ホームinNavi SuiteGEヘルスケア・ジャパンAdvanced Report 日本超音波医学会第85回学術集会 ランチョンセミナー13 新しいVolume Navigationによる肝癌治療支援 〜Virtu TRAXと手術支援〜 昭和大学消化器・一般外科准教授 青木 武士
healthymagination series 2012
Advanced Report No.6
日本超音波医学会第85回学術集会 ランチョンセミナー13
新しいVolume Navigationによる肝癌治療支援
〜Virtu TRAXと手術支援〜
日本超音波医学会第85回学術集会は,2012年5月25日(金)〜27日(日)の3日間,グランドプリンスホテル新高輪で開催された。27日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョンセミナー13では,森安史典氏(東京医科大学)を座長に「新しいVolume Navigationによる肝癌治療支援」をテーマとして,東京医科大学消化器内科准教授の今井康晴氏と昭和大学消化器・一般外科准教授の青木武士氏が講演を行った。
肝切除における手術支援は,基本的なナビゲーションとして術中超音波が用いられているが,2007年には「肝切除手術における画像支援ナビゲーション」が先進医療として認可された。また,従来は開腹手術にて行われてきた術式も,2010年に保険収載となった腹腔鏡下手術が標準術式として普及し,当科においても症例の約半数が腹腔・胸腔鏡下手術(以下,鏡視下手術)となっている。鏡視下手術は,開腹手術に比べ低侵襲であるが,視野の制限や器具の運動制限,臓器内部や周辺の解剖の同定が煩雑になることから,開腹手術と同等の手術を施行するためには,鏡視下手術に特化したモダリティの応用や,技術の向上が不可欠である。
そこで本講演では,肝がん治療におけるナビゲーションを駆使した外科手術支援について報告する。
■鏡視下手術のナビゲーション
鏡視下手術の欠点を補うための理想的なナビゲーションとは,カーナビゲーションのように,CT,MRI,USによる術前画像の“地図”上に,治療対象臓器の内部情報や治療器具といった“対象物”を標識して追跡するものである。このようなシステムにより,(1) 主要な脈管,腫瘍の位置診断,(2) 切除の完成図の想定,(3) 手術に必要なランドマークの確認,(4) 適切なポート位置の決定や術中ナビゲーション,(5) 研修,教育的補助などが可能になると考えられ,ひいては手術における出血量の減少,手術時間の短縮,術中・術後合併症の防止につながるものと考える。
当科では,3D画像解析ワークステーション「SYNAPSE VINCENT」(富士フイルム社製)を用いて,3Dシミュレーション画像を作成し,仮想肝切除,残肝容積計算,うっ血領域の容積計算,仮想内視鏡(VE)を行っている。
腹腔鏡の視点に立ったVEにより,手術の手順を想定した局所解剖画像情報を得ることができ,任意の角度での観察が可能なため,実際の術野と比較しながら,手術を安全に進めることが可能である。
肝臓奥に存在する肝腫瘍性病変に対して,当科では,腫瘍を直視でき,肝の脱転操作を必要としない胸腔鏡下のアプローチを選択しているが,肋間からポートを挿入して鉗子操作を行うため,鉗子間の操作が制限される。そこで,ポート間の干渉作用を最小限に抑え,腫瘍への最適なルートを選択するために,VEを用いてポートチューニングを行っている。
■術中超音波との融合手術
このように,鏡視下手術にVEを導入するメリットは大きいが,VEのデータを取得するモダリティには限界があり,造影剤の満たされた血管内腔のみが描出されるため,VEは実際の術野とはイコールではない。そのため,術前に詳細に検討したシミュレーションを,術中にいかに正確に再現するかが重要となる。
そこで,リアルタイム術中画像診断として,術中超音波(IOUS)との融合手術を検討している。術中超音波は,低侵襲性や高分解能,簡便性,経済性といった利点があるが,術者間の診断能や操作技術の差があり,客観性や再現性に乏しいことが懸念される。しかしこの欠点は,定量的なボリュームデータの取得により克服可能と考える。
定量的なボリュームデータを取得可能な,磁気センサー搭載の超音波診断装置「LOGIQ E9」(GE社製)を用いて検討した。同装置は,他のモダリティ画像をモニタ上に同時に表示,参照することができるVolume Navigation(V-Nav)機能を搭載しており,臓器内部情報を把握し,リアルタイムなナビゲーションが可能となる(図1)。
図1 術中Volume Navigation
