2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
SPECT−心臓専用SPECT装置「Ventri」と心臓用アプリケーション“CardIQ Fusion”
河窪雅宏
MIセールス&マーケティング部
日本国内における核医学検査のうち,心臓核医学の占める割合は25%ほどで,これは欧米に比べまだ少ないが,今後,欧米並みの利用が期待されている。GE横河メディカルシステム(株)では,2008年に心臓の検査に特化したSPECT装置「Ventri」の国内販売を開始した。
本稿では,Ventriに加え,心臓核医学と併用することで注目されている,冠動脈造影CT画像と3次元での融合を可能としたアプリケーション“CardIQ Fusion”の技術的側面についても併せて紹介する。 |
■ 心臓用SPECT装置「Ventri」
現在,SPECT装置に利用されている基本原理は,米国の物理学者アンガーが発表したもので,半世紀以上経過した現在においては,コンピュータ技術の発展に伴う改善や画像処理などを別にすると,飛躍的な性能の向上は出尽くした感が否めない。
このような中,Ventriは検査に及ぼす問題点を総合的に見直すことで,従来とは少し異なる視点からのアプローチで心臓検査の向上をめざしたSPECT装置である(図1)。 |
図1 Ventriの外観とアクセサリー |
1.撮影時間の短縮
撮影時間の長い核医学検査で,画質を劣化させる主要因の1つに挙げられるものとして,撮影中の患者さまの体動がある。Ventriには,撮影時間を半分に短縮しても同等の画質が得られる画像処理ソフト“Evolution for cardiac”(図2)が標準で搭載されている。このアプリケーションは,コリメータの幾何学的構造,散乱線などの影響で画像が劣化するのを逐次近似画像再構成の過程で補正するものである。そのためEvolution for cardiacでは,従来の半分の撮影時間でも同等の画質が得られることが確認されている。したがって,撮影時間を短くすることで,検査中の動きによる画質劣化(ボケ)のリスクを減らすことが可能となる。
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図2 Evolution for cardiac
上段:通常収集時間 下段:Evolution 1/2撮影時間 |
2.患者さまの快適性を追究
また,体動が発生する要因としては,撮影時間の長さのほかに,撮影時の体位や固定方法などが大きな影響を及ぼす。特に心臓検査では,上肢を挙げた状態で撮影するため,長時間の撮影は患者さまの苦痛も大きく,体動を誘発する要因となっている。Ventriでは,検査時間の短縮やサポートツールにより患者さまに快適な検査を提供することで,これらの低減を図る工夫をしている(図3)。用意された仰臥位用ヘッド/アームサポート,レッグサポートなどは,心臓検査用に特別に設計されている。特に,患者さまへの負担が大きな腹臥位での撮影には,腹臥位用フェース/アームサポートも開発された。仰臥位に加え,短時間の腹臥位検査を追加することで,あいまいな症例が半減するとの報告がある。 |
図3 快適な検査を実現するための専用サポート器具 |
3.操作性の向上
専用機ならではの特長として,操作性の向上がある。一般的に“専用機=操作が難しい”というイメージが強いが,Ventriはまったく異なり,心臓検査に特化したことで,1台ですべての検査をこなさなければならない汎用機と比べて操作性を大きく簡素化した。これは,経験の差による検査結果の違いを減らし,常に一定の画質を得られる効果をもたらしている。
撮影時間の短縮,患者さまの動きによるボケの低下,経験に左右されない検査品質。Ventriは,これらにより画質の向上をめざすとともに,オペレータや患者さまに快適な検査を実現した装置と言える。 |
■ 核医学,冠動脈造影CT 3Dマッピングアプリケーション“CardIQ Fusion”
1.CardIQ Fusionとは
CardIQ Fusionは,SPECTまたはPETの機能画像と冠動脈造影CTの3D画像を高次元で融合させるアプリケーションソフトである。一般的に2次元や3次元でクロスモダリティの画像を重ね合わせる手法は従来よりあったが,CardIQ Fusionはこれまでの概念とは異なり,造影CTから抽出された左室の心筋外膜上に,核医学で得られた機能情報をマッピングするという新しい手法をとっている。これは,チューリッヒ大学のKaufmann教授が,2006年の北米核医学会で“Image of the year”を受賞したことで注目を浴びた。
2.3Dマッピング方式とBull’s eye
CardIQ Fusionは,造影CT画像から抽出した3D心筋上に,核医学から得られた血流などの情報をマッピングする。一般的な2次元画像のフュージョンでは,単に双方の画像の不透明度を調整することで可能であるが,3次元画像においては,一方の画像に埋もれて見づらくなったり,後方に存在するものが見えて読影の邪魔になるなど不都合が多い。一方,CardIQ Fusionでは,Bull’s eyeで行われている手法を3次元に拡張したと考えるとわかりやすい。以下では,広く活用されているBull’s eyeと比較しながら,CardIQ Fusionの手法を簡単に説明する。
Bull’s eyeでは,SPECTの心尖部から心基部へスライスした各短軸断層像において,その中心から放射状に心筋壁の最大値(集積値)を取得し,その値をあらかじめ用意された円盤上に中心から周辺部方向に埋めていくため,いわゆる極座標表示となる(図4)。しかし,この表示法は,3次元の物体を2次元の平面で表すことができる反面,形態的に変形してしまう欠点がある。一方,CardIQ Fusionでは,核医学画像から機能を表すマッピングデータを取得するところまでは非常に似ているが,そのデータを貼り付けるオブジェクトが単なる画一的な円盤ではなく,実際の患者さまから得られた造影CTの3D画像というところが大きな違いである(図5)。また,冠動脈も3D化して同時に表示することができ,冠動脈の狭窄部位と血流低下領域等の関係を関連づけて観察することができるようになるため,特に,多肢病変での責任血管の同定などに有効であると言われている。 |
図4 Bull’s eye
心筋短軸断層像の中心から放射状に最大値を取得し,マッピングデータ(アレイマップ)とする。これを円盤上に中心から周辺部にマッピングしていくと,Bull’s eye表示となる。 |
図5 CardIQ Fusion
心筋の中心から放射状に最大値を取得し,造影CT画像の心筋外膜を切り出し3D化した表面にマッピングする。その後,冠動脈を表示する。これらの操作はほとんど自動化されている。 |
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