ホームinNavi SuiteGEヘルスケア・ジャパンAdvanced Report 「医知の蔵」によるPACSデータのクラウド化でTCOの削減と業務効率の向上をめざす 外部保存で実現した災害に強く信頼性の高い医用画像管理(深谷赤十字病院)
healthymagination series 2012
Advanced Report No.7
「医知の蔵」によるPACSデータのクラウド化でTCOの削減と業務効率の向上をめざす
外部保存で実現した災害に強く信頼性の高い医用画像管理
深谷赤十字病院
埼玉県北部保健医療圏の地域中核病院である深谷赤十字病院では,2004年にGE社製「Centricity PACS」を導入した。以降,段階的にシステムを更新し,2011年9月20日から,TCO(total cost of ownership)の削減と業務の効率化を目的に,GE社が提供するクラウドコンピューティング型データホスティングサービス「医知の蔵」の試験運用を開始。2012年3月30日に本格運用へ移行した。「医知の蔵」のファーストユーザーとして,クラウドでの医用画像管理に取り組んだ同院では,どのようなメリットが得られているのか。放射線科の清水文孝技師長と富田欣治技師を中心に取材した。
■ファーストユーザーとして2011年9月から「医知の蔵」を試験運用
深谷赤十字病院は,1950(昭和25)年に,埼玉県深谷市に開院した。現在,22の診療科,病床数506床の規模を擁し,救命救急センター,埼玉県災害拠点病院,地域医療支援病院,地域がん診療連携拠点病院,地域周産期母子医療センターなどの指定を受け,北部保健医療圏における中核病院としての重責を担っている。
地域中核病院としての責務を果たすためにモダリティの整備にも精力的に取り組んでおり,CTは64スライスの「Light Speed VCT」,MRIは「Signa EXCITE 1.5T」など2台,マンモグラフィは「Senographe 2000D」,血管撮影装置は「Innova 2100IQ」と,GE社製の装置を導入している。このほかにCTが1台,核医学装置が1台,X線TV装置が3台,X線一般撮影装置が4台,さらにパントモやデンタル装置も設置・稼働している。一方,治療関連では,リニアックのほか,GE社製のCTシミュレータが稼働している。
これらのモダリティに加え,放射線科内では,ITの整備も進めている。現在,GE社製のPACS「Centricity PACS」と放射線科医読影ビューワの「Centricity RA1000」などを導入しているほか,RISも稼働している。2012年11月からは電子カルテシステム稼働に伴い,完全フィルムレスに移行した。
さらに,こうしたIT化の一環で,GE社が提供するデータホスティングサービス「医知の蔵」のファーストユーザーとして,2011年9月20日から試験運用を開始。翌2012年3月30日から本格運用に移行し,クラウドでの医用画像管理を行っている。
■コスト削減と業務負担軽減を目的に医用画像管理をクラウド化
同院放射線科が最初にPACSを導入したのは,新病院に新築移転した2004年。新病院に設置される放射線治療装置とともに採用され,Centricity PACSが構築された。当時のシステムは,予算の制約もあり,サーバ容量も0.5TBと少なく,保存後数か月で長期保存用のDVDに保存し直して,DVDチェンジャによる過去画像参照を行っていた。そのため,画像表示速度がサーバに保存した場合に比べて遅く,診療科の医師から苦情を受けるなど,運用面で十分な満足は得られていなかった。
そこで2007年に,64スライスCTと血管撮影装置導入のタイミングに合わせて,システムを更新することとし,清水文孝技師長をはじめ,診療放射線技師が中心となって,新システムを構築。モダリティの高性能化に伴い,今後ボリュームデータなどデータ量が増大していくこと,そして,血管撮影装置の動画データをネットワーク配信することなどを想定してサーバ容量を増やすなど,冗長化を図り,将来的にも安定稼働するPACSとした。このシステム更新により,DVDのデータもサーバに保存したことで,画像転送速度も高速化され,ストレスなく過去画像を参照できるようになった。
この新PACSが稼働した後,2009年秋に,GE社の担当者から,画像データの外部保存についてのヒアリングが行われた。その当時のことを清水技師長は次のように語る。