腹腔鏡下手術では,術直前に施行した超音波画像をボリュームデータとして保存し,術中はVirtu TRAX(詳細は,今井康晴氏の講演参照)を利用してランドマークの確認を支援する。Virtu TRAXにより,穿刺針の針先が超音波断層面以外にあっても,その位置を確認することができるため,任意の角度で穿刺して術中ナビゲーションに活用している。当科では,地図となる術前の腹腔鏡下視野を模した近接画像と,対象物を追跡する磁場発生装置搭載の超音波装置の画像を融合させ,手術専用モニタに表示している。
■V-Navの手術応用の検証
V-Navが手術で応用可能かを検証するため,preliminary studyを行った。図2 aは,術前MRIで同定された病変であるが,術前術中超音波では同定困難であった。造影超音波を施行しても同定は困難であったが,他のモダリティ画像と術中超音波を同期させることで腫瘍位置が把握可能であったことから,微小病変をとらえる有用なツールであると考える。
また,解剖学的ランドマークの確認においても,肝内のランドマークである肝前区域枝の同定の際に,needle in plane像を参照することで,肝臓の離断方向をナビゲートすることもできると考える(図2 b)。また,担癌門脈枝への染色においても,客観性を保った有用なツールであると確認できた(図2 c)。
図2 Volume Navigationの有用性の検証
a:微小病変のtargeting b:Landmarkの確認 c:担癌門脈枝への染色
図3は多発肝転移症例で,後区域切除,外側域切除,および前区域にある腫瘍に対してアブレーションを行う計画を立てた。アブレーションに際しても,needle in plane像を得られるため,脈管損傷を最小限に抑えることができる。
図3 肝切除とアブレーションを施行する多発性肝転移症例
■V-Navとの融合手術
腹腔・胸腔鏡の視点に立ったVEと,術中対象物位置情報の確認や過去画像とのリファレンスが可能なV-Navとの融合手術を,鏡視下手術に導入した。
腫瘍がS8ドーム直下にある症例において,胸腔鏡下手術を選択した。V-Navを用いて,腫瘍のマージン確保,栄養血管や静脈などのランドマークの確認,横隔膜へのタトゥニングを行った(図4)。横隔膜上にタトゥニングした部分を目印に横隔膜を切開し,腫瘍周囲のマージンを確保しながらプレコアグレーションを行い,肝臓を離断して腫瘍を切除する。術直前のタトゥニングを確認できるため,腫瘍のマージンを確認しながら完全に切除することができる。
図4 S8ドーム直下腫瘍の症例(Volume Navigation)
■Virtu TRAXを用いた術中ナビゲーション
Virtu TRAXは穿刺・治療器具の根元にポジションセンサーを装着することで,器具の先端の位置情報を取得することができる。ランドマークを示しておくことで,needle in plane像で,手術器具から肝臓内部のランドマークまでの離断面を画像情報として示すことができ,切離面の同定,正しい離断方向のナビゲートに有用であると考える(図5)。
図5 Virtu TRAXを用いた術中ナビゲーションの実際
これまで当科では,19例の肝腫瘍病変に対してV-Navを用いた肝切除を行った。そのうち,8例中7例(88%)において,小さい病変に対してもdeterminationが非常に有効であり,また,ランドマークの同定においてもきわめて有効であった。さらに,needle in plane像は肝臓の離断方向を示す有用な画像であり,今後は外科手術への応用が増加するものと思われる(図6)。
図6 Needle in Planeの応用
VEとV-Navの融合手術は,術中ランドマークの特定に有用であると言える。また,V-Navは他の画像情報の相互補完により,術中超音波の再現性を高めることが可能になると考えられる。さらに,Virtu TRAXといったツールを用いることで,切除のランドマークとなる門脈や静脈を確認し,離断方向をナビゲートする補助となりうる。
一方で,手術器具の磁場への影響があることや,誤差を最小限にするために位置合わせを工夫する必要があること,体位による臓器変形も考慮しなければならないといった課題もある。また,術前シミュレーションへの投影技術の確立が期待される。
いずれにしても,単一のモダリティでは情報が足りない部分を,他のモダリティとの融合により補うことができ,安全性の担保された手術が遂行できるものと考える。ナビゲーションシステムの肝切除への導入は,今後,機能の簡略性と簡便な操作性を確立することで,より安全かつ低侵襲で,高度な手術を実現できるだろう。
(インナービジョン誌 2012年7月号掲載)