第19回日本乳癌検診学会総会ランチョンセミナー

healthymagination series

デジタルマンモグラフィから広がる乳がん診療の可能性

第19回日本乳癌検診学会総会が2009年11月5日(木),6日(金)の2日間,「乳がん検診の新たなる展望−日本人乳癌 の疫学的検討」をテーマに京王プラザホテル札幌にて開催された。6日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョン セミナー6では,特別医療法人博愛会 相良病院・さがらクリニック21・さがらパース通りクリニック副理事長/乳腺科・放射線科の相良吉昭氏が,「デジタルマンモグラフィから広がる乳がん診療の可能性」と題して,デジタルマンモグラフィが乳がん診療にもたらす有用性や可能性,導入のポイントなどについて,同院での経験を踏まえて講演した。

相良 吉昭
特別医療法人博愛会 相良 病院・さがらクリニック21・さがらパース通りクリニック副理事長/
乳腺外科・放射線科

  相良 吉昭
相良 吉昭
特別医療法人博愛会 相良 病院
さがらクリニック21
さがらパース通りクリニック
副理事長/乳腺外科・放射線科
1997年川崎医科大学を卒業し,相良病院に入職。98年鹿児島大学医学部放射線科入局。2001年から相良病院乳腺外科・放射線科。2009年より現職。

特別医療法人博愛会では,“女性のための専門病院”をコンセプトに,2003年からデジタルマンモグラフィ(full-field digital mammography:FFDM)を中心としたシステム構築を行い,乳がんに特化した診療を行っている。デジタルマンモグラフィを活用することで,乳がん診療にはさまざまな可能性がもたらされ, 夢が大きく広がってくる。本講演では,デジタルマンモグラフィの有用性と可能性について,業務改善や採算性の向上なども含めて,われわれの施設を例に挙げながら紹介する。


s 乳がん専門病院への歩み

 博愛会では,相良病院と2つのクリニックの3施設で乳がん診療を行っている。病床数は,相良病院が81床(乳腺60床,緩和ケア21床),クリニックが放射線治療専門病床18床を有し,1日の外来患者数は約300名,2009年の乳がん手術数は565件であった。
  当院の最大の特長は,手術や化学療法,緩和ケアなどを病院が担い,画像診断と放射線治療,経過観察などは2つのクリニックで行うなど,局面の異なる患者同士が顔を合わさずにすむよう配慮している点である(図1)。また当院は,乳がんについて鹿児島県のがん診療指定病院に指定されており,2008年には県内の乳がん手術の78%を当院で行ったほか11月9日からは,離島にて本格的に僻地診療を開始する予定である(その後,予定通り実施)。検診事業についても,施設検診,バス検診,遠隔読影のすべてを行っており,2010年度からは航空会社や旅行会社と提携し,国内はもとより,上海からの乳がん検診ツアーを開始する予定である。
  こうした乳がん専門病院への歩みを,当院では2003年から段階的に進めてきた。まず,女性専門の外来クリニックの開設と同時に,GE社製のデジタルマンモグラフィ「Senograph 2000D」を搭載した検診バスを導入したほか,2006年には施設検診にもSenograph 2000Dを導入した。また,2007年には画像診断センターと放射線治療センターを開設し,同時に遠隔読影システムの運用を開始。2008年にはマンモトーム生検装置を導入し,外来マンモグラフィがモニタ診断へと移行している。このように,当院のシステム構築は,デジタルマンモグラフィを中心に行ったと言っても過言ではない。

