2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
CT−腹部CTにおける技術革新
高橋紀夫
マーケティング本部MICT製品企画グループ
腹部領域のCT診断に求められる大きな基本性能の1つに,ノイズが少なく淡いコントラスト差を識別するコントラスト(密度)分解能がある。この基本性能を最大限発揮しながら,X線CTの課題である低被ばく撮影条件下において,存在診断,形態診断,進展診断,鑑別診断を確信画像で行えることが求められている。しかし,実際の現場ではさまざまな体型,容体の被検者に対し,ルーチン条件下で低被ばく条件下で精度高く良好なコントラスト分解能を得ることは困難である。
本稿では,腹部領域で長年の期待であった,低被ばくでノイズの少ない良好なコントラスト画像を可能とするまったく新しい画像再構成法“ASiR(Adaptive Statistical Iterative Reconstruction)”,および新たな画像情報が期待されているデュアルエナジー撮影による物質弁別画像や,高精度なCT値診断が可能となる仮想単色X線画像を実現したSpectral Imagingの特長を紹介する。 |
■ ASiR
ASiRは,核医学診断装置などに使用されている逐次近似法をCTに応用し,分解能を損なわず画像ノイズを大幅に軽減できる新しいCT画像再構成法であり,オリジナルデータとの整合性が困難な画像再構成後に行うイメージノイズフィルタ処理とは異なるプロセスを踏む再構成法である。これまで逐次近似法画像再構成法は,三次元的なX線光学系と統計ノイズ系の2つのモデルシステムを含めた逐次近似計算を行うため,取り扱うデータ量が膨大となり,1スライス画像あたりの計算時間が延長し,1日に数万スライス画像の計算を必要とするCT検査では非現実的な画像再構成法と言われていた。それに対しASiRは,逐次近似法の統計ノイズと被写体ノイズ部分を主とした専用の超高速演算コンピュータを開発することにより,現実的な画像計算時間内で日常CT検査の場に逐次計算法応用による低ノイズ高画質全身画像を提供することを可能とした。腹部CT画像診断において,ASiRを日常検査の中で使用した場合の効果的な内容を示す。
1.低ノイズ・高画質腹部画像
BMIが高かったり,あるいは除脂肪体重の多い被検者,低電流小児撮影など,日常,画像ノイズが増加し良好なコントラストがつかないケースがあるが,このような場合はX線管電流条件を上げることでリカバリーが可能である。しかし,X線管照射性能制限や被ばく抑制の面で,選択肢として簡単に選ぶことができない。ASiRを用いると,従来のX線管電流条件のままでノイズが30〜50%低減され,被ばくを増加させることなく擬似的に約2倍のX線管電流をアップさせた時と同じ低ノイズレベルの画質が得られる。
2.50%以上低被ばく化と画質維持
被ばく抑制のためASiRを使用すると,従来の管電流条件と同じ画像ノイズレベルをX線管電流条件を約1/2まで軽減でき,画質を維持しながら,30〜80%の被ばく低減が行える。ただし,低被ばく化については単に低被ばくというのではなく,被検者体型に合わせて臨床上必要な情報が得られる最適の条件というALALA(As Low as Reasonable Achievable)思想を重視している(図1)。
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図1 同一SD画像を低線量で実現 |
3.サブミリスライス腹部HRCT画像
肝門部や副腎,微小腫瘍など存在,形態,進展情報を正確に画像化する場合はパーシャルボリューム効果を抑制するため,1mm以下の薄いスライス厚撮影が効果的である。しかし,サブミリスライスではX線フォトン数が減少し,アキシャル,MPRサブミリスラブ厚ではノイズが増加し,実質的にはスライス厚を厚くするかX線管電流を上げることとなり,被ばく増や画像ボケにつながる。ASiRであれば,サブミリスライス表示でも,従来の条件でノイズの少ない,パーシャルボリューム効果を抑制した高分解能画像化が行える(図2)。
