ホーム inNavi Suite GEヘルスケア・ジャパン Technical Note被ばく線量低減および最適化のための技術
2010年10月号
CT新潮流−最新の被ばく低減技術のポイント
CTの性能は飛躍的な進歩を続けており,CTの検査件数の増加,適応範囲も拡大している。これに伴い,医療被ばくに占めるCTの割合が増加傾向にあることが指摘されており,2007年にNew England Journal of Medicine誌に掲載されたBrennerらによる論文では,CT検査による発がんのリスクにより,将来米国のがん患者の1.5〜2.0%に達するものと推定している。 このような状況を背景として,CT検査における情報量としての画質あたりの被ばく線量を低減することが求められている。本稿では,撮影条件最適化の技術と装置の最適化の技術について解説を行う。 ●CTにおける撮影条件の諸問題と最適化 被ばく線量の低減は重要な命題であるが,一方で,診断可能な画質を担保しなければならないため盲目的な線量低下は画質を損ねる可能性があり,検査目的を達成する画質を得るための撮影条件の最適化が重要となる。 1.3D mA Modulation(Auto mA/Smart mA) このような状況の中,被検者ごとの撮影条件の最適化については,体重をパラメータとした計算式やチャートによる管電流設定が,以前より推奨されていた。しかし,各施設や個々の検査における撮影条件の最適化は,使用するCT装置,検査部位などの因子が異なるため,適切に利用することは困難であった。そこで開発されたのが,automatic exposure control(AEC)としての“3D mA Modulation”であり,装置が被検者の体格を測定し,所望の画質を得るのに必要な管電流値を自動的に計算してX線曝射を変調制御する機能である。AECの重要なポイントは以下の3点であり,3D mA Modulationではそのすべてを実現している。 2.Color Code Protocols “Color Code Protocols”は,Broselow-Luten Pediatric Systemに基づく小児の体重とサイズに色分けされた小児用プロトコールである(図1)。前述の3D mA Modulationと組み合わせることにより,経験や推測に頼ることなく適切なプロトコールを設定することが可能となる。現在は,CT装置と電子カルテシステムを連動させることも可能であり,被検者の腕などに装着されたバーコードを認証することでカルテの体重情報がCTコンソールに自動入力されるようになり,最適なカラーコードが選択される。
3.Procedures-Based Protocols 体格に応じたプロトコールと同様に,検査目的に応じて柔軟に適切なプロトコールを設定することは重要であると考えられる。図2は,検査目的ごとに3種類のカラーゾーンに分けられたプロトコールの一例である。
●装置の最適化 CT装置そのものの設計も被ばく線量の低減に大きく関係する。よって,装置を開発するにあたり,画質あたりの被ばく線量をいかに下げるかは最も重要な課題である。従来,被ばく線量の低減という観点からあまり着目されてこなかった画像再構成方法が近年見直され,画質あたりの被ばく線量比を大きく改善することを主眼とした技術が注目されている。 投影データからの画像再構成方法は,解析的再構成法と逐次近似再構成法の2つに大きく分類される。現在多くの商用CTで用いられている画像再構成方法は,解析的再構成法としてのFBP(filtered back projection)法であり,その理由は,この手法が他の手法と比較して画像再構成時間に優位性を持つためであった。一方で,逐次近似再構成法にはノイズに強い,あるいは投影データの不完全性を補えるといったなどの利点がある。これは,逐次近似再構成法の一法としての統計的手法を応用したものである。収集される投影データは,どうしてもX線量子ノイズなどの統計誤差を含んでしまうことが避けられないが,この手法では近似の収束性が担保されているため,データに誤差を含む場合でも統計的に確からしい画像に近づけていくことが可能である。この誤差を統計モデルと比較しながら,反復計算により画像(画素値)の期待値を求めていく手法が,統計的手法と呼ばれるものである。しかし,画像再構成計算中の反復的処理に必要な膨大な計算量が問題となって,商用CTでの実用化が困難であった1)。 GEヘルスケアでは,“ASiR(Advanced Statistical Iterative Reconstruction)”として従来問題となっていた逐次近似再構成法における画像再構成時間を高速化のためのアルゴリズムの開発や,ハードウエアの最適化により著しく短縮することで製品化を可能とした。このことにより,従来と同等の画像ノイズ(SD)であれば被ばく線量を低減することが可能となり,臨床での評価において被ばく線量を32〜65%低減可能であったとの報告もされている2),3)。図3に,従来のFBP法とASiRの比較例をMPR像にて示す。 また,統計モデルとは別に,光学モデルとして焦点サイズや検出器開口幅などを含めた幾何学的特性を考慮することで,画像の分解能を改善させることも可能であり,現在製品化に向けて開発を行っている。
●ユーザビリティ GEヘルスケアでは,撮影条件の最適化機能として,AECとしての3D mA Modulation(Auto mA/Smart mA)を従来から製品化しているが,今回のASiRの開発に伴い,それぞれの機能が有機的に連携し合うユーザーインターフェイスを開発中である。これにより,Auto mAの画質設定値(noise index)に応じた画質を維持したまま,所望の被ばく線量低減率(% Dose Reduction)を設定することが可能となる。これは,設定した線量低減率に応じて,ASiRの最適な設定が自動的に選択されることで実現される機能である(図4)。これにより,操作者がASiRを意識することなく,被ばく線量を考慮した撮影条件を容易に設定することが可能となる。図5に実際の撮影例を示す。
CT検査の被ばく線量の低減は,画質あたりの被ばく線量比を改善することで可能となるが,その低減効果は個々の検査の撮影条件が最適化された上で評価されなければならないと考えられる。たとえ,CT装置の改良により画質あたりの線量比が大きく改善されたとしても,体格や検査目的に応じた撮影条件が設定されていなければ,個々のCT検査の被ばく線量が最適化されていることにはならない。 今後も画質の向上を怠ることなく,ハードウエアとソフトウエアの両面から,被ばく線量の低減と最適化に注力した製品開発に取り組んでいく。
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