ホームinNavi SuiteGEヘルスケア・ジャパンAdvanced Report MR Elastography and IDEAL IQ─New MR evaluation tools for diffuse liver disease
healthymagination series 2011
Advanced Report No.5
第39回日本磁気共鳴医学会大会 イブニングセミナーES1
MR Elastography and IDEAL IQ
─New MR evaluation tools for diffuse liver disease
Jeong Min Lee, M.D.
Associate Professor, Department of Radiology,
Seoul National University College of Medicine,
Seoul National University Hospital
Associate Professor, Department of Radiology, Seoul National University College of Medicine, Seoul National University Hospital |
第39回日本磁気共鳴医学会大会が9月29日(木)〜10月1日(土)の3日間,リーガロイヤルホテル小倉(北九州市)にて開催された。29日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のイブニングセミナーES1では,Seoul National University College of Medicine, Seoul National University HospitalのJeong Min Lee氏と山梨大学医学部放射線科の本杉宇太郎氏が,「肝MRエラストグラフィ」をテーマに講演した。
びまん性肝疾患の評価には,肝線維化と脂肪肝の評価が重要である。肝線維症は肝細胞がん(HCC)および門脈圧亢進症の原因となり,また,脂肪性肝炎や慢性C型肝炎は肝線維症や肝硬変に進行する可能性があるが,肝線維症を早期発見し適切な治療を行えば,線維化の改善は可能である。一方,肝線維症の評価においては,線維化の定量化が重要である。これは,進行性線維症の評価が肝硬変への進行やHCC発症の予後予測因子となるほか,治療の効果予測や新薬の治療効果のモニタリングなどにも有用と考えられるからである。
本講演では,はじめにMRエラストグラフィ(日本国内薬事未承認)を用いた肝線維症の評価,続いてGE社製MR装置の新しい脂肪抑制技術であるIDEAL IQ(日本国内薬事未承認)を用いた肝脂肪の定量化について述べる。
■最新の肝線維化診断手法MRエラストグラフィ
現在,肝線維化診断のゴールドスタンダードは肝生検である。しかし,肝生検は侵襲的であり,死亡率が1万分の1であることや,繰り返し施行できない,などの問題がある。最近では,いくつかの非侵襲的な放射線学的手法が肝線維症の評価で使用できるようになってきているが,ここではMRエラストグラフィについて述べる。
●MRエラストグラフィの原理
エラストグラフィとは,軟部組織の硬さを評価するためのイメージング手法である。軟部組織の弾性特性に関する物理学的な説明は割愛するが,MRエラストグラフィでは,せん断波の波長を測定することで,せん断剛性を計算することができる。
図1は,MRエラストグラフィのシステム構成である。MR検査室外に設置した振動の発生装置を使用してせん断波を発生させ,プラスチックのシリンダーを使用して円盤状のパッシブドライバーへと伝播させる。さらに,せん断波を患者に誘導し,肝臓内を通過する際の波長を測定してエラストグラムに転換する。硬い組織ではせん断波の伝播が速いため,波長がより大きくなる。
●MRエラストグラフィの診断能
MRエラストグラフィの診断能に関するメイヨークリニックの研究では,健常グループにおいては弾性率が3.0kPaを下回っており,線維化ステージF1とF2の値は一部重なっているものの,F3,F4との区別は容易であると報告されている。当院におけるB型肝炎患者に関する検討1)でも非常によく似た結果が得られ,3.0kPaをカットオフ値とした場合はF2,3.6kPaの場合はF3であり,感度,特異度は約90%だった。
図2は糖原病症例で,MR画像上にて肝臓の腫大が認められる。MRエラストグラフィでは,波長の幅が広く,弾性率は4.3kPaと重度の線維症であった。
●MRエラストグラフィの再現性
MRエラストグラフィを治療効果判定に使用するために,当院ではMRエラストグラフィを2回施行して短期的な再現性を検証した。その結果,弾性率が高くなると結論づけている。
図3は慢性C型肝炎で,非代償性肝硬変のため肝移植を受けた症例である。インターフェロン治療後のフォローアップMRエラストグラフィでは,弾性率は正常値であったが,移植後に肝機能検査での異常とウイルス力価の増加を呈し,弾性率は3.7kPaであった。
●MRエラストグラフィによる脂肪肝の評価