「GE社から外部保存について聞かれたときに,現在のPACSの問題点,課題について説明しました。モダリティの高度化によりデータ量が増大し続ける現状において,医療機関は数年ごとにサーバを増設したり,PACSを更新したりしなくてはなりません。さらに,サーバを増設することになれば,新たに設置場所を確保する必要があります。このように,恒久的にPACSを運用していくためには,イニシャルコストやランニングコストがかさみ,病院経営にも多大な影響を及ぼします。さらに,そのデータを管理していくスタッフにも大きな負担をかけることになります」
このような理由から,清水技師長は,外部保存によるデータ管理ができるようになれば,コスト削減と業務負担軽減が期待できると,クラウドについて前向きに考えていた。しかし,2009年当時はまだ,民間事業者による診療録の外部保存は認められていなかった。
その後,2010年2月に厚生労働省医政局長・保険局長通知「『診療録等の保存を行う場所について』の一部改正について」によって,民間事業者による外部保存が解禁となり,クラウドでの医用画像管理が可能となった。これを受けて,「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」をはじめとしたガイドラインに準拠した,電子カルテシステムなどのクラウドサービスが立ち上がり始めた。2011年3月には,GE社がソフトバンクテレコム社と共同で,同年9月からデータホスティングサービスを開始すると発表した。
そして,この発表後の2011年6月に,GE社から同院に対して,クラウドサービスについての提案があり,清水技師長と担当者の間で,システム構成や運用方法の説明が行われた。清水技師長は,提案内容からコストや業務負担など,前述のPACSの問題点を解決できると判断した。 「10年間にわたりクラウドサービスを利用した場合と,院内にデータ保存をした場合をシミュレーションし,コストを分析しましたが,クラウドの方が大幅にコストを低く抑えることができると判断しました。例えるなら,ある物品を保管するために,将来を見据えて大きな倉庫を購入するよりも,外部の倉庫会社に委託して利用している分だけ料金を払うのと同じで,クラウドサービスならば不要な投資をせずにすむと考えました」
そこで清水技師長は,放射線科スタッフにこの提案内容を伝え,さらに院内のIT委員会でもプレゼンを行い,コンセンサスを得た。その上で,最終的に幹部会議でもプレゼンして,「医知の蔵」を利用した医用画像データの管理を行うことが決定した。
深谷赤十字病院における医知の蔵の運用イメージ
■クラウドを意識せず負担の少ない導入準備作業
GE社が提供するクラウドコンピューティング型データホスティングサービスの「医知の蔵」は,2ティア型と呼ばれる仕様となっている。これは,検査後3〜5年のデータを医療機関内の短期ストレージ(STS)に保存し,一方でデータセンターの長期アーカイバー(LTS)でバックアップをして長期間保存する。この構成により,使用頻度の高い新しいデータは,医療機関内の短期ストレージから院内ネットワークを介して,速やかに表示することが可能となる。また,長期間保存するデータが外部にあることで,ハードウエアや設置スペースなどのイニシャルコストや電気代,人件費などのランニングコストを削減することができる。長期アーカイバーのデータは,遠隔地のセカンダリデータセンターでバックアップしているため,災害時においてもデータ消失のリスクがなく,早急にデータを復旧させ,診療に支障を来すことがない。
加えて,クラウドサービスには,信頼性の高いネットワークセキュリティが求められるが,「医知の蔵」では,GE社が提供するモダリティの保守専用回線「InSite®」も利用できるため,新規に回線を敷設することなく,安全なネットワーク環境で運用できる。なお,サービスは従量課金制で提供しており,ユーザーは余分な投資をすることなく,利用した分を支払うだけでよい。
「医知の蔵」の採用が決定した後,放射線科ではサービス利用に向けてのチームがつくられた。メンバーは,富田欣治技師をはじめ,笠井久幸造影検査係長,清水邦昭技師,小林茂幸技師の4名。富田技師らは,まず現在のPACSのシステム構成や運用状況についての情報を整理するとともに,「医知の蔵」の仕様策定,サービス利用開始までのスケジュール調整など,GE社と打ち合わせながら進めていった。