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図2 0.5mm MPR像の比較 |
4.高分解能関数画像
ASiRでは,高分解能関数で再構成することも行えるため,通常のStandard関数から高分解能関数Detailを使用することにより,腹部においても高周波強調関数を使用した高分解能画像化が行えるようになる。血管系や膵頭部など,解剖学的に重なり合った部分での微細な構造描出が期待できる。
5.超多相動脈相ダイナミック撮影
肝ダイナミックスキャン動脈相撮影では,腫瘍の血流動態によっては2相撮影のタイミングで造影されないケースがある。このような場合,テーブルの高速往復運動によりデータ収集休止時間のない連続した時間データ収集が行える“Volume Helical Shuttle”法を使用すると,動脈相10秒間に全肝を6位相で撮影することができるため,2相撮影では検出できない濃染タイミング病変部を検出できる。しかし,このとき問題になるのが,多相撮影による被ばく増加である。ASiRでは,被ばくが約50%低減できるため,単純撮影や門脈相,平衡相の撮影条件を下げて被ばくを各相で約1/2にすることにより,平均的に行われている4フェイズダイナミックスキャンの被ばくと同等以下の総計被ばく量で,動脈相6フェイズダイナミックスキャンを行えるため,従来検出できなかった病変部を検出できることになる。
6.高画質な門脈相,平衡相ダイナミックスキャン
通常,ダイナミックスキャン時は,門脈と他の血管,実質とのコントラストがつきにくく,3D作成に時間を要することが多い。また,肝区域診断のため,静脈走行をアキシャル像で観察したい場合にもコントラスト差がなくなり,ウインドウを絞り込むと,ノイズが増加し読影が困難となることもある。ASiRでは,画像ノイズレベルを大きく低減するため,ルーチン的に行われているダイナミックスキャン時の門脈相,平衡相から再構成した静脈系アキシャル像の観察が容易になる(図3)。 |
図3 平衡相画像の比較 |
7.3D-CTA処理時間の短縮
腹部系で行われる3D-CTAでは,臓器実質ノイズが三次元化され,ノイズが入らないパラメータ調整に時間を要するが,ASiRで再構成された動脈相画像であればノイズが低減されているため,プロトコールに設定されたパラメータでそのまま高精細な三次元画像が作成されることとなり,結果として処理時間が短縮されるという二次的効果も生み出す(図4)。
このように,生データレベルで統計学的なノイズを逐次近似法を応用して画像再構成するASiRは,腹部画像診断で被検者の被ばくを50%以上低減しつつも,読影が容易な高コントラスト画像,高分解能画像,3D処理時間短縮など,CT検査に関係する被検者,操作者,読影医の方々に多くのベネフィットをもたらすと言える。 |
図4 同一条件での3D画像の比較 |
■ GSI
腹部領域では,CT値差がないと基本的に画像では分解することができないため,造影剤でコントラスト差をつけて診断する方法が長く行われている。GSI(Gemstone Spectral Imaging)は,この原理を根本から変える撮影方式で,高エネルギーと低エネルギーをわずか500μsの間に切り替え撮影する高速スイッチングデュアルエナジー撮影法である。GSIでは,生データから2つのマテリアルビームハードニング補正を行うことが可能なため,物質弁別画像(例えば,水密度画像,Iodine密度画像)と仮想単色X線画像を再構成することができるようになる。従来,CT値が同じものは分離鑑別ができなかったが,異なるエネルギーで撮影することにより分離でき,腹部系では,血管内の造影剤と石灰化の分離や,微細な構造の膿胞か転移かの鑑別診断などがより正確に行えるようになる(図5)。
2010年,腹部画像診断は低被ばく高画質ルーチン検査および新画像情報CT検査時代の幕開けの年と言える。
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図5 GSIによる物質解析 |
画像提供: |
東京大学医学部附属病院様
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