MRエラストグラフィは,非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の評価にも有用である。メイヨークリニックの研究グループが非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者のMRエラストグラフィ結果を遡及的にレビューしたところ,線維化のない脂肪性肝炎のみの患者の一部では,単純性脂肪肝の患者と比較して弾性率が高値となることを発見し1),NASHの早期段階において,線維症の発症前でも弾性率が著しく高くなると結論づけている。
●MRエラストグラフィのまとめ
MRエラストグラフィは著しい線維化の発見に有用であり,抗ウイルス治療や抗線維化治療後の経時的評価手法として使用できる可能性がある。脂肪定量化とMRエラストグラフィによる弾性率の測定を組み合わせれば,NASHと単純性脂肪肝との鑑別も可能である。また,薬事承認前の新薬の治療効果を評価するための手法としても使用できる。さらに,弾性率が高値の肝臓がHCCに至る頻度は,その逆よりも高いことを示す研究結果がいくつも報告されており,肝臓の弾性率からHCCの予後に関するなんらかの情報が得られると考えられる。
■肝脂肪の定量化手法
肝脂肪は,C型肝炎の予後や抗ウイルス治療薬への治療効果に影響を及ぼすため,注意が必要である。また,肝脂肪は肝切除術や移植術後の肝不全の原因となるが,NAFLDにおける組織学的マーカーでもある。NAFLDは肝硬変から肝がんに進展する可能性があるため,ステージに応じて異なる治療手法を用いる必要があり,脂肪肝のステージングがきわめて重要となる。
肝脂肪定量化のゴールドスタンダードはやはり生検だが,生検には肝線維症と同様の問題があるため,われわれは超音波,CT,MRIを使用してきた。なかでもMRIは,定性的,定量的測定が可能なほか,MRIとMRSという2種類のアプローチが可能なため,いくつかの研究では,超音波やCTよりもはるかに優れていることが報告されている。このため,生体肝ドナーにおける脂肪含有量に関する評価では,MRIが最も推奨される手法と言える。
■IDEAL IQを用いた肝脂肪の定量化
●IDEAL IQの原理
IDEAL IQは,complexベースの化学シフト手法である。従来の化学シフトイメージングはmagnitudeベースで,最大50%まで脂肪含有量の計算が可能であるが,T1,T2*,脂肪肝の干渉,ノイズバイアスなど複数の交絡因子が原因で不正確になることがある。一方,complexベースの化学シフト手法では,位相情報も使用するため,理論的にはマルチピーク脂肪スペクトルモデリングを伴うT1非依存,T2*補正ずみの化学シフトイメージングと称されるべきもので,マルチエコー3D spoiled GRE撮像手法に組み込まれている。
図4は,IDEAL IQの典型的な例である。このように8種類の画像が生成されるが,使用するのはT2*値測定用の画像セットと脂肪成分測定用の画像セットの2種類である。
●IDEAL IQによる脂肪含有量の測定
生体肝ドナー候補者の評価にIDEAL IQを使用し,その結果と脂肪肝の病理学的評価との相関を調べたところ,非常に良好な結果が得られた。IDEAL IQを用いた脂肪含有量の測定結果は,生体肝移植後における重要な予後予測因子である大滴性脂肪肝の比率と良好に相関していることがわかった。また,測定された脂肪含有量と脂肪肝の病理学的評価との平均差はわずか1.4%で,脂肪含有量の評価には非常に正確な手法と言える。つまり,IDEAL IQで正常な値が出た場合は,その患者に生検を受けさせる必要はないと言える。
IDEAL IQを開発したWisconsin University HospitalのReederらのグループは,IDEAL IQでの脂肪含有量とMRSにより測定された脂肪含有量との間に良好な相関があることを報告している2)。
●IDEAL IQのまとめ
IDEAL IQは,脂肪含有量の測定が可能で迅速なことに加え,息止めも1回ですみ,交絡因子にも適切に対処でき,MRSと同様に正確であることから,すでに臨床導入も可能な段階に達していると考えられる。また,IDEAL IQとMRSを組み合わせて使用することで,特に体格の大きい患者や糖尿病患者のびまん性肝疾患において,重要かつ他では得られない情報が得られると考えられる。
*図1〜4は,会場で撮影したスライド写真を使用。
●参考文献 | |
1) | Chen, J.,Talwalkar, J. A., Yin, M., et al.:Early detection of nonalcoholic steatohepatitis in patients with nonalcoholic fatty liver disease by using MR elastography. Radiology, 259・3, 749〜756, 2011. |
2) | Meisamy, S., Hines, C. D. G., Hamilton, G., et al. : Quantification of hepatic steatosis with T1-independent, T2*-corrected MR imaging with spectral modeling of fat: blinded comparison with MR spectroscopy. Radiology, 258, 767〜775, 2011. |