第69回 日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー18

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第69回日本医学放射線学会総会(JRC 2010)が4月8日(木)〜11日(日)の4日間,パシフィコ横浜において開催された。
10日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョンセミナー18「肺がん診断の新たな展開〜フラットパネルディテクターが切り拓く〜」では,一般撮影装置「Definium 8000」に搭載されているアドバンスドアプリケーション“デジタルトモシンセシス”と“デュアルエナジーサブトラクション”の有用性について,Department of Radiology, Samsung Medical Center,Sungkyunkwan UniversityのChung MyungJin氏と財団法人芙蓉協会聖隷沼津病院/聖隷沼津健康診断センター放射線課の田沢範康氏が講演した。

Digital Tomosynthesis Imaging

Chung MyungJin
Department of Radiology, Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University

  Chung MyungJin, M.D., Ph.D.
Chung MyungJin, M.D., Ph.D.
Associate Professor, Department of Radiology, Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University
1992年Seoul National University Hospital,College of Medicine卒業。Seoul National University Hospital,Korean National Tuberculosis Association, Seoul National University Hospital,Eulji University,School of Medicineなどを経て,2007年〜現職。

X線による人体の断層撮影法であるトモグラフィは,CTが開発される以前は人体内部の断層像を得られる唯一の方法だった。1980年代以降,CTの普及が進むにつれて一度は姿を消すが,最近になって再び脚光を浴びようとしている。それが,FPDによるデジタルトモシンセシス(Digital Tomosynthesis:DT)である。本講演では,デジタルトモシンセシスの有用性について述べる。


s デジタルトモシンセシスの原理─CTとの比較

デジタルトモシンセシスは,X線管を動かしながら異なる角度でX線を照射し,得られた一連の投影像を走査方向に少しずつずらしながら重ね合わせていくなどの方法で,断層像を作成する技術である。画像の再構成を調整することにより,任意の断層像を作ることができる。GE社の一般撮影装置「Definium 8000」に搭載された“ボリュームラド”では,最大60枚の画像から断層像を再構成しており,胸部,腹部,整形外科領域,泌尿器領域などに幅広く応用可能である。
デジタルトモシンセシスとCTの違いは,画像再構成に必要なスライス数がCTでは数千枚に及ぶことがあるのに対し,デジタルトモシンセシスは数十枚であり,また,CTではX線管が360°回転しながらデータ収集を行うが,デジタルトモシンセシスでは40°という制限がある点である。そのため,デジタルトモシンセシスではCTほどの描出能は得られないと思われる点もあるが,実際の画像でその違いを比較してみた。
症例1は,57歳,男性。大腸がん術後のフォローアップで,デジタルトモシンセシスにより右上肺に明瞭な円形の結節が指摘された。また,肺尖部にも,単純X線写真では描出されない小さな結節が認められたため,CTコロナル像と比較したところ,デジタルトモシンセシスの方が結節内の空洞がはっきりと確認できた(図1)。これは,転移を示唆する重要な所見である。
デジタルトモシンセシスの空間分解能は単純X線写真と同等であり,CTは約25万画素であるのに対し,ボリュームラドでは約400万画素と,理論的にはCTの16倍にもなる。このため,デジタルトモシンセシスでは,病変の小さな性状がより詳細に描出できる。

図1 症例1:大腸がん肺転移(57歳,男性)
図1 症例1:大腸がん肺転移(57歳,男性)

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s 胸部疾患におけるデジタルトモシンセシスの有用性の検討

1.肺がんにおける有用性
デジタルトモシンセシスの有用性を検討するために,大腸がん肺転移症例146名の232病変(結節:225,すりガラス状陰影:7)を対象に検討を行った。その結果,転移性結節,良性結節ともに,CTを基準として80%以上の検出率であった。また,悪性の転移性結節だけを抽出した71症例での評価を行ったところ,やはり80%以上の感度が得られた。

2.肺結核における有用性
症例2は,49歳,女性。デジタルトモシンセシスにて右上肺に典型的な結核陰影が認められ,その間にも薄い壁を持つ大きな空洞が認められた。CTと比較すると,複雑な病巣の構造がデジタルトモシンセシスでより明瞭に描出できていることがわかる(図2)。
そこで,われわれは,肺結核に対するデジタルトモシンセシスの有用性を検討するために,米国Fleischner Society glossaryに則り,65名の肺結核患者を対象として,単純X線写真,デジタルトモシンセシス,CTにて,細気管支炎または小葉中心性陰影,結節,肺硬化,空洞,気管支拡張症,無気肺という6つの特徴的な所見について検討を行った。その結果,CTを基準とすると,単純X線写真では細気管支炎が0.23,空洞が0.47という低い一致率であるのに対し,デジタルトモシンセシスではすべての項目で0.8以上と非常に高かった。また,肺結核の活動性を判断する上で最も重要な空洞のみ100病変を対象に再度検討を行ったところ,検出率は単純X線写真の28%に対して,デジタルトモシンセシスでは85%と高く,患者単位で見ても,デジタルトモシンセシスは感度94%,特異度93%ときわめて高かった。つまり,総合的に判断すると,肺結核の診断にはCTよりもデジタルトモシンセシスの方が有効と考えられる。

図2 症例2:肺結核(49歳,女性)
図2 症例2:肺結核(49歳,女性)

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s 被ばく線量の検討

X線撮影においては被ばく線量が問題となるため,当院のDefinium 8000を用いてデジタルトモシンセシスの線量を調べてみた。単純X線写真は0.02mSv,2方向撮影では0.07mSv,デジタルトモシンセシスは0.13mSvで,単純X線写真の約7倍,2方向撮影の約2倍であった。低線量CTが0.9mSv,ルーチンの胸部CTが9mSvで,それぞれ単純X線写真の約50倍と約500倍であることを考えると,それほど多い値とは言えない。
また,さらなる被ばく低減を図るために,パラメータを調整して0.05mSvの低線量デジタルトモシンセシスの条件設定を行った。標準線量と低線量の画像を比較してみたところ,低線量では微小結節がやや見えづらいものの,診断には十分な画質であると思われた(図3)。また,統計的にも比較してみたが,4mm以上の結節については,どちらも感度90%以上とほとんど変わらなかった。結節の中心部については,低線量の方がやや感度が劣るが,若年層や繰り返しの検査が必要な患者さんに対して,単純X線写真と同じように使用できるため,メリットが大きい。

図3 標準線量と低線量によるデジタルトモシンセシス画像の比較
図3 標準線量と低線量によるデジタルトモシンセシス画像の比較

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s まとめ

デジタルトモシンセシスには,体動の影響を受けやすい,CTよりも空間分解能は高いがコントラスト分解能が低いため,すりガラス状陰影はほとんど描出できない,といった課題がある。その特性をきちんと理解して使用すれば,胸部放射線診断において,きわめて有効であると思われる。

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