富田技師は,「『医知の蔵』の利用とともに,PACSと放射線科医読影ビューワの更新も行うことになり,そちらが私たちの中心的な作業となりました。クラウドということを特に意識せずに,大きな作業負担もなく,準備を進めることができました」と当時を振り返る。その移行準備では,院内での短期保存と外部での長期保存の切り分けと,データ移行のタイミング,データの圧縮形式,長期アーカイバーへのバックアップのスケジュールなどを検討した。加えて,実際に外部サーバに保存したデータを院内のビューワで展開する際の速度を計測するなど,運用に向けて細部をチェックし,仕様を固めた。このような準備のほかに,院内に保存していたデータをデータセンターの長期アーカイバーへ移行させるといった作業をGE社が行い,2011年9月30日から試験運用を開始した。
■データ管理の負担を軽減し災害に備えた運用も可能に
同院が構築したCentricity PACSと医知の蔵のシステムでは,院内の短期ストレージを1年間で3〜4TB使用すると想定し,8TB(実効容量24TB)のデータ容量とした。この短期ストレージには,すべてのモダリティの検査データが保存される。圧縮形式はlosslessで,圧縮率は約1/3となっている。検査データは,すぐに長期アーカイバーには送信されず,72時間以降の深夜に短期ストレージから自動送信するように設定している。これについて,富田技師は,「当院の場合,土日,祝日を挟んでも修正できるように72時間という設定にしました。このサイクルは,施設ごと自由に設定できます」と,説明している。そして,長期アーカイバーに送信されたデータは,セカンダリデータセンターにもバックアップされる。
放射線科医や診療科の医師は,読影ビューワのCentricity RA1000やHIS端末から,画像の読影,参照をすることになるが,長期アーカイバーの過去画像を参照する際に,読み込みの確認メッセージが表示される以外,院内にデータがあるのと何ら変わりなく,画像を表示することができる。同院は光ファイバー回線を使用しているが,長期アーカイバーからのデータの表示について,「医知の蔵」導入前の検証では,実効速度として20Mbps(平均)の環境において300枚のCT画像の表示速度が約30秒であった。
また,外部データセンターのデータ蓄積量や,病院からデータセンターへ転送した画像の履歴などの長期アーカイバーの運用状況は,パスワードとトークンによる強固なセキュリティ対策をとった管理者専用PCから「医知の蔵」のポータルサイトにアクセスして,確認することができる。 同院では,このような仕様で「医知の蔵」の試験運用を行ってきたが,その安全性,信頼性が確認できたことから,2012年3月30日から本格運用を開始した。GE社では,これに合わせて,他社製PACSも「医知の蔵」に対応できるようにして,より多くの施設が利用しやすいようにサービスを拡充している。
試験運用から1年,本格運用から半年が過ぎた現在,Centricity PACSと医知の蔵ともに安定して利用できており,トラブルなどは発生していない。その一方で,「医知の蔵」採用のメリットも表れ始めている。富田技師は,「以前はデータのバックアップなどの日常的な運用管理や,データ欠損への不安がありましたが,『医知の蔵』によって,ストレージの空き容量を気にする必要がなく,メンテナンスや管理業務の負担が大幅に削減されました。データだけでなく,それに伴う管理業務もGE社に移行し,その分ほかの業務に専念できるようになっています」と述べている。また,清水技師長は,事業継続計画(BCP)の観点から,「医知の蔵」のメリットを挙げている。
「病院にとって重要なデータが,外部のデータセンターに二重でバックアップされているのは,非常に心強いことです。災害時でも速やかにデータにアクセスすることで,被災した患者の診断,治療に役立てることができます」
埼玉県北部保険医療圏の地域中核病院の役割を担う同院にとって,「医知の蔵」で災害時にも診療を止めない環境を構築できたことは,大きな意義があるだろう。
■「医知の蔵」を活用して地域中核病院の使命を果たす
順調に運用している「医知の蔵」であるが,清水技師長は費用対効果の評価を行う予定でいる。導入前の試算では,10年間院内でデータ保存した場合と比較して,大幅に運用コストを削減できるという結果が出た。そこで,これから保守費用なども含めて,TCOの削減効果について,より詳細な分析をしていく。
その上で,今後の展開として,「医知の蔵」の長期アーカイバーは,画像の種別や患者年齢などに応じて,データ保存期間を設定して,対象データを期間経過後に自動的に再圧縮や削除するルール設定機能も有しており,無駄のない運用が可能なので,このような機能を活用し,さらなる高効率,低コスト化を図りつつ,地域中核病院の使命を果たすための,安全な医用画像管理に取り組んでいく。
(インナービジョン誌 2012年11月号掲載)