GEヘルスケア・ジャパン

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Technical Note

2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−循環器領域におけるMDCTの臨床有用性

紫藤尚利 CT Sales & Marketing
佐々木公祐 画像応用技術センター

1998年に世界初のMulti Detector-row CT(MDCT)が登場してからのこの10年間,ガントリー回転速度の高速化,多列化が進み,広範囲を短時間に撮影するだけではなく,薄いスライス厚による高空間分解能の画像が得られるようになったことにより,循環器領域,特に心臓領域(主に冠動脈病変)へと拡大してきている。心臓イメージングに関する技術の開発は,MDCTの登場当初から行われていたが,臨床応用という意味では16列以上のMDCTの登場,特に64列MDCT以降に急速に普及してきた。

■ 被ばく低減アプリケーション “SnapShot Pulse”

しかしながら,心臓CT検査においては解決しなければならない問題がいくつかある。まずは被ばくの問題である。心臓CT検査は,通常の胸部CT検査と比較してヘリカルピッチのオーバーラップが大きくなるため,被ばく線量がかなり大きくなってしまうという欠点がある。心電同期ヘリカル撮影は,原理的に低いヘリカルピッチでの撮影を必要とすることや,微細血管の評価を目的にS/Nを向上させるための比較的大線量による撮影が要求される。研究段階や基礎実験段階では,良好な画像を取得し,画像評価の正確性を確認することに重点が置かれるが,一般検査として実施する場合には被ばくの最適化を図ることが必要不可欠である。もちろん,64列MDCTの登場とともに,心電図に同期して管電流を変化させるECG mA Modulation機能などさまざまな被ばく低減機能は有してはいたが,十分な被ばく低減機能とはなり得なかった。そこでGE横河メディカルシステム(株)では,心臓CTにおける被ばくを大幅に低減するアプリケーション“SnapShot Pulse”を開発した1)
SnapShot Pulseは,いまや撮影の主流になりつつあるプロスペクティブゲーティング撮影と,寝台移動を繰り返して心臓全体を撮影する方法であり(図1),被検者の心電波形に同期しながらある心位相のみでX線曝射を行うため,大幅な被ばくの低減が可能となる。この撮影法を臨床上使用可能としたのは「LightSpeed VCT」が世界初であり,広い撮影範囲(40mm)と寝台移動速度の高速化により実現できた。これには,心臓全体を3,4回の撮影でカバー可能なことと,寝台移動の高速化が重要な開発要素となる。LightSpeed VCTに搭載されている寝台機構での移動時間は1.1秒であり,連続もしくは1心拍あけての撮影ができるため,ヘリカルスキャンとほぼ同等の撮影時間(息止め時間)を実現している。したがって,従来,LightSpeed VCTで検討されてきた造影プロトコルを変更することなく,撮影が可能である。同一被検者をヘリカルとSnapShot Pulseとで撮影したときの比較(図2)を示すが,SnapShot Pulseでは,Padding(曝射時間延長機能)を設定した状態でも,62%もの被ばく線量を低減しつつ,ヘリカルスキャンと同等の画質が得られていることが確認できる。
SnapShot Pulseの有用性については,すでに論文等によっていくつかの報告2)〜4)がなされ,また,低い管電圧を用いるBMI情報をもとに管電流を設定するなどのプロトコルの工夫と組み合わせて,さらに被ばくを低減させる研究報告もされている。