図1 相良病院を中心とした診療の流れ
図1 相良病院を中心とした診療の流れ

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s デジタルマンモグラフィに求めるもの

 デジタルマンモグラフィの導入にあたり,われわれは特に,精度,業務改善,スピード,拡張性,採算性,遠隔読影の6つにこだわっ て装置を選定した。

1.精度
 デジタルマンモグラフィの精度は,欧米で行われた多施設共同研究“Oslo U study”と“DMIST”によって,アナログマンモグラフィと同等か,それ以上の 有効性を発揮することが示された。また 日本でも,日本医学放射線学会および 日本放射線科専門医会・医会による2007年版の『乳房の画像診断ガイドライン』にて,乳がん検診については推奨グレードAとされている。
  一方,装置を選定する上で指標の1つとなるのが量子検出効率(DQE)である (図2)。DQEは,鮮鋭度の二乗をノイズ・線量で除した値であり,鮮鋭度が高いほど高い画像性能が得られる。フラットパネルディテクタ(FPD)の直接変換方式と間接変換方式の鮮鋭度を比較すると,乳房の中央部分や低線量領域などでも,間接変換方式の方が優れたDQE 値が得られる。
  また,マンモグラフィは,微小な石灰化や病変を見つけることが,きわめて重要である。『マンモグラフィガイドライン第2 版』および『乳房撮影精度管理マニュアル』では,検診施設画像認定の条件は,最小の微小石灰化クラスタが160μmのACRファントムにて240〜320μmの微小石灰化クラスタを検出できることとしている。つまり,デジタルマンモグラフィは100μmのピクセルサイズがあれば十分であり,実際に,50μmの装置と比較しても視覚的な評価では有意差は認められなかった(図3)。これらの理由により,当院ではピクセルサイズが100μmで間接変換方式のSenograph 2000Dを選定した。

図2 量子検出効率(DQE)と画像性能
図2 量子検出効率(DQE)と画像性能
図3 ピクセルサイズの違いによる描出能の比較
図3 ピクセルサイズの違いによる描出能の比較

2. 業務改善とスピード
 デジタルマンモグラフィで業務改善を図るためには,FPDである必要がある。なぜなら,カセッテの交換と現像業務が不要となるため,2方向撮影でも1時間あたり12名以上,検診バスでは1日100名以上の撮影が可能で,撮影直後に画像の確認ができ,検査スループットが飛躍的に向上するからである。
 これに対して,モニタ診断では,画像の濃度調整や,拡大して細部を観察することなどが必要になり,読影のスループットは低下する。そのため,読影用モニタは,ピクセル数と解像度のバランスが重要となる。例えば,100μmの画像を5Mピクセルのモニタで表示すると,ちょうど1対1のピクセル等倍で観察することができるが,25μmの画像を等倍表示するためには,かなり拡大しなければならず,その作業が加わるために,スループットが低下する。また,同一症例,同一撮影日の100μmと25μmの初期画像を比較したところ,5Mピクセルのモニタで表示した場合は,100μm 画像の方が鮮明に描出された(図4)。結果として,100μmの画像の方が視覚的に小さな病変や石灰化が判別しやすい印象があり,拡大作業に伴うストレスも軽減されるため,スループットの改善につながる。
 こうした業務改善が重要な理由は,安定した検診の継続につながるからである。実際に,当院では2007年に検診センターのシステムをCRからSenograph 2000D に更新したところ,検査数は年間2600件から5300件へと倍増し,さらに,モニタ診断を導入したことにより,スタッフや装置を増やしていないにもかかわらず,2009年は検査数が7300件となり,業績の黒字化を実現した(図5)。

図4 5Mピクセルモニタにおける100μm(左)と25μm(右)の画像の比較
図4 5Mピクセルモニタにおける100μm(左)と25μm(右)の画像の比較
図5 検診センターにおける業績の変化
図5 検診センターにおける業績の変化

3.拡張性
  Senograph 2000Dにおける主な拡張性は,コンピュータ診断支援(CAD)と,初期画像最適化ソフトウエア“Premium View”,マンモトームの3つがある。CADには,再現性・一貫性があり,二重読影の役割を果たしてくれるといった利点がある。ワンクリックするだけで画像が最適化されるPremium Viewと組み合わせれば,より生産性や質の高い検診が可能になる。
  また,Senograph 2000Dは,振動や温度といった環境対応に優れており,電気代がかからず,検査スループットがきわめて高いため,当院では検診バスにも採用しているが,加えて,CADとPremium View,5Mピクセルのモニタによって読影効率を上げたことで,検診バス事業も2009年に初めて黒字化した。
  次にマンモトームだが,GE社のデジタルマンモグラフィでは,座位と側臥位で,非常に簡単かつ正確に施行することができる。しかも,普段は日常診療にも使用できるため利便性が高い。導入時には,マンモトームの必要性や,ごく小さな病変を見つけることに対する疑問もあったが,近年では,画像診断の着実な進歩によってますます小病変が増加しており,たとえ2.3cmであっても切開生検のための手術痕は無視できないこと,画像診断の進歩に伴う確定診断の進歩の必要性があること,マンモグラフィ検査が生存率を上げる唯一の手段であること,などの理由から,乳がん専門病院としてマンモトームは必須であると考える。
  切開生検では施術に約40分かかっていたが,マンモトーム生検では全行程が20分以内であり,痕も残らない。当院では乳がん患者が非常に増えているが,マンモトームの導入が確診度の向上と早期がん発見に大きな効果を発揮していると考えている。


