第18回 日本乳癌学会学術総会ランチョンセミナー7

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第18回日本乳癌学会学術総会が6月24日(木),25日(金)の2日間,ロイトン札幌,さっぽろ芸術文化の館を会場に開催された。24日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョンセミナー7では,GE Healthcare Global Mammography Product ManagerのMatthew Suminski氏と三河乳がんクリニック院長の水谷三浩氏が,「造影マンモグラフィが乳癌画像診断にもたらすブレイクスルー」をテーマに,造影マンモグラフィの新技術について講演した。

乳がんの臨床から造影マンモグラフィによせる期待

水谷 三浩
三河乳がんクリニック院長

  水谷 三浩 三河乳がんクリニック院長
水谷 三浩
三河乳がんクリニック院長
1989年三重大学医学部卒業,同大学救急部・集中治療室・麻酔科にて研修。91年同大学第二外科入局。94年ブレストピアなんば病院に着任。同院乳腺画像診断部長,愛知県がんセンター乳腺外科医長,愛知県がんセンター愛知病院乳腺科部長などを経て,2009年より現職。

X線マンモグラフィは,spiculaを伴う腫瘤,微細石灰化,構築の乱れの検出においては非常に有用性が高い反面,dense breastの評価には課題がある。また,カテゴリー3の微細石灰化や構築の乱れ,局所的非対称性陰影の鑑別診断,乳がんの広がり診断なども同様である。こうした課題を解決するためには,ブレイクスルーとなる新技術の導入が必要と考えられた。
GE社が新たに開発したContrast Enhanced Spectral Mammography(CESM,2010年6月現在薬事未承認)は,造影剤注入後に通常のマンモグラフィ撮影と同じ方法で1回に2曝射行い,得られた2つの画像をエネルギーサブトラクションして病変を抽出する技術である。CESMはヨード造影剤を使用し,被ばく線量は通常撮影の1.2倍となるが,造影剤によって新生血管の情報が得られるため,マンモグラフィ診断に新たな展開をもたらすものであると考えている。そこで,本講演では,CESMへの期待と可能性について,臨床的な観点から述べる。


s CESMへの期待

前述のとおり,X線マンモグラフィにはさまざまな課題があるが,それらの解決にCESMが有用であると期待している。特に,精査を要する病変における吸引式乳房組織生検(vacuum-assisted biopsy:VAB)の必要性の判断や,乳房温存手術の適応の検討における広がり診断のより適切な評価,術前化学療法の効果判定のためのモニタリングに,CESMが有用性を発揮するのではないかと考えている。

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s 症例提示

ここで,CESMの有用性を示すいくつかの症例を提示する。CESMについては現在,フランスのがん研究所(Institute Gustave-Roussy:IGR)で臨床研究が行われており,以下の症例は,すべてIGRのご厚意によって提供されたものである。

1.dense breastにおける評価

症例1は,53歳,女性。触診にて4cmの固い腫瘤が認められた。通常のマンモグラフィでは,dense breastのため病変は描出されなかった(図1 b,c)。超音波では,悪性を疑うような不整形の腫瘤が認められ,その周辺に2つの小さな病変が認められた(図2)。針生検の結果,3つの病変はいずれも浸潤性乳管癌と診断されたが,従来のマンモグラフィではdense breastの診断は困難であることが改めて確認された。
一方,同症例に対してCESMを施行したところ,最も大きな腫瘤はもちろん,2つの微小結節も明瞭に描出され(図1 a,d),存在診断が可能だった。

図1 症例1:dense breastにおける評価(浸潤性乳管癌)
図1 症例1:dense breastにおける評価(浸潤性乳管癌)
a,d:CESM画像  b,c:マンモグラフィ画像
(画像ご提供:フランス・IGRのご厚意による)
図2 症例1の超音波画像
図2 症例1の超音波画像
(画像ご提供:フランス・IGRのご厚意による)

2.構築の乱れが認められた症例

症例2は,58歳,女性。触診では病変は認められなかったが,通常のマンモグラフィでは構築の乱れが見られた (図3 b,c)。こうした症例については,精査を目的としたVABまたは手術の必要性を検討するために,MRIやCTなどの検査を追加することが多い。CESMを施行したところ,それと近似した画像が得られた(図3 a,d)。このような濃染像が認められる場合,がんの可能性は非常に高いと思われ,やはりVABなどが必要と判断される。病理診断では,本症例は浸潤性乳管癌であった。
CESMが可能となることで,MRIやCTによる再検査の手間もなく,すぐにその場でCESMからVABといった,さらなる精査が追加できることは,患者さんにとって非常に大きなメリットであると思われる。

図3 症例2:構築の乱れが認められた症例(浸潤性乳管癌)
図3 症例2:構築の乱れが認められた症例(浸潤性乳管癌)
a,d:CESM画像  b,c:マンモグラフィ画像
(画像ご提供:フランス・IGRのご厚意による)

3.広がり診断を行った症例

症例3は,50歳,女性。通常のマンモグラフィにて,局所的非対称性陰影が認められた(図4 a,d)。そこで,CESMを施行したところ,3つの腫瘤性の結節陰影が明瞭に描出された(図4 b,c)。
通常のマンモグラフィ画像では,広範な局所的非対称性陰影の存在のため (図4 a,d),乳房温存療法は困難と判断されかねないが,CESM(図4 b,c)では十分に温存可能なように思われ,判断に大きく影響する。その後,撮像が行われたMRIでもCESMと同様の所見が得られたことから(図4 e),CESMはMRIにほぼ匹敵する高精度な広がり診断の情報が提供できると考えられた。

図4 症例3:広がり診断を行った症例(浸潤性乳管癌)
図4 症例3:広がり診断を行った症例(浸潤性乳管癌)
a,d:マンモグラフィ画像  b,c:CESM画像  e:MRI画像
(画像ご提供:フランス・IGRのご厚意による)

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s まとめ

本日供覧した症例は,すべてポジティブデータであり,CESMが臨床的にどの程度有用かを検証するためには,今後より多くの症例を蓄積していく必要があると思われる。しかし,CESMは国際的な臨床研究において,すでに多くの有用性が確認されており,存在診断はもとより,鑑別診断や広がり診断などを含む乳房画像診断に大きな福音をもたらす技術であると期待している。
一方,今後の課題として,(1) 造影パターンの分類と重み付け,(2) 月経周期が画像に及ぼす影響の評価,(3) 偽陰性を呈した悪性例や,偽陽性を呈した良性例の解析,などが挙げられ,これらの本質をきちんと検討していく必要があると思われる。国内では当院にてCESMの臨床研究を予定しているが,この新技術を,臨床できちんと評価し,育てていきたいと考えている。


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