図1 SnapShot Pulseの原理
図1 SnapShot Pulseの原理

図2 SnapShot Pulse被ばく比較
図2 SnapShot Pulse被ばく比較

■ 高空間分解能イメージングの可能性

心臓CT検査は,冠動脈狭窄の評価,先天的心臓疾患の評価などの形態的診断や,壁運動の評価,心筋灌流の評価などの機能的診断,さらには狭窄病変の性状評価やPCI後のフォローアップでの評価など,さまざまな診断目的に有効的に活用されている。
なかでもPCI後のステント内腔評価は,侵襲度の観点からも,心臓CT検査に大きな期待が寄せられ実施されてきてはいたが,内腔径が3mm未満になると,ステントストラットからのブルーミングアーチファクトの影響により再狭窄の評価は困難であることも多かった(ステントの種類にも左右される)。また,非侵襲的なプラーク性状評価も依然として期待される領域であり,プラークのCT値を計測してから評価を行うが,1mm以下の小さな領域を計測するため,石灰化のような周辺の高い吸収体によるパーシャルボリュームの影響を無視できない。結果として計測に誤差が生じ,脂質性なのか線維性なのかといったようなプラークの分類を困難にすることがあった。さらには,高度石灰化病変の血管内腔評価が困難であることも心臓CTの課題である。この3つの問題点に対する共通の対策は,“空間分解能の向上”である。
2008年10月に,弊社が発表した「Discovery CT750HD」(以下,CT750HD)の特長の1つが“空間分解能の向上”である。CT750HDは,いままでにない画期的な素材を使用したまったく新しいX線検出器である“Gemstoneディテクター”を搭載している。Gemstoneは,ガーネットの分子構造をシンチレータに応用し,従来のガドリニウムオキシサルファイド(GOS)検出器と比較して約100倍の発光特性を有し,さらには,残光特性(アフターグロー)も約1/4に改善しているため,発光の高速応答を実現している。そのほか,X線束を高精度で制御する新方式X線管球“Perfromix HD Tube”を採用することにより,データ収集システム(DAS)が本来持っている高速サンプリングを0.35秒の高速回転時にも適用可能となり,空間分解能の改善を格段に向上させている。しかも,Gemstoneではシンチレータの発光量自体も増大するため,高速サンプリングによるノイズの影響を抑制し,石灰化やステントによるブルーミングアーチファクトやメタルアーチファクトなど,さまざまなアーチファクトを軽減することを可能にしている。これらの効果によってCT750HDでは,空間分解能が従来と比較して最大40%の向上が期待できる(図3)。


図3 Off Center 20cmにおけるファントムデータ比較
図3 Off Center 20cmにおけるファントムデータ比較

心臓CT検査の課題に対する技術開発について解説した。CT750HDに関しては,逐次近似法を応用した新しい画像再構成法(ASIR)の適用によるコントラスト分解能の改善や,1ソースで実現可能な上,単色X線イメージングの可能性を持つデュアルエネルギー撮影(Gemstone Spectral Imaging),30cm以上の広範囲における4D撮影を可能にした“Volume HelicalShuttle”など,いままでにない画期的なハード,ソフトを有している。
また,CTのシステムだけではなく,画像処理ワークステーションの開発によるアプリケーションの自動化・簡便化も,今後さらに進めていく必要があるだろう。撮影・解析・読影に携わる医師・技師の方々だけではなく,検査を受けられる患者さまも恩恵を受けられるよう,今後とも技術開発を進めていきたい。

●参考文献
1) Hsieh, J., Londt, J., Vass, M., et al. : Step-and-shoot data acquisition and reconstruction for cardiac x-ray computed tomography. Med. Phys., 33・11, 4236〜4248, 0000.
2) Husmann, L., Valenta, I., Gaemperli, O., et al. : Feasibility of low-dose coronary CT angiography ; First experience with prospective ECG-gating. Eur. Heart J., 29・2, 191〜197, 2008.
3) Horiguchi, J., Kiguchi, M., Fujioka, C., et al. : Radiation dose, image quality, stenosis measurement, and CT densitometry using ECG-triggered coronary 64-MDCT angiography ; A phantom study. Am. J. Roentgenol., 190・2, 315〜320, 2008.
4) Earls, J.P., Berman, E.L., Urban, B.A., et al. : Prospectively Gated Transverse Coronary CT Angiography versus Retrospectively Gated Helical Technique ; Improved Image Quality and Reduced Radiation Dose. Radiology, 246・3, 742〜753, 2008.


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