4.採算性
  モニタ診断のためのモニタやサーバはきわめて高価だが,検診事業においては,人員を削減でき,フィルム代もかからず,スループットが高いため,採算性はきわめて高いと言える。一方,日常診療という観点から考えると,一般撮影やCTなどと比べて,デジタルマンモグラフィでフィルムレス運用を行うためのコストはきわめて高い。しかし,2008年の診療報酬改定によって,デジタル映像化処理加算が2009年度で廃止される方向で減額されたのに対し,電子画像管理加算が新設され,乳房撮影に60点が加算されるようになったことなどにより,外来診療におけるモニタ診断の可能性が大きく広がった。図6は,装置やモニタ,サーバのコストを加味した上での経営試算だが,診療報酬が改定される2010年4月以降は,1日の検査数が20名以上になると,フィルムレス運用での経済的効果が生じてくる。
  ただし,当院では当初,導入コストを抑えるために,3MピクセルモニタとフリーのDICOMビューワソフトウエアを採用したが,3Mピクセルモニタでは淡い石灰化が描出できず,またビューワソフトも高精細グラフィックカードに対応しておらずモニタの性能を引き出せないため,後で5Mピクセルモニタと専用ソフトウエアへシステムへと大幅に変更せざるを得なかった。きちんと採算をとるためには,こうした点も十分考慮する必要がある。

図6 外来診療におけるモニタ診断の経営試算
図6 外来診療におけるモニタ診断の経営試算

5.遠隔読影
  遠隔読影の最大の目的は,検診フローの改善である。例えば,自治体検診などにおけるフィルム読影での検診フローは,撮影後の作業はすべて手作業であり,郵送でのやり取りになるため,数日から1 週間程度の時間が必要である。一方,遠隔読影では,撮影後にインターネットでデータをやり取りし,即日に読影可能で(25μm画像の場合は翌日),時間も2日に短縮される(図7)。
  実際に遠隔読影を行って得られたメリットは,依頼元の施設ではマンモグラフィの読影業務がゼロとなるため,乳腺専門医を雇用する必要もなく,しかも乳がん専門病院と連携しているということで,受診者の増加につながっている。また,当院側においては,読影件数の増加というスケールメリットが生まれ,読影事業が確立することで採算性が向上し,診療圏が拡大する。遠隔読影に必要なシステムは,読影用モニタとレポーティングシステム,VPN回線のみであり,安全性も確立されているため,これらをそろえれば,すぐに遠隔読影を始めることができる。当院では現在,1日に120件以上の遠隔読影を行い,今後も増加予定である。

図7 遠隔読影による検診フローの改善
図7 遠隔読影による検診フローの改善

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s まとめ

 理想的ながん検診は,高品質で迅速なレポート作成と,より多くの依頼に対応することであると思われる。これらは,デジタルマンモグラフィおよび最適な読影システムの導入による業務改善,精度・読影スピード・採算性の向上などのすべてが実現されて,はじめて可能になるものである。デジタルマンモグラフィの活用により新しい診療の可能性が生まれ,そのことが,乳がんによる死亡率の低下にもつながっていくと考えている。


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●GEヘルスケア・ジャパン 機器展示ブース
 
GE ヘルスケア・ジャパンブース
GE ヘルスケア・ジャパンブース
手前は超音波診断装置「LOGIQ E9」
デジタルマンモグラフィ「Senograph DS Depister」
デジタルマンモグラフィ
「Senograph DS Depister」
マンモグラフィ用ワークステーション「SenoAdvantage2.1」
マンモグラフィ用ワークステーション
「SenoAdvantage2.1」
マンモグラフィの画像をワンタッチで最適化する“Premium View”を搭載しているほか,オプションでCADも搭載可能。
 
同社ブースでは,実際の乳がん検診の流れに沿った展示を行った。検診から経過観察までを含め,マンモグラフィや超音波での検査や精査,MRIによる広がり診断までのすべてのステージで,画像診断を生かすための製品を展開していることをアピールした。

GE社のデジタルマンモグラフィについてはこちらをご参照ください。

●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp