔地にある医知の蔵のストレージに記録されているため,復元することができる。また,医知の蔵は,後述のガイドラインに基づき,500km以上離れた場所に存在するプライマリ/セカンダリの2か所のセンター間でデータを二重化している。このため,どちらかのセンターに保存されたデータが何らかの災害・障害で失われた場合でも,もう一方のセンターに記録されたデータから正しく復元することができる。このようにして,医知の蔵では,ツーティア型と2つの二重化により,データの長期管理を効率的に,かつ,安全に行うことが可能である。

2.ネットワーク
ネットワークの特長は,当社のオンライン保守回線である「InSite(インサイト)」の活用である。当社では,航空機エンジンのオンライン保守の経験を生かし,医療機関に対するオンライン保守の重要性を考え,早くからInSiteネットワークの構築に努めてきた。その結果,すでに2000を超える医療施設とオンライン当社保守センターとが,InSiteのIPsec VPN技術を用いたセキュアな高速回線によってつながっている。こうした資産を活用することにより,InSite導入ずみの医療機関は,医知の蔵の利用にあたっては原則として,追加の機器,工事費,月々の回線使用料などの負担が不要となる。

3.監視システム
3点目は,監視システムの存在である。データセンターに配置されたシステムをリモートで自動監視する仕組みを有しているのも,このサービスの特長である。具体的には,主に以下の3つの監視がなされる。(1) システムの処理結果を記録するシステムログが取得されること,(2) システムに対する内外からのアクセスをすべて記録するアクセスログが取得されること,(3) 各ハードウエアとソフトウエアの稼働状況に対する自動監視が行われていることである。
なお,これらの監視システムは,後述する3省/4ガイドラインを満たす重要な役割を担っている。

■医知の蔵の運用面での特長

当社が行う運用面に関する特長は,“ガイドライン遵守”という1点に集約される。当社のような民間事業者が,診療データの外部保管サービスを提供するためには,Information Security Management System(ISMS)の考え方を満たした上で,経済産業・総務・厚生労働の3省から出ている4つのガイドライン((1) 経済産業省:医療情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン,(2) 総務省:ASP・SaaSにおける情報セキュリティ対策ガイドライン,(3) 総務省:ASP・SaaS事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン,(4) 厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン)の対象箇所を満たさなくてはならない。当社では,これらのガイドラインを膨大な時間と労力をかけて慎重に検討してきた。その結果,これらガイドラインは大きく3つの区分に分類でき,全体で648の項目を満たすことを要求しているとの理解に至った。
3つの区分とは,(1) 技術的・物理的セキュリティ,(2) 医療機関との合意,(3) ISMSの確立であり,それぞれ,「アクセス制御や入退室といった,直接的なセキュリティを実装する措置」「契約書・SLAでの書面化及び医療機関等との合意内容」「社内規定(ISMS文書)の整備や監査・レビュー等を通じたISMSの運用」を要求している。医知の蔵がガイドラインを満たしている主な具体例には,2つの二重化による災害対策,セキュアなネットワークデバイスの使用,冗長構成やシグネチャー更新管理,お客様とのサービス仕様書の確認,院内運用の確認,などが挙げられる。この3省/4ガイドラインの要求を満たしていることが,医知の蔵の運用面における最も大きな特長である。

医知の蔵を利用することで医療機関が得られる最大のメリットは,“コスト”と“品質”という,相反する2つの要素を同時に満たすことができる点である。初期投資を抑え,管理人件費・電気・空調・スペースなどを効率化してコストを抑制する一方で,品質に関しては,災害対策やセキュアなネットワーク,冗長構成やログ管理など,3省/4ガイドラインの対象部分が要求する項目をすべて満たす,安心なサービスが受けられることは,大切な診療データを外部保管する際に最も重要な点ではないだろうか。
医知の蔵は,現時点ではガイドライン遵守を優先し,当社PACSのお客様専用のサービスとして出発した。サービスの範囲も,DICOMデータのアーカイブに限られている。しかし,来るべき社会に向けて,施設間のデータ共有や患者自身によるデータの参照・管理など,サービスを拡充させていきたいと考えている。

【問い合わせ先】 ヘルスケアIT本部 TEL 0120-202-021